第256話 恐ろしいのは博多弁か、はたまた.......
前回のあらすじ。玲子さんの妹の美玻璃ちゃんと初対面&敵視を受ける。
どうやら妹ちゃんは玲子さんのことが大好きなシスコンらしい。
いやはやこれはどうしたものか、せっかくだから仲良くなりたいがいきなり前途多難だな。
というか、玲子さんの前で堂々と言い切ったが大丈夫か?
「俺のこと知ってるんだね」
「忘れたことなんてありませんよ。
なんせ引っ越しの都合で早川先輩と別れてから、お姉ちゃんは毎日のように再会を夢見て頑張ってたんですから。いやでも覚えますよ」
そんなサラッととんでもない暴露をしてくれた美玻璃ちゃん。
ある意味俺にもダメージがデカいのだが、それ以上に被弾した人物がいる。
それは当然、彼女の姉である玲子さんだ。
俺がチラッと視線を向ければ、案の定玲子さんが頬を赤く染めていた。
そりゃまさか身内からフレンドリーファイアを受けるとは思わないよな。
そう思っていると美玻璃ちゃんが姉の様子に気付き、なぜか俺を睨んでくる。
いや、違うから。俺が見つめたせいで頬を赤くしたわけじゃないから。
とはいえ、これでまた美玻璃ちゃんからの俺の評価が下がった気がする。
どうにか挽回したいとは思うけど、現状何言っても火に油になりそうだな。
つーわけで、スケープゴート琴波さん! よろしくお願いします!
「琴波さん、美玻璃ちゃんは俺のことを知ってるようだし、一応自己紹介しておいた方がいいんじゃない?」
そう言うと、琴波さんは一瞬ピクッと反応しながらも、すぐに「そうだね」と答えた。
気のせいかもしれないが、視界の端で玲子さんも僅かに反応した気がする。
「うちは東大寺琴波と言います。琴波でいいよ。
あと、いつもじゃないけど、たまに地元福岡の方言が出るけど気にしないでね」
「美玻璃です。こちらこそよろしくお願いします。
にしても、福岡の方言ってことは博多弁ですか!? 私、博多弁好きなんです。
良かったら何か博多弁で言ってみてくれませんか?」
「そっか、博多弁ってなんか人気だもんね~。
リクエストくれれば何でも答えるよ」
「本当ですか! なら、そうですね......」
秒で美玻璃ちゃんの心を掴んでしまった琴波さん、恐るべし。
琴波さんには人の心を開けやすい何かがあるのだろうか。
まぁ、背景に花畑が見える笑顔を向けられたら、そりゃ悪い気はしないよな。
琴波さんからの言葉を受け、美玻璃ちゃんは腕を組んで考え始める。
「どうしよっかな~」と呟きながら、思い浮かべてるセリフは一体何だろうか。
その時、美玻璃ちゃんがチラッとこっちを見た。
瞬間、まばたきで見逃してしまうほどの僅かな時間で邪悪な笑みを浮かべた......気がした。
「あの、セリフを考えるうえで一つ聞いておきたいんですけど、琴波先輩は早川先輩と仲が良いんですか?」
「うぇっ!? あ、それは......良い、よね?」
美玻璃ちゃんから質問に素っ頓狂な声をあげた琴波さんは、俺に答えを委ねるかのように聞いてきた。
小首を傾げ、覗き込むような顔の位置で、少し困ったような表情を浮かべるのは止めて欲しい。
そのあざと可愛いみたいな仕草はヲタクに非常に刺さるから。
思わず心の「うぉ!」という声が漏れそうになってしまったではないか。
しかし、幸いにも声が漏れることはなかったので、努めて冷静に言い返した。
「それはもちろん。琴波さんのおかげもあって学校生活は飽きないしね」
「そ、そうなんだ......えへへ......嬉しかこと聞いてしもうた」
俺の言葉に、琴波さんは頬を緩ませた。それこそ方言を漏らすほどには。
にしても、もう今ので方言を使ってしまってるのだが、それはカウントしないのだろうか。
「なら、琴波さんにはシチュエーションボイスをやって欲しいです。
で、言って欲しいセリフってのは......」
どうやら美玻璃ちゃんはカウントしないらしい。
彼女は欲望のままに琴波さんに耳打ちで要求を伝えた。
すると、琴波さんの目が見開き、どんどん頬が赤くなっていく。
「え、えぇ......これを言うの......?」
「はい、博多弁で何が一番聞きたいかって言ったらやっぱりこれじゃないですか」
「そ、そうなの? でもなぁ......それに、ここじゃさすがに」
琴波さんは周囲を見渡し、他にもアルバイトであろう巫女さんの姿があることを確認する。
すると、美玻璃ちゃんは「大丈夫です、もうじき出ていくと思いますよ」と説得。
それから十数秒後、本当にその巫女さん達は休憩所を出ていき、その場に残ったのは俺達だけとなった。
なんでわかったんだろ。やはりこの子も玲子さんと同じエスパー持ちなのか。
そう思ったのも束の間、琴波さんはなぜか崩していた足の向きを僅かに変えた。
言うなれば、俺に対して体の正面を向けている感じだ。
そして同時に、頬を紅潮させながらも真剣な表情を浮かべる。
そんな彼女の表情を見て、どことなーく嫌な予感がして俺は声をかけた。
「あの、別に厳しかったら無理しなくてもいいと思うよ?」
「だ、大丈夫......たぶん」
そう言って琴波さんがチラッと視線を送った方向は、なぜか玲子さんの方。
まるでこれからやることが玲子さんに対して負い目を感じるようなことみたいだ。
え、本当に何を言うつもり......?
「た、拓海君!」
「は、はい!」
真剣な表情をする琴波さんに触発され、お礼の姿勢もなぜか伸びる。
琴波さんはゆっくり深呼吸をすると、僅かに震えた声で言った。
「た、拓海君......ばり好きっちゃん」
「っ!?!?」
「こ、こここ琴波......?」
「ふぅー、キター! 博多弁告白ボイスゥー!!」
お題のセリフを言った瞬間、琴波さんは顔を両手に当て、伏せた。
そして、そのセリフが残していった余波は果てしなく大きい。
まるで火山が噴火したかのような衝撃だ。
琴波さんの頭から湯気らしきものか幻視できる。
また、俺達の反応は三者三様で異なっていた。
俺は言わずもがな、心にハートの矢どころか大砲をぶつけられた気分だ。
衝撃が大きすぎて脳の処理が追い付かない。思考が停止している。
玲子さんはというと、言葉を震わせながら口をあんぐりさせていた。
まぁそりゃそうだろうという反応だ。
彼女からすれば恋敵の正しく爆弾告白なのだから。
そんな中、一番盛り上がっているのは要求が通った美玻璃ちゃんだ。
そのはしゃぎようは、まるで気持ち悪いニヤケ方をする昔の俺のようで。
同時に、オンラインゲームでテンションが高い時のゲンキングみを感じた。
「「「......」」」
しっかし、この空気は非常に地獄ぞ。
なんせ修羅場でありつつも、甘ったるい空気でもあるという特殊な空間になってるからな。
感情がどっちつかずで、もはやどういう態度が正しいかもわからない。
その空気を作り出すキッカケを作った当人は、一人満足そうに浸ってるし。
この様子じゃ、しばらくこっちの空気を察してくれることはないぞ。
......って待てよ? さっきチラッと見たのはまさかこの空気を作り出すためか?
だとしたら、なぜこんなことを......っ!? す、鋭い視線!
「すーっ」
俺はゆっくり息を吸いながら、出来る限り目線だけで横を見る。
すると、玲子さんから鋭い眼光が飛んできていた。
あの目、俺に怒っているような感じだ。
その時、玲子さんはゆっくりと自分の口角に人差し指を近づけた。
その指示に従うように、俺は右手で自分の口元を覆うように触る。
あ、やっべぇニヤけてらぁ。な、なるほど、これが狙いか。
「ハァ......ったくあんにゃろう。ただいまー......ってナニコレ?」
帰って来た何も知らないゲンキングは、意味不明な空気に首を傾げた。
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