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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第270話 バレンタインの乙女達#5

―――元気唯華 視点―――


 屋上のドア前の踊り場。

 そこには拓海と一緒に昼食を取る唯華の姿があった。

 そんな彼女は表面では平静を取り繕いながらも、内心不安でたまらなかった。


(こ、これでいいのか.....?)


 自分がやろうといていることは、いかに拓海を手玉に取るか。

 それは翻弄するという意味よりは、こちらに意識を向けるという方に近い。

 しかし、それが出来ているのかと問われれば......不安だ。


(とはいえ、何も動かなければ変わらなそうなのも事実)


 相手の気持ちを変えるのは容易ではない。

 それこそ、拓海に限って言えば、それを嫌というほど理解させられた。

 であれば、多少無理してでもこちらから変わるしかない。


「......」


 しかし、不安だ。不安がさっきから消えない。

 この天然ムーブ的なものをしようと思ってから、腹を括ったからやること自体は問題ない。


 とはいえ、ネットでたまたま見つけた方法で、本当にこちらの誘導に乗ってくれているのか。

 良くない方のワザップじゃないだろうな? だとしたら許さんぞ。


「......そういや、拓ちゃんはもう誰かに貰った?」


 唯華は膝の上に置いた弁当に、箸を載せた両手をそっと合わせる。

 同時に、しれっと拓海にそんなことを聞いてみた。


「うぇ!?」


 ......というのが、拓海の反応だ。

 明らかに虚を突かれたような反応だ。

 しかも、驚き方が「え?」という聞き返すような感じじゃない。

 これはつまり――、


「それは......その......」


「別に隠さなくていいよ。どうせ遅かれ早かれ誰かは先に渡してると思ったし。

 それに、こういうのって想いって言うでしょ? だから、わたしは気にしないし」


 嘘である。めちゃめちゃ気にしてる。

 でなければ、そんな質問をわざわざする必要ないし。

 自分の許容の狭さにちょっと笑えない。

 とはいえ、誰が先に渡したのかは気になる。


 なんだったら、それはもう食べたのか。

 味は? 形は? 受け取った時どう感じたのか?

 それすらも気になり始めてきた。

 ちょいと余裕なさすぎやしないか、自分。


「......琴波さんから朝登校してすぐに、ありがたいことに貰えました」


 拓海は当時のことを思い出してか、頬をかきながら照れ臭そうに答えた。

 同時に、チラッと唯華に向ける視線には、答えることに対する申し訳なさも感じる。


「なるほど、琴波ちゃんか~。確かに、朝登校早いもんね。納得だよ」


 そう言いながらも、内心自分の行動力の低さに頭を抱える唯華。

 自分はレイちゃんや永久先輩のように、どっしりと構えてマイワールドを作るタイプじゃない。


 どちらかというと、小手先の技術でもって数で勝負するタイプだ。

 もしくは、相手が動くよりも先に動くことでアドを取るタイプ。

 でなければ、たぶん勝負にならないだろうから。


(くっ、朝が弱いことを考慮して早く寝れば良かった......)


 今日が決戦の日であることは前々から分かっていたのだ。

 その日に調整して寝る時間を決めるのはゲーマーとして当然のこと。

 だって、イベントはいち早くやりたいし。


 しかし、これ以上嘆いたって仕方ない。

 時間はもう戻らないのだ。

 少なくとも、二番手にはこぎつけた。

 それを生かすも殺すも自分次第。


「......ちなみに、もう食べたりした?」


 ここ重要! 捲る最後のボーダーライン!


「いや、まだかな。教室じゃ殺伐としそうで食べずらいし、移動して食べようにも休み時間10分の間に人気のない場所に移動っていうのは無理があるかなと思って」


(ここだ! つけいるスキ!)


 そう感じた唯華は、チラッと腕時計を確認する。

 問題ない、時間はまだある。拓海の昼食のペースを鑑みても時間はある。

 つまり、アドを取り返すチャンスということだ。


「ふーん、そっかそっか」


 唯華は淡白な反応を見せる。

 同時に、拓海が昼食を食べ終わるのを虎視眈々と待った。


*****


 ゲンキングと雑談して、俺はお弁当を食べ終えた。

 食べ終えてしまったというべきか。

 待てど暮らせど、一向にそういう「渡す」空気感になる様子は無し。


 正直、俺が欲深くなってるのは理解している。

 琴波さんの時もそうだったが、状況がそうさせてしまうのだ。

 だからってやっぱり自分からねだるのはなぁ.......。


「ねぇ、チョコ欲しい?」


 その時、ゲンキングが少しニヤニヤした顔でそう言ってきた。

 まるでこっちの心情はお見通し言わんばかりの表情だ。

 なんか最近彼女達のこういう表情をよく見る気がする。

 ......俺の気のせいだろうか。


「......っ」


 俺は返答するためにゆっくり口を開けた。

 しかし、いざこう聞かれるとなかなかどうして言いずらい。


 欲しいのは確実だ。しかし、どうにも口が上手く回らない。

 羞恥心が頭に思った言葉を言うのを躊躇わせてる。


「欲しくないの? 自信作なのになぁ......」


 そう言って、ゲンキングが紙袋から透明な小さな袋を取り出した。

 丸い形のお菓子が入ってる。あれはマカロンか?


「見てみて、これちょこマカロン。美味しそうでしょ?」


 その問いかけに、言葉に出ない代わりに全力で首を縦に振った。

 すると、彼女の口端の角度は一層深みを増した。


「じゃあ、欲しいって言ってくれなきゃなぁ......」


 この時、俺は完全に理解した。

 これは完全に流れを持ってかれていると。

 そして、口調が優位を取ってる時のゲーマーのそれになっていると。


 ゲンキングはゲームで調子が良かったり、戦績が良かったりするとても機嫌がいい。

 いや、それ自体はさして問題ないのだが、若干調子に乗った感じになる。


「早く言いなよ。本当は欲しいんでしょ? ほれほれ」


 たぶん精神的に余裕があるからそういう状態になるのだろう。

 もっとも、そういう時は大抵その数分後にボコボコにされてしょげるのだが。


 しかし、今は状況が違う。ここはゲームの世界ではない。

 ましてや、もうその姿を俺が「可愛い」と思ってる時点で負けている。

 つーか、この姿が可愛く感じないはずがないだろ!


「ほ......ほし――」


「んじゃ、あげる。はい、あーん」


「――っ!?」


 目をギュッと瞑り、喉から振り絞って言葉を出そうとしたその時。

 口の中にマカロンが押し込まれる。

 すぐさまチョコの風味と味が口の中に支配した。

 つーか、今「あーん」ってされなかった!?


「どう? 美味しい?」


 首をコテンと傾け、ゲンキングは覗き込むような角度で聞いてくる。

 口元から隠しきれないニヤニヤが見られるのは、俺の表情から答えをわかりきっているせいか。


「お、美味しいです......」


 なんとか出した声はへにゃへにゃにうわずっていた。

 もはやここまで動揺しているを見られるのも恥ずかしい。

 ドッドッドッと心臓が跳ね続ける。

 琴波さんとはまた違った空気感で心臓に悪い。


「良かった」


 俺の返答に、ゲンキングは柔らかい笑みを浮かべた。

 先程のこちらをリードするような雰囲気とは違い、包み込むように温かい。

 そう分かった理解した瞬間、体が発火した。

 全身に炎を纏ってるように熱い。


「んじゃ、私は一足先に教室に戻るよ」


 マカロンが入った袋を俺に渡すと、ゲンキングは立ち上がった。

 そして、軽い足取りで階段を下りていく。

 ポニーテールがぴょんぴょんと跳ねていた。

 それから少しして、彼女の姿は見えなくなる。


「......ハァー、とんでもなかった」


 大きく息を吐いて、先ほどまでうまく吸えなかった空気を一気に取り込んだ。

 たった一度の動作でここまで動揺させられるとは。

 我ながらチョロすぎるのでは――、


「よっしゃああああ! 渡せたああああ!」


「っ!?」


 その時、下の階層から大きな叫び声が聞こえてきた。

 まるで高いレート帯のバトロワFRSゲームでチャンピオンになったような声だ。


「......ぷ、はは、あははは」


 その声を聞いた瞬間、同じ気持ちだったのだとわかって安心した。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

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