第246話 クリスマス会の夜#7
今宵の隼人もとい隼人姉主催のクリスマス会。
その中のビンゴ大会にて、隼人が一番乗りでビンゴを達成した。
ビンゴカードを頭上に掲げ、プレゼントまで歩いていく隼人に全員の視線が集まる。
「もう揃ったのか? 早過ぎじゃね?」
「なら、見てみるか? ほら」
隼人がそう言って投げ渡したのを受け取ると、俺は大地と空太と一緒に覗き込んだ。
すると、隼人のビンゴカードはほとんど他の数字に穴を開けることなく、その上で一列キッチリビンゴしていた。
「なんちゅー確率よ、これ」
「やっぱ持つべくして持つ奴は違うのか?」
「ビンゴマシーンに細工......はさすがに難しいか。
まぁ、さすがにそこまで卑怯な手を使う奴とは思えないが」
俺の感想に続き、大地、空太が唖然した様子で呟く。
ともかく、隼人はこれで一位抜けしたわけだが......問題はどのプレゼントを選ぶかだ。
もっとも、その結果の行方を熱い視線で見届けているのは女性陣だけなのだが。
「隼人君、もっと右! 違う、それじゃない! あ、そこそこ......くぅ~~~!」
その中でもとりわけハラハラしているのは、やはり勇姫先生だろう。
ひょんなことで隼人と付き合うことになり、そして今回初めてのクリスマス。
それでいて恋人に送るプレゼントも初なのだ。そりゃ気合入るか。
んでもって、小声で呟きながら隼人の動向を見届けている。
その言動はやっぱ競馬をやってる人のそれにしか見えない。
その横では柊さんが冷静に勇姫先生の言葉からプレゼントを推測していた。
「さ~て、どれがいいか......そうだな。せっかくだ。これにするか」
隼人は軽く歩きながらプレゼントを物色すると、一つの袋を手に取った。
それは階段状のボックスの上に並べられたプレゼントの一つで、順番で言えば五位のデカいピンクの袋のプレゼントであった。
隼人がその色の袋を選ぶとはなんとも意外である。あんまピンク選ぶイメージないし。
それにプレゼントの中で一番デカいのを選ぶとか......うん、やっぱ意外。
「あ.......」
その瞬間、勇姫先生が崩れ落ちた。あ、外れたか? と思ったが、違った。
なぜなら、その状態でありながら、拳は力強くガッツポーズであったからだ。
なんかプロのサッカー選手がゴールを決めた直後のポーズみたいになってる。
とにもかくにも、無事自分のプレゼントが隼人に渡ったらしい。良かったね。
対照的に、柊さんは勇姫先生の様子を見て四つん這いになっていた。
どうやら馬券が外れたらしい。
ゴール〇シップにでも裏切られたみたいな感じだ。
「さて、まだまだプレゼントはあるぞ。ただし、選べるのは早い者勝ちだがな」
隼人がプレゼントを選んだことで、ビンゴゲームは再開された。
その後の展開はというと、勇姫先生みたいな姿が人を変えてリプレイされた感じだ。
ただし、それが喜びの感情であったかどうかは......俺から言うのはなんとも。
故に、その展開は語るべくもなく割愛させていただく。
ともかく、ビンゴした順番はというと、以下の感じだ。
二位にゲンキングが上がり、三位に空太、四位に柊さん。
五位に大地、六位に琴波さん、七位には椎名さん。
八位に勇姫先生、九位に玲子さん、十位に永久先輩で、最後はまさかの俺であった。
「さて、全員にプレゼントが行き渡ったな。それじゃ、オープンといこうか」
隼人の言葉に、全員が各々が持つプレゼント袋を開封していった。
俺が最後に受け取ったのは黄色の袋に入ったプレゼントで、中身はポケ〇ンのロゴが入った手袋であった。おぉ~! これはいい!
「拓海君、うちからのプレゼント......どうかな? 子供っぽくない?」
そう聞いてきたのは琴波さんだった。
どうやら俺が受け取ったプレゼントは琴波さんセレクトのものだったようだ。
「全然、俺ポケ〇ン好きだから。普通に嬉しいよ。
それに今日手袋してくるの忘れちゃったし、ありがたく使わせてもらうよ」
「ほんなこつ!? やったー!!」
琴波さんは両手を頭上にあげて大きく喜びを表現した。
そこまで喜んでくれると、なんかこっちまで照れ臭いというか。
ともかく、お礼を言った甲斐があるってもんだよ。
「で、拓海は何のプレゼントにしたんだ?」
隼人が50センチはありそうなテディタイガーを小脇に抱え、俺に聞いてきた。
どうやら勇姫先生のプレゼントは大きなぬいぐるみだったようだ。
あの隼人に対してぬいぐるみを送るとか......勇姫先生、なかなかやるな。
「俺は誰にでも使えるように、食器セットにした。
箸、スプーン、フォークが一緒に入ってるやつ」
「なんか絶妙にキモいチョイスしてるな。友達に渡すやつじゃねぇ」
「うっせ。お中元みたいに誰が受け取っても使いやすいものにしたんだよ。
とはいえ、消耗品の詰め合わせじゃ味気ないかなって思ってそれにしただけだ」
「で、その食器セットは誰の手に?」
「それってこれかな?」
その時、俺達の会話を聞いていたのか、椎名さんが食器セットを片手に掲げた。
どうやら俺が選んだ、それが入っていた紫のプレゼントを受け取ったのは椎名さんのようだ。
その瞬間、若干四名の視線が一斉に椎名さんに集まる。
あ、男女ともに注目を集める椎名さんが苦笑いしながら、視線を外した。
一体どんな視線を送ったのか......と思ったが、想像に難くなかったわ。
ともあれ、そんなこんなでプレゼント交換会は終了した。
お目当てのプレゼントを受け取れた人は少数だが、このイベント自体は概ね好評だった。
だって、なんだかんだで皆楽しそうに笑ってるし。
ちなみに、勇姫先生がチョイスした金色の袋は本当に隼人のものだったらしい。
何を受け取ったのは定かではないが、受け取った瞬間の顔は真っ赤で思考停止していた。
「よし、それじゃ最後に一本締めでこのクリスマス会を閉めようと思う。全員手を出せ」
「なんかジジ臭いな、お前」
「うっせ。早くしろ」
ということで隼人の提案により、全員で一本締めをしてクリスマス会は幕を閉じた。
......なのだが、俺にとってはこれはまだ本当の終わりではない。
むしろ、ここからが始まりというべき感じで、そう思った途端手汗が凄い。
心臓は急にバクバクとし始め、動き出そうとするのがとても怖く感じる。
しかし、ここまで来て逃げるわけにはいかない。
むしろ、俺はこの時のために来たと言っても過言ではない。
「スーッ......ハァー.......よし」
俺は一度深呼吸すると、自分の心に喝を入れた。
そして、再び恐怖に飲まれ、足が重たくなるよりも先に行動する。
「隼人、人気のない場所ってあるか? あまり周りに話を聞かれたくなくて」
「なら、裏庭を使え。ここから外へ出て左手側の角を曲がった所にある」
「わかった」
「ここで決めるのか?」
隼人がそんなことを聞いてきた。その目はなんだか真剣だ。
しかし、俺は首を横に振ってその言葉を否定する。
「いや、一つのケジメをつけるだけだ。
お前ならお見通しかもしれないが、これまで俺は色々な気持ちを蔑ろにし過ぎた。
だから、せめてその気持ちに正面から向き合うと意思表示をしようと思って」
「.......そうか。ま、随分と長くかかったが、これはお前の選択だ。好きにしろ。
ただし、この先必ず非情な選択をしなければいけない時が来る。
それは選ぶ者の宿命だ。くれぐれも後悔のない選択をすることだな」
「わかった」
隼人からのアドバイスを胸に、俺はとある四人が集まってる場所へ向かう。
その四人とは当然、玲子さん、ゲンキング、永久先輩、琴波さんのことだ。
そして、その四人の前に立つと、俺は端的に言った。
「大事な話がある。四人とも少し時間貰えるか?」
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