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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第298話 お返しのホワイトデー#2

 無事、母さんにホワイトデーのお返しが出来たところで、俺の任務はまだ終わらない。

 むしろ、今日という日は始まったばかりであり、これからが本番である。


 そんな焦るような、ビビっているような妙な胸の重さを抱えつつ、支度を済ませた。

 いつも通りの朝、いつも通りの時間、しかしいつも通りではない心持ち。

 そんな日常へ、俺はドアを開けて繰り出した。


 俺の朝は、一般学生の登校時間よりは早いため閑静な環境が続く。

 その環境、光景はいつも通りなのに、やはりいつも通りとは言い難い。


 たぶん、それは前回のバレンタインデーが受け身の姿勢だったかだろう。

 受け身であれば、アクションを起こすのはあくまで相手側。

 こちらはただ起きた事実を受け止めればいい。


 しかし、ホワイトデーは違う。攻守が逆転する。

 アクションを起こすというのは、その場の環境に変化させるということだ。

 そして、変化には当然リスクが伴う。


 だから、人は「安定」を求める。

 自分の居場所、自分の状態、人間関係など様々な事柄にテキトーな理由をつけて。

 「安定」しているのなら、自分に失敗という不利益は起きないのだから。 


 かく言う俺も彼女達の関係において、「安定」を求めた人間である。

 もちろん、今は関係性を変えるための努力をしているが、まだそこには至らない。

 となれば、このホワイトデーはそのテストという解釈でいいかもしれない。


「まぁ、世の男子からすれば、ある種本番なのかもしれないけど」


 俺の場合は少々事情が異なるため、世間一般には当てはめられない。

 しかし、来る日のためを思えば、このイベントは大切にこなさないといけない。

 ましてや、彼女達には散々お世話になったのだ。今更無下に出来ようか。


「けどまぁ、せめて学校に着くまでは安寧の時間を過ごしたいよな――」


「拓ちゃん」


「――っ!」


 まるで一級フラグ建築士の如く、素早いフラグ回収をこなした俺。

 もちろんだが、俺にはそんな意思はないし、むしろ望んでいなかった。

 しかし、そんな俺の都合とは正反対に、背後から聞こえてきた声。


 その声は正確に人物の特定をし、だからこそ驚いてしまう。

 だって、俺が知っている彼女であるなら、こんな朝早くには来ない。


 それこそ、前までは早かったが、段々ゲームでの夜更かしが長くなり朝起きるのが遅くなっていったのだ。

 故に、彼女が早起きしているのはある種の異常事態。


「拓ちゃん、おはよう!」


 人々が太陽に向かって目線を向けるように、俺も後ろの主張に振り返る。

 すると、そこには太陽に負けないぐらい眩い笑顔を放つゲンキングがいた。


 もはや、その姿に隠れ陰キャという印象はない。完全な陽キャ。

 陽キャでスキンシップ多めのヲタクに優しい......というか、ヲタクそのもののギャルだ。


 さながら、陰キャヲタクの理想を詰め込んだような少女がいる。

 その眩しさに、俺の目も少々焼けてしまいそうだ。


「.....おはよう」


「うん? なんだか元気ないね。どったの?」


「え、いや......ゲンキングがこんな朝早いの珍しいなって」


「あー、たまには朝早く起きてるのも悪く無いかなって。

 ほら、拓ちゃんも知ってる通り、私はよくゲームして遅くまで起きてるでしょ?

 だから、こうして長く寝ないとやっていけない日もあるのさ」


「それがたまたま今日だったと」


「そう、今日!」


 そう元気よく返事するゲンキングの笑顔が眩しく、少々俺の頬も強張る。

 さっきも言っていたが、この登校時間ぐらいは平穏でいたかった。


 心構えを作るという意味合いで特に欲していたのだ。

 そりゃまぁ、前回同様に玲子さんあたりがいることも想定していたけど。


 まさかその予想の斜め上を行かれるなんて想像もつかないじゃないか。

 それに、今日に限ってはゲンキングは受け身のせいか強気だ。


 とりあえず、声をかけられた驚きのあまり心臓が口から飛び出そうなほど激しく動いているので、こういう時こそ冷静でいるために、少しだけ話で場を繋ごう。

 そして、俺は歩き出すと同時に話しかけた。


「もうすぐ春休みだね。となると、もうじきクラス替えか」


「そうだね~、なんというか今年はあっという間だった気がする。

 振り返って見ると余計にそう感じて、なんだか時間が足りない!って感じかな」


「それだけ濃密な時間を過ごしたってことでしょ。

 それに、別に去年が特別ってわけじゃないし、今年だって同じように過ごそうよ」


「そうだね。でも、同じは少し嫌かな......」


 スクールバックを後ろ手にした両手で持ちながら、ターンターンと足を伸ばして歩くゲンキング。

 そんな彼女の口から放たれた言葉を、俺はジャブだと感じた。


 もちろん、意識のし過ぎだと思うので、すぐには反応しない。

 特に、ゲンキングにはその気持ちを見抜かれたら最後、蛇のように絡みつかれる気がする。

 それがここ最近の彼女からの認識だ。


「嫌ってのは?」


「え~、それをわざわざ言わせるつもり~?

 拓ちゃんってば、案外ズルい人だよね。無知を装うのは良くないと思うよ」


「.....そういうゲンキングこそ、随分と人が変わったんじゃない?

 出会ってからと今を比べると、態度とか雰囲気とか変わった気がするし」


「変わったってどんな風に?」


「たぶんどの男子に聞いても『ヲタクに優しいギャル』って思うよ」


 弱廃人ゲーマーであることは除き、ゲンキングが自力で叩き上げた社交性スキルは中々のものだ。

 特に、雰囲気というものは大事で、それは第一印象に直結する。


 その雰囲気が、ゲンキングの場合は温かいのだ。

 かつて俺が冗談交じりで言っていた「太陽神」という言葉が、今では板につくほど。


 暑すぎず、かといって触れられない距離感でもなく。

 その絶妙な距離を保つゲンキングに脳を焼かれた人間は、男子に限らず女子にも多いだろう。


 実際、女子からのゲンキングの評判は高いものって勇姫先生から聞くし。

 そんな俺の褒め言葉に対し、ゲンキングはなぜか眉根を寄せた表情を作り、


「えぇ、それってそんな陰キャ男子から貞操観念が緩そうって思われてんの?」


「それは薄い本の見すぎじゃないのか?」


「そんな見てないよ!」


 「そんな」というと見てはいるのか。

 根が陰キャから出来たゲンキングに対する冗談半分のツッコみだったんだが。


 なんだったら、「なんだコイツ」と言われるぐらいの言葉だったはずだったんだが。

 むしろ、それ以上に気まずい返答が返ってきてどう答えればいいかわからん。


「と、ともあれ、それぐらいにはゲンキングの印象は変わったってことだよ。

 ......いや、むしろ変わってないのか? 本性がバレてないってことだもんな。

 それどころか、『嘘から出たまこと』ってのが正しいかもしれん」


「ってことは、今は拓ちゃんもわたしを陽キャって思ってんの?

 あんな派手な生き方してないと思うけど。てか、ただのゲーマーだし」


「そこは認識の相違だな。

 陽キャだって派手じゃないやつはいるだろうし、ギャルだってゲームをする。

 今のご時世は多様性だよ? 別に悪いことないんだからいいじゃん」


「それはまぁ、そうなんだけど......」


 そうフォローを入れてみるが、ゲンキングは妙に歯切れの悪い反応をする。

 そして時折、俺の方をチラチラと見ては唇を震わせ、


「拓ちゃんはどちらかというと陰キャなわけでしょ?」


「自分以外に言われると中々クる言葉だな、間違っちゃいないけど」


「だとすれば、やっぱり派手な子は苦手なんじゃない?

 まぁ、私が今更変えるのが難しいって話なだけなんだけど」


 ふむ、それはつまり陰キャは「派手<清楚」を好むんじゃないかってことか。

 まぁ、今のご時世だと陰キャとて身の振り方を弁えてるわけだし、ヲタクに優しいギャルが現実にはいない......とは言わないが、特別指定天然記念物には変わりない。


 となれば、陰キャの男子が相手の好みに「清楚」を求めるのは当然の流れで、失敗をしたくない弱小男子理論からしても「清楚」の方が失敗率が低いと思われるから動きやすい。


 実際、ただの偏見で全然そんなことは無いだろうし、真に人を理解するには話さないとわからないわけだけど。

 俺の固定概念をぶち壊してくれた勇姫先生のように!

 ともあれ――、


「俺個人の意見からすれば、物凄く今更な話だよ。

 俺はゲンキングが最近陽キャだなって思うけど、だからってこれまでと変わらないし。

 むしろ、昔からのゲンキングを知ってるからスゲーって思うし」


「そ、それじゃ、今の私の方が好きってこと?」


「.....そうだな、そっちの方がいいと思うな」


 なんだか急にストレートパンチをかましてきた気がするが、なんとか受け流せただろうか。

 今の俺でその言葉を安易に口にするのは憚られるから避けたんだけど。


「はは、そっか。うん、そっかそっか」


 俺の様子を伺う表情一方で、ゲンキングは嬉しそうに頷いた。

 一体何に対して納得したのかわからないが、一先ずなんとななったようだ。

 そのことに、俺は胸に手を当てホッと一息吐いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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