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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第292話 今度から運動系で挑もうと思う

 開幕、ボーリングから始まった永久先輩とのデート。

 その対決ではダブルスコアみたいな点数でボコボコにされた。


 その際、実力だとどうにもならないため、言葉巧みにあの手この手で妨害してみての結果がこれだ。

 だから、余計に惨めになり、その姿を先輩に鼻で笑われる始末。


 先輩からすれば、俺という存在は実に道化に映っただろう。

 というか、その何物でもなかったような気が。

 だからといって、そこでヘコみ続ける俺ではない。


「先輩、音ゲーとかってやったことあります?」


「いえ、こういう類は一切触ったことないわ」


「なら、せっかくだからやってみましょう」


 ボーリング対決が終わり、俺は先輩を誘ってゲーセンコーナーへ移動した。

 やはり、こういう商業施設に来たならば、ボーリングだけでは味気ないというものだ。


 それに、やっぱりやられっぱなしというのは癪である。

 というわけで、俺の分野であるここに先輩を連れてきたというわけだ。

 こう見えても、俺は定期的にゲンキングのサンドバッグにされてる経験がある。


 彼女との勝負での勝率は極めて低いが、そこで培ったスキルというものはあるはずだ。

 これで先程勝ち誇っていた先輩の鼻を明かしてやる。


「なんだかあなたの姑息で陰険な面が透けて見えるわね」


「あーあー聞こえない」


 隣の先輩からジト目と一緒にチクチク言葉が送られてくるが、俺は耳に手を当てて対処。

 それがわかっていてついてくるのだから先輩が優しいのか、俺が小物なのか。


「でも、これであなたが負けたらそれこそ無様な姿が見れるのね」


「ハッ、早々見せてやりませんよ!」


「そこは『吠え面かかせてやる』ぐらい言いなさいよ。

 なんで絶妙に負ける未来が見えてるの。自信を持ちなさい」


 と、先輩からの謎の励ましを貰い、店内BGMが激しいエリアまでやってきた。

 耳に直接音をぶち込まれているかのような音は相変わらず苦手である。


 ゲンキングと度々行ってるから慣れたと思ったが、あの時は集中してたから音をシャットアウトしてただけか。


 隣にいる先輩をチラッと見るが、気にしてる様子はない。

 今更ながら、ここは先輩が好きな静穏な部屋とは真逆の環境である。

 こんな所へ連れてきて気分悪くなったりしないだろうか。

 そんな心配の視線が届いたのか、先輩は目線だけを俺に向けると、


「どうしたのよ?」


「いえ、ふと冷静になってこんなうるさい場所に連れてきて良かったものかと」


「実に今更な疑問ね。だとすれば、前提が間違ってるわ。

 ここに連れてきたのは私なのよ? 一応、下見したからでどういうお店かは知ってる。

 その上でここを選んだのだから、あなたが私に気遣う必要はないわ」


「......下見なんてしてたんですね」


「......言葉の綾よ」


 その返答は無理があるんじゃ、と思っていれば、案の定顔が赤い。

 「しまった」とでも言いたげに下唇を噛み、中央に寄った眉根が悔しさを滲ませている。


 恥と悔しさ、足し合わせて屈辱という言葉がふさわしい表情がそこにあった。

 もう、これは明らかな先輩の自爆なわけだが、それを引き出した俺の手柄でいいんじゃなかろうか。


 つまり、これで散々からかわれてきた先輩の意趣返しが成功した......というには、あまりにラッキーパンチすぎるが、少しは溜飲も下がるというものかも――


「こっち見んな」


「ぐぇ」


 まじまじと見すぎたせいで、先輩の肘鉄が鋭く俺の脇腹を抉る。

 割と強めの衝撃が俺の皮下脂肪を突き抜け、内臓に到達したためにダメージボイスが漏れてしまう。


 そんな俺に対し、先輩が謝るということはもちろん無く、むしろ睨まれるぐらいだ。

 まぁ、これが俺達の距離感みたいなものなので今更気にしたことはないが。

 そんなこんなで俺は一つの音ゲーの台の前にやってくる。


 タイミングよく画面をタッチするだけのタイプのやつだが、どうやら俺は反射神経は良いらしい。

 そう、あの廃人ゲーマーゲンキングとも、これなら張り合えるのだ。


「先輩、見ててください。俺の実力」


「自分の得意分野でイキるのはダサいわよ。

 それと、どうせ負けるんだから無駄な張り合いは止めなさい」


「今に見せてやらぁ!」


 先輩の売り言葉を高値で買い、俺は台の前で集中した。

 そして、目の前で流れてくる横棒や波線、長い縦棒を高速で処理していき、やがてフルコンプ。

 ちょっとグッドが多かったが、スコア的にも「25695」点だったので。悪くはない。


「どうですか、先輩。これに勝てますかね?」


「あなたが自信満々なのは見ててウザいわね。

 やっぱり、あなたはワタシにいいように掌で転がってるのがお似合いよ」


「だったら、見せてみてくださいよ」


「えぇ、わかったわ。もう()()から」


 先輩の最後の言葉、たった一言になぜか体に悪寒が走った。

 一抹の不安が過ったとも言い換えられるが、なぜ急に? いや、気のせいだ。

 そう思うことにし、先輩のプレイイングを見る――絶句した。


 一言で言えば、そう、素人の動きではないのだ。

 先程の俺の動きをトレースしているというか、いや、それでいて自分のタイミングで微調整している。


 結果、俺の時よりもパーフェクトが量産されていて、それいてコンボミスもしていない。

 え、何それ、何の特殊能力? そんなの知らない。え、すっご。


「――ふぅ、こんなもんかしら」


 そう言って、やり切った感を演出するように手で額を拭う先輩。

 同時に、台から退いて見える点数は「28593」点と明らかに俺より高い。

 そもそもグッドの数が少なくて、代わりにパーフェクトが多いのだ。

 グッドが多くて、パーフェクトが少ない俺とは逆。


「そ、そんな......」


 見せつけられる現実に、膝が折れてしまう。

 それによって低くなった俺の視界の高い位置から先輩が見下ろした。

 腕を組み、実に小気味いいと口を弓なりに歪めて。

 一言も発さないことが、かえって俺の小ささを見つけているみたいに感じる。


「まだだ」


「ん?」


「まだ、負けてねぇ!」


「なら、見せてもらいましょうか」


 というわけで、その後エアホッケーと、スポッチャがあったのでスローイン勝負で勝負してみれば、案の定運動神経はクソ雑魚だったので、勝つことができた。


 ただ、その際「それで勝手嬉しいの?」となんか挑発を受けたので、遅めの昼食を取った後はそのままフェアな勝負が出来そうなカラオケに移動。

 そこで自分の得意な歌でのカラオケ三番勝負という運びになった。


「~~~♪」


 ここ最近、筋トレ中に聞きまくって歌詞を覚えてしまった俺の十八番。

 それを最後まで歌い上げ、締めのビブラートを利かせれば完璧だ。

 気持ちよく歌い切った俺は、そのままの表情で先輩を見る。


「どうですか!?」


「どうですかって言われてもねぇ......」


 そう言って、先輩は目線をテレビ画面の方へ向ける。

 その画面に映ってる点数は「92.8」点と普通に高得点だ。

 それに対し、何かを言いたそうな先輩は、それでも何も言わずマイクを手に取ると、


「それじゃ私の番ね」


 そう言って、先輩が歌い出したのは聞き覚えのある曲だった。

 確か、最近話題のアニメソングで、バラード系のやつだった気がする。

 テンポの起伏は基本一定みたいな感じだけど、サビだと盛り上がる的な。


 先程から音域の広い声で綺麗に歌い上げる先輩だが、それ以上に気になるのがアニソンだ。

 厳密には、有名なアーティストの曲なのでアニソンではないのだが、それを知ってることが驚き。

 ましてや、それをフル曲で知っているなんて。


 学校の合唱ソングで歌われる類なら未だしも、最新に先輩が触れてるとは思わなんだ。

 やがて、先輩は最後まで歌い上げる。

 最後の息継ぎなしの7秒ぐらいのロングブレスも含めて。


「おぉ~」


 勝負が始まってからの、何度目かの脱帽拍手。

 素直に声質が良くて音程も合ってるから聞き惚れてしまうというか。


「さっきからずっと思ってたんですけど、意外と音楽聞くんですね」


「あなた達と関わるようになって、多少話題について行けないと苦しいと思ったよ。

 ただ、私のやりたいことに変に時間を取られたくなかったから、聞くだけでいい音楽にしたの」


「なんだか若者についていきたいおじさんみたいな言い方ですね」


「そこ、うるさいわよ。

 けどまぁ、意外とハマってしまって今では作業用としてプレイリストも作ってしまったわね。

 これもあなた達と出会わなければ見なかった景色ね」


 そう言って、先輩は頬を綻ばせる。率直な感想というのが伝わってくる笑みだ。

 そんな会話をしていると、テレビ画面に採点表が映し出され――


「『96.4』点。どうやらまた私の勝利みたいね。ふふっ、ストレート勝ちね。

 ハンデまで貰っておいて負けるなんて、ダサいわね」


「ぐぬぅ、反論の余地もねぇ......」


 先輩と始めたカラオケ三番勝負。

 その結果は、先輩の言った通り、ストレート負けだ。

 俺の自信満々の曲三選はどれも90点台を出すには至った。

 がしかし、先輩はそれの上を簡単に超えていき。


 しまいには、二点先取で先輩の勝ちだったところを、「最後の一曲で勝てたら勝ちにして!」という俺の願いを聞いてもらった上で負ける。確かに、ダセェ。


「ふふっ、何してもらおうかしら」


 落ち込む俺の横で、先輩は実に上機嫌な様子で横に座る。

 わかりやすい勝者と敗者の図だ。

 にしても、まさかここまで先輩がやるなんて。


「お、お手柔らかにお願いします......」


「大丈夫よ。私の願いは簡単だから」


 そこまで言葉にして、先輩が一度息を吸って吐いた。

 そして、数秒後に溜めていた言葉を吐き出すようにして口を開き、


「今度私が『必ず』と言ったら出来るだけ断らないで。

 もちろん、家族の用事であればそれを優先してもらえばいいから」


「先輩?」


「すぐって話じゃないの。

 でも、言いそびれるとどんどん言葉にしづらくなりそうだったから。

 だから、今の内にって感じで。予約は早めの方がいいでしょ?」


 それがどういう真意の言葉かわからなかった。

 が、単純な感情だけで言った言葉ではないと理解した。

 だから、うん、


「わかりました。必ず空けておきます」


「よろしい。それじゃ、もう少し歌いましょ。今、そういう気分なの」


 そう言って、立ち上がった先輩がそっと手を差し出す。

 どうやら先輩からデュエットのお誘いらしい。

 となれば、断るのは野暮というものだろう。


「えぇ、お供しますとも」


 そして、先輩と気が向くままに、帰る時間になるまでカラオケを楽しんだ。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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