第264話 ゲーマー少女は探りたい#1
「全っ然わからん......」
白樺永久がバレンタインデーで悩んでいる一方で、元気唯華もまた悩んでいた。
当然彼女が考えていることもまた、バレンタインデーのプレゼントである。
「一応この日はレイちゃんにあげるために考えてたから、どういう文化かはわかる。
しっかし、レイちゃんに何をあげるのがいいのかパッと思いつくとしても、拓ちゃんに何をあげればいいかわからない」
唯華は根は陰キャである。今の陽キャは所詮仮の姿。
玲子と仲良くなるために作り上げた偽りのキャラクターである。
そして、そのキャラクターに沿って色々な行動を取って来た。
当然、バレンタインデーも欠かさず取り組んできた。
とはいえ、それはあくまで同性に対するバレンタインデーだ。
いわゆる「友チョコ」という文化で、友達であれば容易くこなせる行事。
しかし、今回は勝手が、否、相手が違う。
あげようとしているのは異性であり、もっと言えば好きな人。
そんな相手に自分をアピールしようというのだ。
難しくないわけがないと思っていたが、まさかここまでとは。
「レイちゃんの時はバレンタインといったらチョコだろって感じで渡してたけど。
拓ちゃんのために調べてみたら、なんかめっちゃあるじゃん......。
それにあげるもので内容決まってるとか......これ誰が決めたん?」
現在、唯華の自室。
彼女の目の前にある大きなディスプレイがある。
そして、そこに映し出されるバレンタインの日におすすめの商品。
そんな商品を見ては、唯華は頭を悩ませる。
即ち、この意味を気にしてプレゼントを選ぶのか、はたまた自分の感性を貫くのか。
「っていうか、クッキーを渡してなんで『友達でいたい』とかそんな感じになるんの?
あれか? クッキーはせんべいみたいに割れやすくて縁起が悪い的な?
てか、例えば相手がマシュマロ好きだとしたらどうなん?」
それはそれとして、唯華のヲタクの部分が「バレンタインに贈るお菓子の意味」に関して気にならせる。
それはさながらゲーム要素がメタ的視点で気になるように。
いや、これは正常な判断だろう。
仮に拓海がマシュマロが好きだとして、相手に好きなものを贈るのは当然だ。
それが一番喜ばれるのだから。贈るものとしても最善手のはず。
「う~ん、拓ちゃんって何が好きなんだ?
思えば、何もそう言う事知らない気がするし、本人も自分のことあまり話さないからな~。
もっと言えば、わたしが一方的に連れ回してるような感じがするし」
拓海は優しいから基本的に何でも付き合ってくれる。
その優しさに甘えている。いや、浸っているといっても過言ではない。
それ故に、考えてみれば自分の気持ちだけを優先させている気がする。
「さすがにこのままじゃ良くないよね......」
画面を見つめながらそう呟く唯華。となれば、早速行動あるのみ。
机に置いてあるスマホを手に取ると、慣れた手つきで両手打ちをし拓海へとメッセージを送信。
「これでよし.....と。一先ずファーストステージクリアだ。
となれば、次はセカンドステージ。ここが一番の勝負所だぞ私!」
―――数時間後
「だあああああ! クッソ~~~~! あとちょっとで勝てなかったぁ~~~!」
『惜しかったな。体力ゲージがミリだったから、後少し攻撃を与えられてれば勝てたかも』
唯華が作戦を実行したその日の夜、彼女はオンラインゲームに没頭していた。
今やっているのは、一言で言えばタワーディフェンスだ。
最大4人で出来るのだが、現在は拓海と二人の協力プレイ。
「後少し! 後少しなんだよ! くぅ~~~~!
けど、イケる! これなら絶対にイケる!
たぶんさっきのは相手の攻撃が上振れただけだから。
だって、あそこで大技を連発してくるとは思わなかったし」
『そうだな。次はイケるだろ。あ、次始める前に先にトイレ行って来る』
「行ってら~~~」
拓海の声が猫耳ヘッドフォンから聞こえなくなると、唯華は大きく伸びをした。
ゲーミングチェアにぐったりと座ると、腕を組んで先程の試合展開を振り返る。
「あの時序盤の動きは良かった。つまり、トラップの配置はあれで良かったってこと。
けど、セカンドフェーズで少しもたついて体力を削られ過ぎた気がする。
それに、一番多く敵が現れた拓ちゃん側のフォローも遅れた」
ぶつぶつと唯華は次のゲームの試合のために、先ほどのエラーを認識した。
そのための対策案もいくつか候補を出し、その中から有効そうな一手を決める。
今の唯華の脳は完全にゲーム脳になっていた。
家から帰ってきてすぐに調べたバレンタインの情報などどこへやら。
彼女の頭にはゲームに勝つための方法しかない。
「そういや、今何時だろ。ただでさえ一戦が長いから定期的に時間見ないと余裕で深夜帯突入しかねないから......あっ」
唯華がディスプレイに映る時計に目線を移したその時。
同時に、ディスプレイの下フレームに貼った大きめな付箋の存在に気付いた。
それは数時間前に、絶対にゲームに没頭する自分のために用意した戒めである。
『拓ちゃんにバレンタインのプレゼントで何が欲しいかそれとなく聞く事!
絶対に忘れんなよ、ゲームバカ!』
付箋に書かれていた内容だ。
自分自身を「ゲームバカ」と呼ぶあたり、こうなることが想像に容易かったのだろう。
そして実際、過去の唯華の予想通りに、今の自分はゲームに夢中のゲームバカとなっていた。
その事実に、「どうしよう! どうしよう!」と頭を抱えて慌て始める。
もはや今の頭はすっかりゲーム脳。
一応、用意していた聞くための流れはとっくに忘れてしまった。
流れてしまったのは自分のプランってか......全然笑えない。
『ただいま』
ヘッドフォンから拓海の声が聞こえてきた。
トイレから戻って来たらしい。
もうそんなに時間が経過していたか。
不味い不味い、今何もない。
不自然に聞いたらめっちゃ意識してる奴だと思われる。
いや、それも今更か?......いやいや、やっぱり恥ずかしい。
それに、ここで聞いてしまえばせっかくのサプライズ感も演出出来なくなる。
それでは他の三人に対して、差をつけることなど出来ない。
ただでさえ強敵ばかりなのだ。少しでもリードしなくては。
「お、お帰り~......あれ、拓ちゃんなんか早いね。もう済ましてきたの?」
とにかく今は時間を稼がなければ。
なんか変なことを聞いてる気がするけど!
『そうか? 別に普通だと思うけど』
「も、もう少しゆっくりしてきてもいいんだよ?」
『トイレってそんなゆっくりする場所じゃないと思うけど.....。
っていうか、ゲンキングは早くやりたいんじゃないの?』
「あ、花むしってきます!」
『あ、うん。そんな急がなくても良いから』
心配するような拓海の声をよそに、唯華は自ら「タイム」ならぬ「トイレ」を取って時間を稼いだ。
とはいえ、それでも稼げてせいぜい数分といったところだろう。
それまでの間にザックリでもいいから作戦を考えねば。
「えーっと、まずはマイクをオフっと」
ヘッドホンを外し、念のためディス〇ードの音声をミュートにし、腕を組んで考え始める。
しかし、先ほどのゲームの時とは違い、あまり浮かばない。
というか、それとなく聞くとは一体どういうことなのか。
それとなくって何? それってどのくらいの距離感?
「とりあえず、ここ最近で拓ちゃんが食べてるお菓子とか聞いてみるか?
いや、そもそもダイエットしてる人がお菓子を食べるわけないか。
って考えたら、その相手にお菓子をプレゼントするって.......う~む」
なんか前提が崩れるような疑問にぶち当たってしまった。
しかし、それは今考えても仕方ない。
この際、プレゼントする前提で考えるべきだ。
「んじゃ、とりまここ最近で美味しい喫茶店を見つけた体で話題を振ろう。
んでもって、自分の好きなデザートのことを話しつつ、流れで拓ちゃんに振る。
ただし、チョコ寄りの流れで。よし、これで行こう」
唯華は簡単に作戦を立てると、ミュートを解除。
(頑張れ自分。セカンドステージクリアを目指して)
そう心の中で唱えながら。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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