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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第313話 街を歩けば振り返られる美女

「なんだかんだ二人でお出かけするなんて、久しぶりかしら?」


 周囲から振り返られる美人こと玲子さんと歩いていると、ふとそんなこと言ってきた。

 確かに、ここ最近は色々な出来事が起き過ぎて玲子さんと出かけたことってなかったかも。


 とはいえ、玲子さんとは学校でもよく顔を合わせている。

 なので、休日であろうとあまり特別感がないというのは贅沢か。

 今だって可愛らしい服を着てるけど、それはあくまで玲子さんを輝かせる要素でしかないし。


「確かに、休日でこうして二人で遊びに行くことってなかったかもね」


 前に休日で出会ったのって、確か勇姫先生だし。

 その前だと永久先輩で、それで考えれば玲子さんと二人で歩くのなんていつぶりだろ?

 基本的に、平日に色々と起きるから記憶が曖昧なことが多いな。

 ともあれ――、


「今日のために、俺も一応考えてきたよ」


「なんだかだんだん手慣れてきてるわね」


「そ、そうかなぁ.....」


 まぁ、もてなし精神が向上してないと言えば、嘘になるか。

 俺とてせっかく仲良くしてくれてる相手には好意うんぬんで楽しんでもらいたいし。


 そう考えると、俺もだいぶ陰キャからかけ離れてきた気がする。

 陰キャと自認してはいいけど、自称は出来なさそうだな。


 だからこそ、玲子さんのプレイボーイを見る目が若干刺さると言いますか。

 それに関しては、実に言い訳しようもなく申し訳ありません。

 そんなことを思っていると、玲子さんのジト目が途端に緩んだ目元に変わる。


「ふふっ、冗談よ。拓海君の状況的を理解してないわけじゃないし、そうなるのも当然だわ。

 それに、何事も数をこなせば上達するのは当然だもの。

 拓海君も男の子としてだいぶ磨きがかかって来たんじゃない?」


「そうなのかな?」


「そうよ。前よりもずっとカッコよくなってると思うわ。見た目も中身もね」


 そうストレートに褒められるとめちゃくちゃ照れ臭いな。

 成長するにつれて褒められることが少なくなるから、些細な言葉で自己肯定感が上がってしまう。

 我ながらチョロいな。だが、嬉しいんだから仕方ない。


「でも、そのプラン......私に任せて貰う事って可能かしら?

 お店とか既に予約してる場合は、それだけ教えてもらえれば構わないわ」


「いや、今のところは何も。いくつか候補は見繕ってあるけどね。

 だから、もし食べたいものがあれば、ある程度候補を挙げられるよ」


「......やっぱり、ここまで手慣れてると少し不満だわ」


「急に意見が180度変わるじゃん」


 ここら辺の女心の変化の理由は、相変わらず苦手である。

 これでも結構女子と関わってきたからわかると思ったら全然だ。

 おっかしいなぁ、何がダメだったのか。全然わからない。


「それじゃ、玲子さんに任せるよ。それでどこ行くの?」


「そうね.....といっても、具体的な所は何も。

 強いて言うなら、行ってみたい服屋さんがあるから、そこまで街ぶらデートってところかしら」


 つまり、今回は水族館や動物園、遊園地のような特定の施設で遊ぶのではなく「のんびりいこう」ってことか。


 確かに、ここ最近はずっと美玻璃ちゃんがベッタリで俺的に忙しかったからありがたい。

 それに別にこれといって何かするわけじゃなく、街を歩くってのも好きなんだよな。


「私、こうして街を歩くのが好きなのよね。

 特に理由もなく散歩しながら、普段見ない場所を見て回ったりして」


「丁度俺も同じことを思ってたよ。

 こんなのあったんだとか、ここなくなったんだとかね。

 知ると面白いし、無くなったら少し寂しい気持ちにもなったりで感慨深いよね」


「そして、逆に気になるのを見つけて立ち寄って、それが美味しかったら少し満たされた気分になるの。

 また今度行ってみようかなって思ったりもしてね」


「わかる。思い切って寄ってみたら当たりのお店で『美味っ』ってなるのが、嬉しかったりするんだよなぁ」


 なんか久々にすっごく他愛もない会話している気がする。

 いや、他愛もない会話は常々してるんだけど、今日は新鮮というか。

 休日で玲子さんのオシャレな姿を見ている効果もあるのだろうか。


 それからというもの、俺達は互いに色んな店に立ち寄りそこで少しずつ買い食いしたり、本屋に立ち寄ってみたり、あえておもちゃ屋に立ち寄って色んなフィギュアを眺めたりと、玲子さんお目当ての服屋に行くまでの間に色々な場所へ立ち寄った。


 そして、のんびりしながら服屋へ移動すると、そこで玲子さんのファッションショーが行われる。

 今とは違う清楚系から、ガーリー系、ストリート系、大人系と色々な衣装を見た。


 そんなお金を払いたくなる光景に、見ていたのは俺だけではない。

 もちろん、最初は俺だけだったが、次に店員が立ち止まり、その次は近くの客、さらにその次は客の友達とどんどん増えていき、やがて10人近くが玲子さんの衣装チェンジを楽しみにするという始末。


 それが終われば、今度は店員がオススメコーデを玲子さんに着てもらい、モデル玲子さんによるマグロの解体ショーのような魅せる商品紹介が始まった。


 本来なら成立しないような状況だが、あいにく玲子さんの人慣れは凄まじい。

 なんせ大女優をしていたほどの人物だからな。もはや魅せ方を知っている。

 そのためか、一時的にその服屋ではお祭りのような盛り上がりを見せた。


―――一時間後


「ごめんなさい。ついつい興に乗ってしまったわ」


 服屋から買ったものに加え、お礼として受け取ったいくつかの袋を手に俺達は近くのファミレスに移動すると、そこで玲子さんから謝罪を受けた。

 向かい側に座る彼女を見ながら、俺は手を軽く上げて否定する。


「いやいや、謝ることないよ。俺としてもいいものが見れたって思ってるし。

 まぁ、まさかあの場所でゲリラファッションショーが行われるとは思わなかったけど」


「もともといくつかの服を拓海君に見てもらいたかっただけなの。

 でも、なんというかこう......他の人にも見られてるとわかった瞬間、仕事スイッチが入っちゃって。

 もう戻ってきて一年が経過するっていうのに、職業病って抜けないものね」


「そりゃ当然じゃないか? だって、明らか女優していた時間の方が長いんだし」


 そう返答しながら、俺はメニュー表を逆さに見る。

 もちろん、本来の向きで玲子さんに見てもらうためだ。

 というのも本来、玲子さんのプランによると、ここで昼食を取る予定は無かったらしい。


 しかし、思ったよりファッションショーが長引いてしまい、結果体力が先に尽きる。

 故に、吟味するはずの店選びにかける余裕がなく、近場のファミレスとなったのだ。

 そして、そこで適当に互いの注文を済ませると、俺は話を続ける。


「そういうや、玲子さんは今回も女優をやるの?」


 俺としてはさっきの出来事を踏まえての何気ない質問だった。

 しかし、玲子さんは腕を組んで少し考えると、


「そうね、縁があればやってみてもいいけど、私から望んではやらないわ」


「そうなの? 向いてるのに」


「それは慣れてるからよ。それで食べてきたし。

 でも、本来その仕事を始めたのは、私が拓海君に自分を見てもらいたかったって目的があるから。

 どこにいるかもわからないあなたに届けるための映像ラブレターのようなものね」


 そう言って、お冷を一口飲み、口を湿らせると続ける。


「だけど、もうその必要はない......でしょ?」


「それに同意を求めるのはズルいと思う......」


 少し小首を傾げて聞いてくる玲子さんの悪魔的可愛さたるや。

 まるで掌で転がされてる気分になるのに、それが悪く無いと思う俺のチョロさ。

 その二つが絶妙に噛み合って、やたら恥ずかしい。


 というか、平然とこの人「ラブレター」とか言ったよ。

 恥ずかしげもなく言うから、照れてる自分がアホらしく感じる。

 ともあれ――、


「俺の個人的な意見を言うなら、やっぱりああして輝いてる玲子さんを見るのは好きだな」


 あの服屋での光景を見てる時、俺は大女優時代の玲子さんの輝きを思い出した。

 当時はテレビの向こう側に映るだけの光景だったが、それでも眩しかった。

 人を魅了する美がそこにあり、それは独占されるべきものではない。


 確かに、玲子さんには俺に知ってもらいたかったという目的があったかもしれない。

 だけど、そこまで輝いたのは、玲子さんに人を楽しませるという才能があったからだ。

 そこで鍛え上げられた技術が俺のせいで終わるのは酷く悲しい。


「俺はもともとその時が楽しければいいという刹那主義で、自分が頑張れないから頑張れる人が好きなんだ。

 今だと随分違って見えるかもしれないけどね。本来はそうなんだ。

 だから、磨かれて磨かれて輝きを見せる玲子さんを俺はもっと見てみたいと思う」


 そこまで言って、俺は自分の意見が押しつけがましいと気づく。


「あ、といっても、あくまで俺の意見だから。

 それに、今から決めるべきでもないしね」


「そうね.....でも、参考にさせてもらうわ」


 俺の言葉に対し、玲子さんが目を逸らしながら、コップを両手で持ちお冷を飲む。

 まるでその冷たい水で頬の赤みを引かそうとしている光景に、俺はふと見惚れた。

 そのやたら甘い空気に、料理が届いた後もしばらく食べる気が湧かなかった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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