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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第283話 勝手に自爆してた感が否めない

 シャワーを浴び、寝るための準備はほぼ整った。

 とはいえ、時刻はまだ20時半であり、寝るにしてはちと早すぎる。

 というわけで、琴波さんの提案で映画を見ることになった。


『キャアアアァァァ!』


 そんな叫び声が暗くした部屋の中に響き渡る。

 唯一の光源であるテレビでは、声の主である女性が追いかけてくる殺人鬼から逃げ惑っているところだった。


「......拓ちゃん、食べる?」


「え、あ、うん......せっかくだし頂くよ」


 死に役の女性が、臨場感を演出しようと森の中を走り回る。

 そんな緊迫した状況の中、琴波さんは一人じゃ〇りこを貪っていた。


 リスのようにカリカリカリとリズミカルに嚙み砕きながら、無言で眺め続ける。

 そして時折、俺の方へ意識を向けては、おすそ分けをくれる――それが今だ。


 なんというか意外過ぎるというか、シュールな絵面というか。

 正直、琴波さんがホラー系にここまで耐性があるとは思わなかった。

 彼女がホラーに驚かないイメージが想像つかないもの。


 それに、この映画を提案された時、ぶっちゃけ邪推した。

 よくある「吊り橋効果」的なものだと思って。

 実際、これまで熱烈アピール的なものがあったし。


「ホラー映画ってよく見るの?」


「う~ん、たまにかな。なんか面白そうなものあったらって感じで。

 あ、でも、夏の特番とかでやる奴は毎回見てる気がする」


「あ~、あの、本当にあった的なやつ」


「作り物感すごいけどねぇ~」


「全部作り物だからね。本物あったら逆に嫌だよ」


 互いに映画を見ながら、顔を見合わせることなく言葉を重ねる。

 チラッと横目で隣を見れば、テレビの映像に合わせて色とりどりに染める琴波さんの横顔があった。


 特に、瞳なんかは潤いによる光の反射もあって綺麗だ。

 例えるなら、SNSに流れる絵師さんの描いたキャラクターの瞳のように鮮やか。


「ん? どうしたの? そんなにこっち見て」


 瞬間、横目のカチッと視線がぶつかり、首を横に向けた琴波さんの怪訝な声色が届く。


「え、ぁ........」


 不意を突くような反応に、俺は咄嗟に言葉が出なかった。

 映画そっちのけで琴波さんを見ていたという事実に、妙な気恥ずかしさを感じて。


 別に、邪な考えを抱いていたわけじゃない。

 しかし、一応意識した相手ではあるので、何割増しか魅力に映ってそれで。


 とはいえ、「絵画のように美しかった」なんてキザったらしい言葉を言えるわけでもなく。

 そんな返答に戸惑う俺に対し、琴波さんは疑問を深めるように首を傾げ、瞬間、「あっ」と声を漏らし――


「食べたい?」


「え?......あ、いや」


「遠慮しなくていいから。ほら、あ~ん」


「――っ!?」


 一瞬、琴波さんの奇跡的なすれ違いに助らてたと思ったのに、もはやそれ以上の事態が発生した。

 琴波さんは左手にお菓子の箱、右手にスティックを持ち、その右手を俺の口に近づける。


 その顔はニッコニコであり、そこから見える邪気は無し。

 ただ純粋な好意として、俺にお菓子をおすそ分けしてくれるようだ。


 だがしかし、俺が今の俺にとって致命的に辛い。

 邪気のない暴力に、俺は嬉し恥ずかしで顔真っ赤。

 幸い、部屋が暗いから表情変化に気付かれてないだろうけど、それでもだ。


「ほら、拓海君、あ~~~」


 きっと今の琴波さんは雰囲気に酔っている。

 だからこそ、自分の行動が客観視出来ていないのだろう。

 自分がどれだけ大胆な行動に出ているかということに。


 普段の猪突猛進さが威力を増して襲い掛かってきている。

 その突進に俺は跳ね飛ばされ、組み敷かれてる気分だ。

 そう言う意味だと、イノシシよりゴールデンレトリバーの方が近いかもしれない。


 とにもかくにも、このまま状況に飲まれるわけにはいかない。

 それにずっとこの状況を彼女に強いるっていうのも。

 であればこそ、俺は彼女の好意を誠意で受け止める!


「ん」


 琴波さんが短く言葉を切ったと同時に、俺はスティックを口に咥えた。

 そして、ゆっくり口の中に舌を使って押し込み、顔を正面へ戻す。


「......」


 顔を両手で覆うと、そのまま静かに前かがみになった。

 口の中にサラダ味が広がり、同時に目の前から悲鳴が轟く中、やたら口の中は甘かった。


****


 2時間半と意外に長尺だった映画も見終わり、時刻は23時。

 就寝時間には十分な時間帯だ。特に、俺のような優良健康児は。


「それじゃ、そろそろ寝よっか」


「そうだね。ん~~~、さすがに二本目はいいかな」


 ソファから立ち上がり、右腕を伸ばし、左手を頭の後ろで肘を掴むようにして伸びをする琴波さん。

 上半身を逸らす際に、少なからず主張する膨らみに目を背けつつ、自分の寝床について尋ねた。


「そういや、俺はどこで寝ればいい? 親父さんの部屋?」


「ん? 私の部屋だけど」


「........ん?」


 聞き間違いか? と思って見てみれば、真顔で返答していた。

 まるで俺の方がおかしな返答をしたみたいに。

 俺は思わず目頭を指で揉み、


「......どういう意味?」


「そのままの意味だけど」


「俺が琴波さんの部屋で布団を敷いて寝るって意味合いでOK?」


「同じベッドで寝るって解釈でもいいけど。シングルで良ければだけど」


「布団が良い。布団派だから!」


 と、そこまで言って自分が琴波さんの部屋で寝る事前提で話していることに気が付いた。

 彼女の言葉の真意を確かめていたのに、いつの間にか論点が変わっている! 不味い!


「琴は――」


「よーし、それじゃすぐに準備してくるねー!」


 咄嗟に手を伸ばした俺であったが、琴波さんの動きはそれよりも早く風のように移動した。

 もっとも、ドタドタドタと風にしては重たい音が階段から聞こえたが。


 もはやこうなった彼女は止められない。というか、ゲストは俺だ。

 ただでさえ無遠慮にも泊めさせてもらってるのに、これ以上ホストに迷惑はかけられない。


 という形で恥ずかしさの隠れ蓑にしつつ、俺は落ち着かない気持ちを胸に階段を上がった。

 完全に寝る準備を整え、俺は琴波さんの部屋に入る。


 再び女子の部屋特有のちょっと甘いニオイと、それに加えたシャンプーのニオイが出迎え、俺の意識から一気に眠気が覚める。

 こんな状況で寝れるだろうか。否、眠れるはずがない。


「本当にベッドじゃなくて大丈夫? その、今なら......たぶん我慢できるから」


「ほ、本当に大丈夫。持病で医者から布団で寝なさいって言われてるんだ」


「お医者さんからそんな申告受けることあるんだ......」


 もちろん、今のは提案を断るための方便だ。

 もっとも、なぜか真に受けてる気がするが、この際気にしないでおこう。


 俺は布団の上に座ると、照明のリモコンを手に取り、琴波さんがベッドに寝そべったのを確認して――、


「消すよ」


「うん」


 リモコンを押し、ピッと起動音とともに部屋が暗くなる。

 なんだかんだあったが、こうなってしまえばこっちのもん。

 後は寝るだけ......なのだが。実はそれが一番難しい。


「......」


 簡単に言えば、気が高ぶって眠れないのだ。理由は言わずもがな。

 とりあえず、目を閉じて、無心になってみるが、無心になれているかどうか。


 というか、無心になるってどういうことだ?

 無心になるって時点で考えてるはずだし、でも無心は考えないことを指す。


 であれば、無心になるという時点でその前提は崩れてるはずで、人間が無心になってる状態ってのは単なる思い込みで、


「.......寝れん」


 目を閉じてどのくらい経っただろうか。

 目を閉じて寝ようと苦心していると意外と時間が経過してることがある。


 それこそ、5分や10分はザラに経過しているだろう。

 となれば、体感10分経過してると思ってるのは、実はもう30分以上経過してるんじゃ――


「ひっ!」


 モヤモヤした思考に時間を割いていれば、不意に柔らかい感触に声が漏れた。

 振り向くまでも無く漂うシャンプーの香りに、俺は頭を悩ませる。


「.......琴波さん?」


「......すーすー」


 小声で声をかけてみるが、返答は無し。

 代わりに聞こえてきたのは、可愛らしい穏やかな寝息のみだ。


 どうしてここにいるのか、どうやって気取られず侵入できたのか、なぜ背中から抱き着いているのか。


 問い質したいことは山ほどあるが、さすがに寝ている人を起こしてまでやるような無粋な真似はしない。

 というか、できない。なぜなら――、


「えへへ、拓海君、手作りハンバーグどうぞ......」


 こんな可愛らしい寝言を聞いて起こせるはずがない。

 代わりに、無粋の極みである息子が起床してしまったのだが。


「これはもう耐えるしかないか.......ハァ」


 そっとため息を吐き、背中から感じる安心感に苦笑いしながら、俺は目を閉じる。

 そんなこんなしていると、いつの間にか眠ってしまったようで――朝の彼女は、常に顔を赤くしながら挙動不審だった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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