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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第260話 俺は蜘蛛の巣に絡まったのか?

 新年を迎えて早くも一か月が過ぎようとしていた。

 すると、月末に迎えるのはやはりテストである。


 こればっかりはずっと憂鬱に感じる。

 別に、勉強をしてないからというわけではないが......やはり面倒くさい。

 そう思うのは、すっかり心も学生になってしまった影響か。


「ねぇ、拓海君。良かったら一緒にテスト勉強しない?」


 時は放課後。

 帰る準備をしていると、玲子さんから思わぬ提案を受けた。

 正直、その提案は非常にありがたい。


 テスト勉強とは、孤独なものである。

 が、やはりたまにはそういうこともしてみたい。

 やる気も湧いていない今ならいい気分転換になるだろう。


「いいよ。なら、図書室で勉強する? もちろん、他の場所でもいいけど。

 あ、ちなみに、ファストフードはすまんけどよしてくれ。

 あんな飯テロを受け続けながらは苦行でしかないからな」


 チートデイでもない限り、余計な買い食いは控えたい。

 特に、1月に限っては新年に母さんが張り切ったおせちをたくさん食ったからな。

 これ以上は、勇姫先生にも迷惑かけかねないし。


「えぇ、わかってるわ。それに、もともと提案しようと思っていた場所はそこじゃないしね」


 玲子さんが薄く笑みを浮かべるのに首を傾げながらも、とりあえず話を促すことに。


「じゃあどこ?」


「ついて来ればわかるわ」


 というので、俺は荷物を担ぐと玲子さんと一緒に下校した。

 にしても、そんなサプライズ感覚でオススメな場所があるのだろうか。

 玲子さんなら図書館だったら図書館とか言いそうだしな。


「そんな良い場所なの?」


「えぇ、個人的にね。それに今日ならきっと大丈夫だから」


 玲子さんに聞いてみるが、珍しくずっと笑みを浮かべたまま、詳しい事情は教えてくれないようで。

 どうやら本当にサプライズ感覚で紹介......ん?

 ここら辺の道、あまり見覚えがあるような気がするぞ?


「着いたわ」


 そう思ったのも束の間、俺は見上げるほどの高層マンションの前にやって来た。

 ここは確か......玲子さんの家がある場所だった気がする。

 え、ってことは、まさか――


「玲子さん、もしかして俺は今から玲子さんの家で勉強を?」


「おめでとう、正解よ。今なら美玻璃がいないから、邪魔されることはないわ」


「そ、そうなんだ.......」


 ドヤ顔、じゃないけど、それに近い表情で言う玲子さん。

 なんだろう、テスト勉強から一気に遠ざかった気がするのは。

 これってただのお家デートなのでは?

 いやいや、落ち着け。まだそうと決まったわけじゃない。


 今からやるのはテスト勉強。

 勉強が勉強にならないのは、結局当人の意思次第だ。

 互いに真面目にやれば、それは立派な「勉強会」だ。

 つまり、俺が浮ついてなければいい!


 玲子さんだって、静かに勉強できる場所って意味でここを選択したはず。

 となれば、後は俺がこの浮かれた気分をどうにかするだけ。


 すーはー......よし、まだ少しソワソワしているが、大丈夫。

 やる気スイッチもONにしたし、勉強を始めればどうにでもなる――そう思っていた時期が、俺にもありました。


「......それで、この英文にあるThatが前文のこの文章にかかってて」


 玲子さんは、たんたんと教科書の英文の説明をしていく。

 とても丁寧に教えてくれて嬉しい......がしかし。

 どうしてこうも近いのか。いや、近すぎる!


 最初、俺は玲子さんと向かい合って勉強していたはずなのに。

 俺が「少しここ教えて欲しい」と言った瞬間、サッとワープするように横へ移動してきた。


 加えて、めっちゃ近い。もはや肩がぶつかるという次元じゃない。

 玲子さんの半身が密着しているような感じだ。


 話を聞きながら、お尻を浮かせてなんとか少しずつ距離を取っていく。

 しかし、俺がそっとずらせば、すぐさまその距離を玲子さんが詰めてくる。


「あ、あの、玲子さん......? 近くないですか?」


「そう? あまり気にしたこと無いわ。

 でも、今は近い方が互いにいいはずよ。

 私は伝えたいし、拓海君は教えてもらいたいで」


「それはそうだけど.......」


 申し訳ないが、話があまり入ってこない......って待て。

 よく見れば、玲子さん、澄ました顔をしてるけど、耳赤いじゃん。

 俺が指摘したから? いや、そう言う前には赤かった気がする。


 ってことは、玲子さん的にもこの状況は恥ずかしいってこと?

 ......いや、違う。そこじゃない!

 なぜ恥ずかしがってまでやってるのかってことだ。

 それって即ち、俺の勘違いじゃなければアプローチってことになるよな?


「......玲子さん、無理してるってことはないよね?」


「無理? 何が? 私は誰かに勉強を教える時は常にこのスタイルよ」


 様子を尋ねてみれば、平然とした顔でそう言い返された。

 そこまでの調子で言われると、やっぱ俺の勘違いって線も微レ存......。

 もっとも、耳は相変わらず赤いままであるが。


 しかし、仮に玲子さんの言ってることが本当だとすると、一回目の人生の時もそうだったってことだよな。


 となると、当然玲子さんにも後輩に当たる芸能人がいたわけで。

 そう考えると、妙に胸がチクッとしてくるな。

 さすがに想像力がたくましすぎるよな、これは。


「そ、そうなんだ.......よし、わかった」


 一つ気合を入れて、俺は勉強に向き合うことにした。

 勉強以外に意識が向いてしまうのは、俺が余計なことに意識を回してるせいだ。

 このままではせっかくの勉強会が頓挫してしまう。それは避けねば。


 というわけで、俺は玲子さんの物理的な(どことは言わないが)圧に負けず、勉強に取り組む。

 玲子さんは相変わらず特に変化のない声色で勉強を教えてくれた。

 

 教えてくれる内容は的確で、俺がどこで躓いてるか的確に教えてくれるからありがたい。

 にしても、近い。さっきよりも近い。

 もはや半身が一体化してるような感じだし。


 加えて、隣にいる玲子さんの体の傾き具合もおかしなことになってるし。

 なんだったら、俺の体すら傾いてるし。

 もはやこれわざとだよね? そうだよね!? 俺は悪くないよね!?


「ダメね......」


 その時、玲子さんがそう言って俺に預けていた体をそっと離した。

 そのことにホッと胸を撫でおろす。

 されど同時に、男としての邪な部分が離れてしまったことに後悔していた。


 にしても、突然どうしたんだろうか?

 もしかして、玲子さんは本当に真面目に教えてるだけで、それに集中できない俺がダメだったとか?


「拓海君、ごめんなさい。私、勉強に身が入りそうにない。

 どうやらあなたに構ってもらいたくて勉強に集中できないようだわ」


 そう言って、胸に手を当て小さく深呼吸を繰り返す玲子さん。

 それから髪を耳にかける仕草がとても色っぽく感じる――じゃなくて!


「そうなんだ.......うん? どういうこと?」


 俺は思わず玲子さんの言葉に耳を疑った。

 さも平然と言うから何事かと思えば、普段の彼女からしたらまず言わなそうな言葉。

 「構ってもらいたくて」って......え、ガチ?


「玲子さん、落ち着いて聞いてくれ。

 回答によっては俺が激しく取り乱しそうになるから。

 玲子さんは......もとより勉強目的で誘ったのではない?」


「......」


「お、おおおお、おいおいマジか.......」


 その質問を投げかけた時、玲子さんは何も答えなかった。

 しかし、俺は返答が無かろうが激しく取り乱した。

 なぜなら、目の前の彼女が見たこともないぐらい顔を赤くしていたからだ。


 頬を赤く染め、目線はそっと斜め下に向けている。

 先程までの毅然とした態度はどこへやら。

 大人びた彼女の印象はどこにもなく、目の前にいるのはただの美少女。


 俺にとって玲子さんという人物はクールキャラで定着している。

 時折、天然も混じってる気もしなくもないが、されど基本は精神年齢同様大人びた感じだ。


 だからこそ、このクーデレの破壊力はヤバイ。

 俺の心臓から全身に血液が巡り、リビドーが沸き上がるのがわかる。

 これは先輩ともゲンキングとも琴波さんとも違う感覚だ。

 全身に熱が帯びる。


「スゥー......ハァ......」


 俺はゆっくり息を吸い、そして息を吐きだした。

 いつかぶりの放熱作業である。理性が残るうちに対処せねば。


 にしても、ここまでダイレクトに感覚にリンクするってことは、やっぱり俺の中で玲子さん達に感じる意識が変わったからか?

 それとも、玲子さんに限った話か?


「拓海君」


「え、あ、はい!」


 突然名前を呼ばれ、俺の背筋が伸びる。

 体は自然とあぐらから正座の姿勢となった。

 太ってる状態での正座ほど辛いものはないというのに。


「一つ、お願いを聞いてもらってもいいかしら?」


「な、なんでしょうか.......」


 玲子さんが赤らめた頬をそのままに、やや熱を帯びた視線を向けてくる。

 俺は思わず生唾を飲み込んだ。


「今からあなたを抱きしめます」


「待って、それお願いじゃない。実行宣言」


 もっと言えば処刑宣告だ。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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