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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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310/321

第310話 随分と質問を先送りにしたな

 昼休みの興奮が胸に燻り続けながら迎えた午後の数学の授業。

 普段なら普通に集中したいところなのだが、今はこの時間が癒しとなっていた。

 もはや理由は言わずもがな、玲子さんの一件に関してだ。


 今日と言う日、俺は美玻璃ちゃんのテストを受けて動いてるわけだが、その実玲子さんの思い通りに動かされてるのではないか? という疑問が沸々と浮かんでしまう。


 玲子さんは昔(一度目の人生)からも優秀な人物であったことは認識してる。

 それは学生の頃からそうであり、でなければ大女優という未来も迎えなかっただろう。

 つまり、「地頭がいい」と俺は言いたいのだ。


 そんな頭の良さであれば、俺の行動を予測して、さらに美玻璃ちゃんを使って上手く誘導してこういう道筋も辿れたのではないかって思えてしまう。


 もちろん、俺自身が穿った見方をしている可能性もある。

 というか、状況証拠しかない現状を考えれば、ほぼその可能性としか言えない。

 この思考だってあくまで憶測の域は出ないのだから。


 だから結局、こんな風に考えたところで出たとこ勝負しか俺の選択肢はない。

 問題は、その勝負の最中、俺が対処に困るものしか出てこないことだが。


「――んじゃ、東大寺、それから物憂げな早川、答えてみろ」


 そんなことをぼんやりと考えている最中、数学の教師に指名された。

 視線を黒板に意識を向けると、それぞれ二つの問題があり、それを答えれるらしい。


 正直、さっぱり考えてなかったが、あれぐらいなら板書しながらでも考えられるか。

 数学なら俺も今なら得意って言えるし。


 というわけで、俺は席を立ち上がると、細い机同士の間を取って黒板へ。

 すでに黒板で板書を始めてる東大寺さんと横並びになると、俺も板書を始める。


「......早川君、大丈夫?」


 垂直に掲げられた黒板にチョークで文字を書くという動作に苦戦していると、隣にいる東大寺さんから小声で話しかけられた。

 あまりに急な問いかけだったため、その解釈に時間がかかると感じ、俺はすぐに尋ねる。


「何が?」


「玲子ちゃんのことに関してだよ。

 玲子ちゃんからある程度事情は聞いてるから知ってるけど、美玻璃ちゃんのテスト大変みたいだね」


 一体何をどこまで聞いているのか気になる所だが、なんだか藪蛇になりそうなので止めよう。

 となると、俺としても漠然とした回答しか出来ないけど、


「まぁ、そうだね。なんせ美玻璃ちゃんは玲子さんファーストだからね。

 どんな状況の時でも玲子さんの手となり足となりで.....でも、そうしなきゃ俺の中でもキッチリと答えを出せないと思うから。

 俺は俺の役割として美玻璃ちゃんの信用を得ようと考えてる」


「真面目だね」


「当然、それが俺が皆に見せられる唯一の誠意なんだから。

 だから、たぶん.....いや、ほぼ絶対これからもお二人にご負担を強います」


「うん、わかったよ。でも――」


 そこまで言うと、琴波さんは一拍置くように板書の手を止める。

 それから、顔だけを俺の方に向けると、なんだかイタズラっぽい目つきで、


「あんまり放置しすぎると、構って欲しくなるかもだから気を付けて」


 その一言、笑みも合わさって酷く蠱惑的に感じた。

 いや、実際明るいだけではない何かがそこにはあり、それが色気へと昇華されてる。


 光属性キャラが見せる嫉妬という闇の部分だ。

 ヲタク男子的に大歓喜なシーンだろう。

 俺とてそれが漫画やアニメの場合であれば、どんだけ気持ち悪い笑みを浮かべたことか。


 しかし、現実にそれも自分の身に降りかかるとなると......なるほど、確かにドキッとするが、これには二重の意味があったんだな。


 そんな会話も程ほどに、東大寺さんが先に板書を終えたので、俺も素早く書き終える。

 その後、東大寺さんの板書した答案からケアレスミスが出た時には、なんだか彼女らしいなと少し安心してしまった。


―――放課後


 ついにこの時間を迎えてしまった。

 となれば、俺は予定通り玲子さんの執事としての振る舞いをしなければいけない。

 これから玲子お嬢様にどんな命令を下されるか戦々恐々していると、


「拓海君、今日はお願いがあるのだけど、二人で買い物に行ってくれない?」


 と、思ったよりも普通のことを頼まれてしまった。

 正直、また抱えて下校する羽目になったらどうしようと思ってたので、ちょっとホッとしている。

 ともあれ、二人で買い物ぐらいなら問題ないか。


「いいよ、玲子さんの買い物に付き合えばいいんだね」


「いえ、私ではないわ」


「え?」


 俺の仲の良いいつメンも教室を去り、僅かばかりの生徒が残る教室の中で俺の声が少し響く。

 そんな俺の疑問の声をよそに、玲子さんが視線を向けた先は――教室のドアだ。


 もっと正確に言えば、そのドアから覗き見ている美玻璃ちゃんだろうか。

 その視線の意図を察し、俺はより詳細な説明を玲子さんに求めた。


「俺と美玻璃ちゃんが買い物してこいってこと? どうして?」


「そうね。言うなれば、拓海君の力で上手くやって欲しいと言う他力本願な思いかしら」


 それは俺の行動で美玻璃ちゃんの現状を変えて欲しいということ?

 そんな疑問を抱えた直後、玲子さんが畳みかけるように聞いてくる。


「拓海君は今の美玻璃ちゃんの現状をどう思う?」


「どう思うと言われても、まだ関わるの二回目だしな。

 だから、あくまで俺の現時点での主観から感想を言わせてもらえるのなら、結構なシスコンだなぁと」


「えぇ、それは私も常々思ってることだわ。

 私としても自分を慕ってくれる可愛い妹を無下にしようとは思わない。

 ただ、もう少し友達との大切な時間を過ごして欲しいと思うの」


「まぁ、姉からすればそうだろうね」


「......」


 俺のサラッと返答した内容に、玲子さんが黙る。

 加えて、妙にじっと見つめてくるため、何か失言したのではないかと思ってしまう。

 すると俺が答える前に、玲子さんは再び口を開き、


「拓海君、やっぱり先のお願いは一週間後に変更していいかしら?」


「まだ随分と先の予約をするね。もちろん、いいけど」


「ありがとう。それから、一週間後に同じ質問をしていいかしら?」


「同じ質問?」


 それは美玻璃ちゃんの現状についての質問って解釈でいいのか?

 今から一週間後となると、丁度月曜日だから来週の月曜日ってことか。


 今の玲子さんの向ける視線からも真剣さを感じる。

 つまり、この会話内容も彼女にとって生半可な覚悟で言ってないということか。

 ということは、美玻璃ちゃんのシスコンにも何か理由があるのか?


「わかった。俺に出来ることなら協力させてもらうよ」


「その返事を期待していたわけだけど、いざ聞くとここまで心強いとはね。

 やっぱり、私は拓海君を好きになって良かったわ」


「それをこのタイミングで言うかなぁ.....それに、まだ何もしてないのに」


「愛を伝えるのにタイミングなんて必要ないわよ。

 私が言いたかったから言っただけ」


 あまりに不意打ちなセリフにドキッとする暇も無かったような。

 されど聞いてしまった今、じわじわと羞恥心がこみ上げてくる。


 足元からじわりじわりと炙られて、痛くはないが酷く体に熱を感じた。

 なんだかいち早く夏を先取りしたような気分だ。


「お姉ちゃん、遅くなっちゃった! あ、早川先輩もいたんですね」


「そりゃ同じクラスだからな。それに、俺はまだテスト中だろ?」


「――っ! えぇ、その通りです。良い心がけです。

 では、予定通り――」


「拓海君、荷物運びの時間よ。

 では、私は荷物になるから運んでくれないかしら」


「お姉ちゃん......」


 美玻璃ちゃんが何かを言う前に、玲子さんは恥じらいも無く両手を伸ばす。

 その姿はまるでイチャつくことを強要する彼女のようで可愛らしいが、あまりにも素早い行動にさしもの美玻璃ちゃんでも若干引き気味だ。


 そんな空気感の中、その後の俺は、玲子さん達食卓の買い物袋の荷物運びという一番楽な方法でテストを締めくくったのであった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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