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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第271話 バレンタインの乙女達#6

 昼休みから時は進み、今は帰りのホームルーム。

 そんな俺の心はウハウハである。

 理由は言わずもがな、バレンタインチョコを貰ったからだ。


 俺がこれまでバレンタインデーでチョコを貰ったことがあっただろうか。

 覚えている限りではないな。

 高校生はもちろん、中学生でもない。

 中学に入ったら極端に女子との接触が減ったし。


「......」


 ふと周りを見渡した。

 視界に捉えるのは、クラスメイトの男子だ。

 これといって変わった様子はない......ように見えるが、俺にはわかる。


 あれは平静を装っている顔だ。

 なぜなら、明らかに表情が落ち込んでいるように暗いから。

 そりゃもう、雰囲気からしても「コイツ暗っ!」って感じるよ。


 そういや、どこかの本で「人間は変化に気付ける生き物」と書いてあったな。

 違和感に対して敏感になることで、危険を遠ざけるだかなんだか。


 つまり、いくら表情を隠そうともバレるということだ。

 それは雰囲気だったり、口調だったり、仕草だったりと色々な点で。


 ともかく、この観察から何が言いたいのかというと、少し優越感を感じる.....ということだ。

 うん、性格が悪いですね。わかってます。自覚ありますとも。


 しかし、わかってくれ。

 他の男子が貰えてない中、自分は貰えているというこの状況。

 さながら他よりも一つ上の階段にいるような感じなのだ。


 男たるものメンツで生きてる部分もある。

 そのメンツが他よりも勝ってるってんだから調子にも乗っちまう。

 もちろん、俺はそれを表に出そうとは思わないけどね?


―――キーンコーンカーンコーン


 チャイムの音が聞こえた。

 ホームルームが終わり、放課後の時間となった。

 多くの生徒達が帰宅やら部活やらで教室から離れていく。


―――ピロン♪


 スマホに着信が来る。

 この時点で俺はうぬぼれ全開で確信していた。

 これは残り二人のうちどちらかだと。


 もうここまで来たら、強欲なるままに全てのチョコを貰いたい。

 プライドだとか、調子乗ってるとかも全部どうでもいい!

 俺はチョコが食いたい! その気持ち一つでスマホを見た。


『来なさい』


 一言。ほんとうにこれだけ。

 その言葉を見ただけですぐにわかった。

 それよりも誰から通知が来たかを見るよりも早く。


「......行くか」


 ソワソワとする気持ちを押さえつつ、俺は素早く帰り支度をする。

 するとその時、俺の机に近づいてくる陰に気付いた。

 男子制服特有のチェックのズボンが見える。どちら様?


「拓海、少しだけいいか?」


「空太か」


 放課後に空太から声をかけてくるなんて珍しい。

 大地が部活の時は大抵隼人と帰っているか、一人直帰してるはずなのに。

 まぁ、隼人も彼女持ちになったわけだし、誘いずらいとかか?


「どうしたんだ? 隼人関連?」


「いや、アイツは関係ない。どちらかと言えば女子関連だ」


「っ!」


 珍しっ、空太からそんな単語を聞くなんて。

 コイツ、めちゃくちゃ女っ気がないし、本人も気にしてないしな。


 とはいえ、一部の女子は好意を持っている.....というのをゲンキングから聞いたことがある。

 もしかして、その女子の誰かから呼び出されたとか!?

 空太にもついに春の巡りが......!


「え、相手は?」


「柊だ」


「......」


 ......なんでだろう、失礼だがあまり良い気がしない。

 そりゃまぁ、俺にとっては最低なイメージがこびりついてるからなんだけど。

 それはそうと、お前らってまだ関係性続いてたのか?


「空太、一つ確認いいか?

 お前と柊さんはまだ、その......付き合ってるのか?」


「言わんとしてることはわかる。

 それに関しては、俺からもハッキリ言った。

 『俺とこれ以上いるメリットがお前にあるのか』ってな」


「思ったより剛速球で言ってるじゃん.....」


 空太がそんなにもハッキリ物を言えたなんて。

 俺の中では、お前はちい〇わの側面を持ってると思ってたぞ。

 そんなことを思った矢先に、空太は胸を張って答えた。


「ふっ、当然だ。なぜなら、俺には隼人大明神がバックにいるからな」


「情けない理由で安心したぜ」


 つまり、お前はち〇かわからス〇夫にクラスチェンジしたってことだな。

 だったら、まだ〇いかわの方が良かったと思うぞ。


「んで、肝心の柊さんは、それに対してなんて言ったんだ?」


「『日立君は良くも悪くも毒気がないから、しばらく男避けとして使わせてもらう』とかなんとか。

 そんなセリフを怒ったように顔を赤くしながら言ってたぞ」


「.......ほぅ」


 その言葉を聞いて、俺はなんとも言えない感情に駆られた。

 というのも、柊さんは恐らく隼人と同じタイプであるからだ。

 つまり、周りを自分の都合の良いように動かすタイプ。


 他人を動かすとなれば、まず頭が良いのは大前提だ。

 だって、指揮者がバカであれば、操ってる人に足元をすくわれるから。

 逆に言えば、そのタイプの人に限って特定の人物を必要としない。

 なぜなら、自分一人でどうにでもなるから。


 とはいえ、隼人のような「自分の利益のために才能ある他人を教育する」タイプでもないだろう.....柊さんは。


 少なくとも俺はそう感じるし、だからこそ、その言葉におかしさを感じる。

 つーか、あの人、勇姫先生と椎名さん以外でそこまで感情出すのか?


「なぁ、そんなに怒ってたのか?」


「そんなに.....いや、一般的な大声で言う感じじゃなかったぞ。

 どっちかて言うと、声は小さかったし、顔をそっぽ向けられながらって感じで」


「......ちなみに、それを言われたのはいつ?」


「昼休みだ。で、そん時に『放課後時間ある?』とも聞かれたな。

 出来ればお前と二人のタイミングで相談を持ち掛けたかったんだが、あいにく放課後になってしまった」


「ゴーだ、空太。今すぐ迎え」


 俺はさっと右手を廊下に向けながら、空太に指示を出した。


「え.....あ、うん。わかった」


 空太は戸惑いながらも、コクリと頷き、荷物を持って教室を出ていった。

 そんなアイツの後ろ姿を見ながら、どことなく不思議な気分になった。

 なんというか......スピンオフで紡がれるラブコメみたいだな。


―――ピロン♪


「うん?」


『来い』


 あ......うす。最速で行きます。


*****


―――白樺永久 視点―――


 お気に入りであり、もはや私物化している空き教室。

 L字型に並べられた二つの長机の最奥(窓際の位置)に永久はいた。


「......ハァ」


 開きっぱなしのノートパソコンの前で、レイソ画面のスマホを両手で持ち、大きく息を吐く。

 そんな画面の入力欄には「寂しいから」と送信前の一文があった。


「キャラじゃない......」


 そう呟き、永久は誤送信する前に素早く文字を消した。

 あくまで自分は上でなければいけない。

 後輩にマウントを取られるとか癪でしかない。


「にしても、呼ぶだけなのにこんな緊張するなんてね。

 これまでは平然とできてたのに.....今日がバレンタインデーだから?」


 いつもなら一言呼び寄せて、来るまでの時間に執筆か資料集めをしていた。

 にもかかわらず、今日に限ってどうにも手につかない。

 それこそ、何も。何もだ。一体どうしたというのか。


「ラブコメ作品のヒロインの言動を鼻で笑っていた自分が愚かだったわ......。

 まんま自分も変わらないじゃない。でも、今なら感情移入出来る気がする」


 そう言って、使っているパイプ椅子の横にある紙袋を永久はチラッと見た。

 そこには店員に包装してもらった小さな箱がある。

 言わずもがな、拓海にプレゼントするためのものだ。


「これで本当に良かったのかしら.....」


―――コンコンコン


「っ!」


 ビクッと体を震わせる永久。

 しかしすぐに、姿勢を正し毅然とした態度を作る。


「失礼します」


 拓海が来た。ここからが勝負だ。

 絶対に主導権を握らせるな。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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