第265話 ゲーマー少女は探りたい#2
簡単な作戦を立てた唯華は、早速実行に移した――と、その前に目的を今一度少し整理しよう。
まず一つ目が、そもそも拓海はバレンタインにお菓子を貰うのが嬉しいのか、だ。
ここを間違えれば、全ての計画が破綻する。
もっと言えば、好感度も大暴落待ったなしである。
二つ目に、お菓子系だとすればどんなものが好みなのか。
例えば、チョコでも濃厚な生チョコであったり、さわやかなミントチョコ、ポピュラーなイチゴチョコなど色々ある。
どんなギャルゲーでも攻略対象に適切なプレゼントを贈るのは当たり前だ。
なぜなら、それが好感度上げに栂なるのだから。
加えて、今はマルチエンド回収のための好感度調整ではないのだ。
目指すハッピーエンドに向けて、相手の好みを探らなければ。
「なんかさー、ゲームやってると妙に甘い物欲しくなるよね。
脳死でやってる厳選作業とかと違ってさ、普段使わない頭を使ってるかもしれない」
『それはなんかわかる。つーか、この時代からゲームって割とマルチタスクだったんだな。
若い頃の自分ってなんだか凄かったんだな。よく夢中で続けてたよ』
「なにジジ臭いこと言ってんのさ。同い年でしょ?
まぁ、拓ちゃんは普段ゲームはあんまやらないしで仕方ないと思うけど」
『そ、そうだよ。俺は普段やらないからな』
なんだか焦ったような返答であったが、順調な会話の入り出しだ。
となれば、次は本題に入るのみ。まずは拓海にお菓子は有効なのかどうか。
「今さ、ア〇ロ食べてるんだけどさ。
いいよね、このイチゴ味とチョコ味の絶妙なバランス。
あ、そういうや、拓ちゃんはあんまお菓子とか食べないんだっけ?」
『そうだね。基本チートデイに設定した日にしか食べない。
見ていると抗いがたい食欲に飲まれるから、最近コンビニすらも行ってないかも』
「......それってつまり、チートデイなら食べるってことだよね?
ちなみに、今月のチートデイの有効券ってもう使っちゃたりした?」
『ん? いや、まだかな。というか、年末年始にちょっと食べ過ぎた感じもあるから、二月は我慢するのもアリかなとか思ってる』
よし、まだチートデイは有効だ。
それにお菓子を食べる言質も取れた――と思ったのも束の間、最後の言葉に前提が揺らぎ始めた。
今、何て言った? 「二月は我慢するのもアリ」?
この男、さてはバレンタインデーが近づいていることに気付いてないのでは?
バレンタインデー......ほぼ9割の男子であれば、その日を意識しないはずがない。
期待、羨望、妬みと感情は色々あれど、女子からチョコを貰えチャンスの特大アップデーなのだ。
であれば、捨てきれない期待を抱いて、その日に気付かないなんてありえない。
それこそ、生徒に限らずあらゆるメディアがその日を意識付けさせるっていうのに。
にもかかわらず、だ。
先ほどの声の抑揚からして本当に気づいてない可能性がある。
これはいいのか、悪いのか......若干判断がしづらい。
とはいえ、普通好意を受けている相手が明確な時点で気づかないのはおかしい。
(これは前にレイちゃんが言っていた過去の日々の影響なのか......?
まぁ、確かに何十年も一人で過ごして来れば、その意識は抜けるかも?)
例えゲームでその日を意識したピックが来ても、イベントとして消化すればそれで終わりだ。
もしかしたら、今の拓海にはその根底意識がこびりついているのかもしれない。
もしくは単純に忘れているかのどちらか。
どちらにせよ、チョコを受け取ってもらえないという事態は避けたい。
いや、そもそも渡したらその時点でチートデイに設定したりするのでは?
その可能性は大いにある。なぜなら、あの拓海であるから。
(だとすれば、このまま気付かないでもろて......いや、待てよ?
ここで最初に気付かせれば、後に忘れても私の言葉をキッカケにバレンタインデーを思い出すのでは?
ひいては、私を意識付けることができるのでは?)
そう考えた瞬間、唯華はニヤリと笑みを浮かべる。勝った、と。
その顔はさながらデス〇ートを持った某主人公のような顔で。
となれば、ここに新たなタスクを追加しよう。
ちなみに、この思考時間――わずか1秒。
「ちなみに、拓ちゃんってチョコのお菓子だったらどんなのが好き?」
『チョコで? あれってそんな種類あったか?』
「あるよ~。生チョコだったり、ガトーショコラだったり。
他にもチョコマカロンに、チョコクッキー、チョコマドレーヌ、チョコカップケーキとか」
『なんか無理やりチョコ要素で括ってないか、それ?』
拓海からの指摘に一瞬ビクッと反応する唯華。
実際、バレンタインに贈るプレゼント候補を列挙したので外れではない。
良かった、通話だけで。対面だったら確実に反応でバレていた。
すると、ヘッドホン越しに「そうだな~」と拓海の呟く声が聞こえ、すぐに「あっ」と声を零すと、
『あ、チョコチップスだっけ? アレ美味かったな。
ほら、揚げた薄切りポテトにチョコが纏ってあるやつ』
「あ~、あれね」
意外とマイナーなチョイスだな~、と思わなくもない唯華。
正直、コ〇ラのマーチやパイ〇実あたりを予想していたので反応に困る。
にしても、それが好きだとしたらば、プレゼントの有力候補にあがるだろう。
.......しっかし、なんとも地味だ。凝りようがない。
「他には何かないの?」
しかし、ここでめげるわけにはいかない。
こうして直接聞ける機会は、後にも先にも今限りだろう。
だとすれば、このチャンスを逃すわけにはいかない。
それに、これは他の三人と差をつけるチャンスでもあるのだから。
『他か~.....う~ん、チョコとは少し離れるけど、オ〇オとかも好きかな』
「っ! それって味がってこと? 食べ応えがってこと?」
『確かにそれもいいけど、どっちかっていうと味の方かな。
ほら、ワックとかにもその味のデザートとかあるじゃん?
半年前ぐらいに一度食べたくなって食べたけど、やっぱ美味いよアレ』
「なるほど、なるほど。拓ちゃんはオレオが好きと」
『え、なんかメモってる?』
唯華は忘れないうちに付箋に拓海の好物の味を記入した。
拓海からは何やら不審がられているが、あまりに聞いてこないので大丈夫だろう。
よし、味のベースはオ〇オに決まりだ。
「あとさ――」
『そろそろ始めなくていいのか? それとも、今日は一旦終わる?
俺はどっちでもいいから、ゲンキングは決めていいよ。
あ、でも、あんま遅くなるのは嫌かも』
「あ、うん。そうだね。そろそろやろっか」
唯華は付箋にチラッと目線を移しながら、そう返答した。
付箋には「ケーキ派かクッキー派か聞く」や「甘さはどの程度か聞く」など質問内容のメモが書いてある。
(ま、この調子なら後で聞いても大丈夫だろう......)
そう思った唯華は、一旦今の話を頭の片隅に寄せてゲームに集中した。
それから15後分後――
「くわぁ~~~~! あとちょっと! またあとちょっとだよ! 拓ちゃん、ワンモア!」
さらに30分後――
「やったー! 勝ったー! それもさっきよりも余裕がある状態で!
今の感覚良かった! となれば、忘れないうちに反復練習。
拓ちゃん、このあとのウェーブ少し付き合ってくれない?」
さらに1時間後――
「拓ちゃん、ラスト! もう次ボス戦だからさ!
ここまで来て止めれないでしょ? さぁ、盛り上がってまいりましたー!」
そして拓海とチョコ菓子の話をしてからあっという間に2時間が経過した。
ゲームの試合としては、十分に良い動きが出来た。
そのため今の唯華はとってもホックホクである。
『ゲンキング、俺、さすがに疲れた。頭痛い。先に落ちる。おやすみ』
「おっけー。おやすみー」
拓海が短く言葉を刻み、そして通話が切れた。
満足そうな顔でヘッドホンを外す唯華は、意気揚々と余った時間で動画編集をしようとしたその時――目の端に机に貼り付けていた付箋の存在に気付く。
瞬間、途端に唯華の気分は急停止。
それどころか絶好のチャンスを逃したことに大暴落していく。
あれだけ話を聞くための十分な時間があったのに。
「し、しまったああああぁぁぁぁーーー!!!」
夜も更ける頃、唯華は頭を抱えて叫び散らかした。
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