第245話 クリスマス会の夜#6
クリスマスプレゼント交換会。
例えば、町内会で開かれそうな催しがたった今始まった。
もっとも、プレゼントは各自で持ち寄ったものなのだが。
それはともかく、ビンゴゲームというのは基本的に運である。
最初は順調に穴を開けていき、後一つでリーチという所まで行く。
しかし、その後中々欲しい数字が来なければ、そのままリーチばかりが増えていく。
挙句には、リーチだらけになりながらもなぜかラインが揃うことがない。
そのくせ、他の誰かが自分よりも少ないラインでビンゴになり、なんとも言えな気持ちになる。
それがビンゴゲームというものだ。
つまり、どんなに期待しても当たる時は当たるで、外れる時は外れる。
当たったらラッキー程度でメンタルを維持しておくのが重要なのだ。
なので、とある一部の熱量には少々慄いている。
「よし、まず一つ!」
「チッ、外れ」
「最初が良くても意味無いわ」
「次も当たりますように。次も当たりますように」
「隼人君のはどれ。あの大きいの? いや、それはブラフか?」
「ゆうちゃんの好きな色は水色。となると、あの水色のリボンか包装になるけど、あえてセオリーを外してくるということもある。もう少し情報が欲しい」
それぞれ言葉を口にしたのはゲンキング、永久先輩、玲子さん、琴波さん、勇姫先生、柊さんの六人である。
つまり、椎名さんを除いた女子全員と言える。
まるで、その一帯だけ熱の入りようが違う競馬のおじさん達みたいな感じだ。
ビンゴマシーンというブレの大きい馬に対し、馬券を握りしめ、事の成り行きを見届ける。
そして、馬がゴールもとい数字が出る度に、自分のビンゴカードを見ては一喜一憂。
まぁ、その光景は端から見れば面白いものなんだけどね?
ほら、ビンゴゲームって割と淡々としてるものだしさ。
「そういえば、知ってるかしら? 今日の午前中に二人でショッピングしてた時のことだけど、拓海君は熱心に黄色のリボンを眺めてたわ。ま、本人は知らないだろうけど」
その時、永久先輩が唐突に玲子さん、ゲンキング、琴波さんに対して仕掛けた。
わざわざ俺と午前中に買い物をしていたことを強調しながらの発言。
うん、本当に知らないね。というか、リボンの色なんて店員さん任せだったし。
「「「.......」」」
しかし、その発言自体は問題ではない。重要なのは嘘かどうかという点だ。
少なくとも、俺が先輩と一緒に行動していたことは真であり、そのことは三人も知ってる。
知ってるからこそ、その発言も本当のことかもしれないと確信度が高くなる。
とはいえ、相手はマウント取りたガールこと永久先輩だ。
口滑らかに出た言葉が、そのまま本当のことを言っているかと言えば疑わしい。
上手いこと言いくるめられたらそれこそ負け確定。
故に、三人は迷っている。
そんな顔が眉間のしわとなって表れている。
あくまでビンゴカードに目線を向けるのは、動揺を悟られないためか。
「なんともあなたらしい嘘まみれの言葉ね」
先輩の発言に対して、最初に反応したのは玲子さんだった。
玲子さんは先の発言を嘘と判断したらしい。
まぁ、玲子さんなら先輩に逆張りするだろうと思ったけど。
「あら、どうしてそう思うの? もしかしたら本当かもしれないじゃない。
あなた、ワタシを意識して逆を行きたがるけど、それが逆に誘導されてるとか思わないの?」
「確かに、その可能性もあるわね。でも、あなた思ったよりも嘘下手よ?
今だって笑い方が固いもの。
そんな仮面つけてたら誰だってわかるわ」
「ふふっ、ワタシの一挙手一投足がブラフよ?」
あ、先輩もしかしてハン〇ーハンターも読みましたね?
若干言い方は違うけど、内容は合ってるし。
それに、隠れ陰キャヲタクのゲンキングが反応してるしで、二重確認完了してるのよ。
それはともかく、今の発言は玲子さんも仕掛けた感じだな。
加えて、こと演技に限っては玲子さんの右に出るものはいない。
だから、今のはああ返答することで先輩の反応を見た感じ......だと思う。
「それじゃ、そちらの二人はどっちだと思う?
ワタシが本当のことを言ってるか、嘘を言ってるか」
そんなことを思っていると、先輩が隠れてる二人を狙撃し始めた。
どうやら先の一斉攻撃を無視させないらしい。
「そ、それはその.......」
先輩の言葉に、琴波さんは目を泳がせながら返答に困っている様子を見せた。
まぁ、彼女は嘘とか苦手だろうし......と思ったけど、一回やられてたっけ俺。
ただ、あれは嘘というより演技の感じが近かった気もするけど。
そんな琴波さんの一方で、ゲンキングは冷静に返答した。
「あれ? でも、最近拓ちゃんと話した時には青が好きだって言ってたような」
ゲンキングは真っ向から意見を出して、逆に先輩の混乱を誘っているようだ。
で、その話に関しては一応真である。
ただし、別に最近そんな話をした覚えはない。
つまり、俺がいつ会話したかも覚えてない時の内容を引っ張りだしたということだ。
「.......(ジロ)」
その時、唐突に先輩から目線を向けられた。
その目が、顔が「それは本当なの?」とでも聞いているようであった。
なので、俺は目線を逸らしてスルーを決め込む。
ま、今の反応でおおよその判断がされた気がしなくもないけど。
とはいえ、どっちにしろ今回俺の選んだプレゼントは青ではない。
目の前には赤、青×2、黄、緑×2、紫、金色、オレンジ、ピンク×2と8色ある。
そのうち、青とオレンジは外れだ。俺の色は――
―――ピロン♪
とその時、突然俺のスマホが音を立てた。
母さんからのメールと思ったが違った。
『早川! あんた隼人君のプレゼントがどの色か知ってるでしょ!? 早く教えて!』
勇姫先生からのダーティーな依頼であった。
どうやら先生も先生でお目当てのものが欲しくてたまらないらしい。
んでもって、いつビンゴが来ても言いようにあらかじめ知っておきたいということか。
相変わらず、いつ打ったのかもわからない卓越した返信術なこって。
それはともかく、そんなことを言われても俺は知らないんだよな。
というか、さっきゲンキングがイエローを貰ったばっかだけど、このメール大丈夫?
「勇姫!」
「ひゃい!」
そう思っていれば、早速隼人から呼び出しをされた勇姫先生。
彼女は自分がしたことにガックシと肩を落としながら、トボトボと隼人に近づいた。
なんという哀愁漂う丸みを帯びた背中だろうか。
探偵ピカ〇ュウでしか見たことないしわくちゃな顔してるぞ。
なんだか心配になって事の成り行きを見ていれば、勇姫先生は隼人から何から耳打ちされていた。
そして、吟味するようにプレゼントの方へ目線を移せば、眉間にしわを作りつつ俺のそばへ。
「ねぇ、隼人君から青か金色か紫って言われたんだけど.......あんたはどれだと思う?」
「え、逆にヒント貰って来たの!?」
「あんたと相談して決めろって言われて......でも、正直隼人君のことは沢山見てきたつもりだけど、好きな色さえサッパリで。
だから、あんたに意見を求めたい!」
「そんなこと言われても......アイツと好きな色の話とかしたことないしなぁ」
「なんでもいいのよ! こう、たまたま手に取るやつの色とか!」
勇姫先生からそう頼まれたらなんとも断りにくいなぁ。
にしても、隼人の好きな色か.......う~む、そうだなぁ。
「金色とか? やっぱお金好きそうだし」
「ハァ? 真面目にやれ殺すぞ」
「急に殺意むき出しになるじゃん.......。
まぁ、他に理由を挙げるとすれば、前にボーリング言った時にボールの色が金色っぽいやつだったし、あとはネックレスもそんな感じだったし?」
「......ある程度は根拠はあるようね。よし、わかったわ。金色にする」
「え、そんな簡単に決めていいの?」
「うだうだ考えたってわからないものはわからない。
なら、少しでも可能性が高い方にかけるわ。
あんたと隼人君の仲を見込んでね」
「.......外しても恨まないでくれよ?」
「ハァ? あんたの来世の来世まで呪うに決まってんじゃん」
ごめん、来世の俺と来世の来世の俺。早まったことをしたかもしれん。
そんなことを思っていると、唐突に最初のビンゴ者が出た。
その人物はもはや当然というべきか――
「お、ビンゴだ。どうやら俺が一番みたいだな」
金城隼人が全員の前に躍り出た。
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