第248話 本当のフェア
拓海の決意表明が終わり、本当にクリスマス会は終わった。
そんなイベントの数分後、とある公園には四人の乙女が集まっていた。
その乙女とは、玲子、永久、唯華、琴波の四人のことである。
四人は冬空の中、街灯の光だけを頼りに立ち尽くす。
当然ながら、夜の公園には誰もおらず、しんしんと雪が降るのみ。
そんな状況の中、寒そうに腕を組みながら小刻みに震える永久が口火を切った。
「で、やっと帰れると思った矢先に呼び出すなんてどういう領分?」
永久が尋ねた相手は玲子である。
というのも、三人を呼び出したのは玲子なのだ。
玲子は三人の顔を順に見ると、永久の質問に答えた。
「今後の私達の立場を一度整理したくてね。
まず、私達は拓海君のことが好き。それは間違いない気持ちなのよね?」
玲子がそう尋ねると、永久は当たり前といった顔をした。
華は頬を赤く染め、琴波は耳と頬を赤くしながら目線を外す。
そんな三者三様の反応をする中、ただ一つ”否定をしなかった”ことだけは同じであった。
すると、唯華が後頭部を触りながら照れ笑いして反応する。
「あはは、なんか改めてそう言われるとなんだか恥ずかしいね。
にしても、どうして急にそんなことを? わざわざ確かめる必要あった?」
「言ったでしょ、一度立場を整理したいって。
まぁ、聞く意味があったかと思えば、無かったと思うけれど。
私達はこれまで拓海君の意識を変えるために協力してきた。
結果、時間はかかったけれど、無事拓海君の意識を変えることに成功した」
「話が読めたわ」
玲子の言葉を聞き、永久が途端に話の主導権を取りに来た。
そして強引に得た自分のターンを利用して、玲子の言いたいことを言い当てる。
「つまり、これからは四人が協力する必要はないってことね?
だって、これまでは拓海君の意識改革という目的で協力してただけだもの。
でも、その目的が無くなった」
「それじゃ、ここからは個人戦ってこと?」
永久の言葉を聞き、琴波が首を傾げるように聞いた。
そんな琴波の疑問に、玲子が頷いて答える。
「そうね。だけど、あくまで拓海君の意思を尊重してね」
「ってことは、誰が選ばれても恨みっこ無しってことか。
フェアに勝負して、拓ちゃんのハートを掴んだ者が勝ちっと。
まさか自分がギャルゲーのヒロインポジになるとは世も末だね」
唯華がそんなことを言うと、永久と琴波が反応した。
「確かに、この手の展開は漫画やラノベで見たことあるけど、現実になるとはね。
事実は小説よりも奇なりと言うけれど、まさか自分が当事者になるのは想定外よ」
「それに、そういう展開と若干違うのが、主人公が気持ちを知ってるというね。
こういう場合大概主人公が鈍感すぎて気づかないか、気付いても気づいてないフリしてそのまま過ごしていくかの二択なんだけど......うちらの場合、互いに気持ちがモロバレというか」
「拓ちゃんは鈍感系じゃないからなぁ。
どっちかって言うと、わかっててスルーする感じで。
あれ、なんだろう......事情はわかってるはずなのに、それはそれとして腹立ってきた」
「安心しなさい。それはある意味、当然の反応よ。
今だってワタシはあの男にどうやって弄んだ乙女心の復讐をしてやろうか考えてるところだもの」
「そ、それはさすがにやめた方が.......」
唯華の言葉を皮切りに、永久と琴波が混じって三人で会話し始める。
するとその時、ただ一人だけ沈黙していることに気付いた唯華が、様子を伺いながら聞いた。
「レイちゃん、さっきから黙ってるけど大丈夫? 調子悪い?」
「いえ、そういうわけではないわ。ただなんというか.......少し考え事をしていてね。
唯華、さっきあなたが『フェアに勝負しよう』って言ったことは覚えてる?」
「あ、うん......そんなこと言ったね。それがどうかしたの?」
唯華が首を傾げれば、玲子は少し口を開いては何も言わず閉じた。
そして顔を伏せると、両手の拳をそっと握る。
今度は目を強くギュッと閉じ、数秒後には決意を決めたように目を開いて言った。
「私は......いえ、私と拓海君はあなた達に隠していることがあるの」
「隠していること?」
玲子の言葉に、唯華は首を傾げる。
その隣では永久が目に力を入れて、玲子に言った。
「まさか”実は付き合ってました”とか言うんじゃないでしょうね?
ここまで来て急にそんな話したら、間違いなく手が出る気がする」
「そ、そりゃしゃすがに違うんじゃ......ばってん、玲子ちゃんのあん真剣な表情は!? え、一体何!?」
永久の発言に、琴波は疑いつつも方言が出るぐらいには動揺している。
三人が答えを求める視線を送る中、玲子はゆっくり首を振った。
「いいえ、違うわ。ある意味それよりも突拍子もない話よ。
それに、これはたぶん拓海君がお墓まで持って行こうとしている類の話。
そんな衝撃的な内容を、私と拓海君は共有している」
「あなただけずるいわね......とでも言おうと思ったけど、そんな顔じゃないわね。
どうやらあまり良い話じゃなさそうね。
正直、聞くのはやぶさかじゃないけど、その前に聞かせて。
どうして急にそんなことを?」
「さっき唯華が言ったように、フェアにいきたいと私自身が思ったからよ」
「そう思ってくれるのはいいんだけど、それは拓ちゃんがこうして決意表明してまでも隠しておきたかった話なんだよね?
それってレイちゃんが勝手に話して大丈夫なものなの?」
「恐らく、だいじょばないわ。私の独断だから。
でも、拓海君を好きになってくれたあなた達には知っておいて欲しいの。
それに、それこそ三人がお墓まで黙ってくれれば、伝えたことにはならないわ」
「そ、そりゃまた大胆な解釈ばするねぇ.......」
「私は今から好きな人の最大の秘密をバラす最低な女になる。
これで拓海君に知られて嫌われようものなら、それはそれで仕方ないわ。
だけど、そうしてでもあなた達には知って欲しいと思うの。
あなた達ならそれでもきっと、今の拓海君を見てくれるって信じてるから」
そして、玲子は自分と拓海の秘密――一度目の人生について話始めた。
当然、その中の話には拓海の結末の内容も含まれている。
風も吹かぬ静かな空間に、玲子の声だけが響き渡った。
「「「.......」」」
玲子が全てを話し終えると、永久は腕を組みながら顔を逸らす。
唯華は片手で口を覆い目を見開いた。
琴波は両手で口と鼻を覆いながら目から涙を流した。
そんな三人を見ながら、玲子は言葉を続ける。
「これが私と拓海君の人生の結末。
私の人生はまだ続いただろうけど、拓海君は続かなかった。
だけど、奇跡的にタイムリープして拓海君の人生は続くことになった。
だから、この人生は拓海君にとって重要な意味を持つ。
拓海君がどれだけ自分を否定し、誰かとの縁を気にしていたのもそういう理由」
玲子は語気を強めながらさらに言う。
「私は拓海君が幸せになるなら、例え負けても悔いはない。
けれど、拓海君と付き合いたいなら、それを一緒に背負うぐらいの覚悟を持ってもらわないと困る。
もちろん、私は微塵も負けるつもりはないけれど」
すると、玲子に宣言に最初に反応したのは永久であった。
「なるほど.......やはり彼はただものじゃなかったのね。
色んな意味で増々逃したくなくなったわね。
いいわ! 背負ってやろうじゃない!
彼の隣にふさわしいのはこのワタシよ!」
「いいや、拓ちゃんのそばにいるべきはわたしだね。
わたしは拓ちゃんと出会い、そして拓ちゃんは初めて自分の内側を認めてくれた相手。
なら、今度はわたしが拓ちゃんの人生を全肯定してやろうじゃないの!」
「拓海君がそこまでん辛か過去ば持っとったなんて知らんやった。
そげんことば知らんで、ただ憧ればっかりで追いかけとった自分が恥ずかしか。
やけんこそ、今度はうちがそばに立って支え続けちゃりたか!」
「......やっぱりあなた達はあなた達ね。これで私の憂いは無くなった。
それじゃ、正々堂々と行きましょう。きっと来年には決着がつくから」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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