第240話 クリスマス会の夜#1
クリスマス会が始まる10分前。
俺は隼人姉こと成美さんから貰った位置情報をもとに、目的地辿り着いた。
すると、そこには勇姫先生とはまた違うデカい屋敷がそびえ立っていた。
「でっか......」
そのデカさは見ただけで思わず感想が漏れてしまうほど。
とりあえず、三メートルぐらいある柵の隙間から見えるのはバカデカい庭だ。
加えて、ちょくちょくある剪定された気は動物の形をしてる気がする。
所謂庭師の手腕というやつだろうか。庭師って本当にいたんだな。
「あ、拓ちゃん!」
その屋敷を眺めながら歩いていると、前方からは聞き馴染みの声が。
目の前に視線を向ければ、ゲンキングが大きく手を振っていた。
玄関前のそこにいるのは彼女だけではなく、玲子さんや東大寺さん、それから大地と空太の姿も見える。
「ようやく来たみたいだね」
「集合時間前には来ただろ? そっちの方はそんな前に来てたのか?」
「いや、全然。わたしもさっき来たばっかだよ。拓ちゃんは白樺先輩と途中で合流した感じ?」
ゲンキングがそう聞いてくるので、俺が「そんな感じ」と答えようとしたその時。
隣にいた永久先輩が、スルリとダウンジャケットのポケットに手を突っ込んでる俺の腕に、自身の腕を絡めて抱き着いた。
瞬間、目の前の玲子さん、ゲンキング、東大寺さんの顔に緊張が走る。
というか、今空耳じゃなければ確かにピシッという音がしたような。
つーか、先輩は急に何すんですか!?
「ちょ、先輩――」
「そうね、私達は早めに二人で合流してこの時間に来たって感じね。
まさかこの意味がわからないほどおバカさんじゃないわよね?」
うええええぇぇぇぇい!? せ、せせせ先輩!? なーに言っちゃってんですか!?
なんでそんな三人のことを煽るようなことを言うんですか!?
ほらもう、一瞬にして空気がピリついちゃいましたよ!?
ただでさえ寒いのに、さらに精神的にも寒くしないでもらえます!?
......と、大きな声で言えたらどんなに良かっただろうか。
いや、実際言っても良かったかもしれないが、もうこういう空気を幾度と経験した以上わかる。
先輩の発言自体に大きな間違いはないから、指摘しても先輩に潰されると。
先輩が使ったのは、ザックリとした情報で嘘をごまかす方法だ。
言うなれば、言ってることは正しいけど、あまりにも情報不足な伝え方的な。
確かに、俺と先輩は午前中にショッピングモールでバッタリ会った。
それをザックリと切り取れば「早め」という言葉になる。
そして、「二人で」というのも、二人で行動してたのは違いないから嘘じゃない。
そう、実にうさん臭いけど嘘じゃないから困るのだ。
三人の中で一番嘘を見抜けそうなのは玲子さんだが、情報が少ないだけで嘘はついてないから見抜けない。
加えて、ここで俺が否定しようものなら、より詳細な事実を述べなければならない。
つまり、先輩が暗に示唆しようとしている”デート”という状況を伝えなければならないのだ。
実際、暇潰しに映画を見たことは事実だし、何一つ否定できない。
故に、俺は詰んでいるのだ。
生殺与奪の権は先輩に握られている。
後は流れに身を任せ、この修羅場の結末を静かに見守るしかできない。
あぁ、先輩.....どうしてあなたはマウントを取ってしまうのか。
「拓ちゃん、何黙ってるの早く何か言いなよ」
「早川君、何も言わないってことは本当ってこと?」
「この女のただの戯言なら擁護も出来たけど、その表情......そうなのね?」
「.......」
さ、三人からの圧が凄まじい。否が応でも冷や汗が流れてくる。
そんな横では先輩は実にニコニコしてるし。
わー、三人の上に立てたことですごい嬉しそう。
特に、玲子さんに対してのしてやったり感よ。
ダメだ、この空気に耐えれん。さっさと薄情しよ。
「あー、その、お三方の言い分はしかと受け止めますので、まずは不足した情報を補完してもよろしいでしょうか?」
「拓海君、あなたはそんなつまらない人間になったのかしら?」
「このガキンチョのことは無視して続けて」
相変わらず先輩に対しては、玲子さんの言葉はとことん強いな。
もう先輩を先輩と思ってないじゃん。それで二人は良好な関係なんだから不思議。
それはそうと、俺は先輩の意思を無視して話した。
「まず事の始まりとして――」
そこからはざっくりとこれまでの流れを話した。
映画を見に行った話? そりゃしましたよ。えぇ、自分の落ち度だからね。
俺が全部話してしまえば、さすがにからかいようが無くなったのか、先輩は俺の腕から手を放した。
そして、俺が話した結果――
「拓ちゃんって割と軽率なことするよね」
「おっしゃる通りです。ただ、特に深い意味はなくてですね......」
「今度付き合ってもらうよ」
「はい」
ゲンキングからは埋め合わせの言質を取られ、
「早川君、うちも許すためには条件があるよ。
今更思ったけど、うち達ってなんだかんだでずっと苗字呼びだよね」
「そ、そうですね......」
「うちも名前で呼びたいから、うちのことも名前で呼んで!」
「はい、了解です.......」
東大寺さんもとい琴波さんから名前呼びを指示され、
「拓海君」
「はい、何でしょうか玲子さん」
「今度あなたのお母さんが久々に話したいそうだから、家にお邪魔させてもらうわ」
「それはどうぞ、ご勝手に」
玲子さんからはよくわからない報告を受けた。
もしかして、母さんは「女子会したい」とか言ってたし、昨日の今日で玲子さんに連絡をしたのか?
だとしたら、なんという行動力お化けだろうか、我が母は。
ともかく、なんか妙な空気になりつつあるこの場から一刻も早く脱出せねば。
そう思って大地と空太を見るが、我関せずといった様子で二人でしゃべっていた。
あ、おい、今目が合ったろ! おいこら、逸らすな! 助けてお願いだから!
「ちょっと、そこのあんた達! 修羅場なのか甘ったるいのかどっちかしなさいよ」
そ、その声は......!
そう思って視線を声の方に向ければ、そこにはやはり勇姫先生が。
め、メシア! メシアがここに現れた! やはり勇姫先生はメシアだったんだ!
その横には柊さんと椎名さんの姿もある。護衛かな?
.......って、あれ? ここにいるってことは勇姫先生も呼ばれた?
「ゆうひ......ごほん、愛名波さんも呼ばれてたの?」
俺は自然と話しかけるふりをし、その場から離れ......痛っ!
そっと離れようとすれば、俺の足を誰かの足が踏んだ。
その足を辿って見てみれば、永久先輩だった。目が怖い。
さながら、何他の女に尻尾振ろうとしてんのよ的な感じで。
すると、俺の状況を察したように勇姫先生は俺を手招きする。
なので、俺はそれを理由に先輩から離れ、彼女の横に並んだ。
そして、小声で話しかける。
「(助かったよ。やはり勇姫先生には敵わないな。これからも崇拝します!)」
「(妙な持ち上げ方しないでよ。それで巻き込まれる方が嫌よ)」
「(それで先輩も呼ばれたんですか? もしかして隼人から)」
「(いや、姉の方よ。なんかいきなり非通知で電話来たと思ったら、隼人君の姉とか名乗られて......もちろん、最初は半信半疑だったけど、アタシの素性をバンバン言い当てられて、それが逆に隼人君の姉かもって思って)」
え、何それ怖っ! やっぱあの人ブラコン拗らせ過ぎだよ。
「(これってやっぱアレよね? 恋人検定的なアレ)」
「(自分のホームに招いたってことはそうかもしれない。
勇姫先生、ここが頑張りどころだ! 俺も出来る限りサポートするから!)」
まぁ、俺も今日が頑張りどころなんだけど。
「(だったら、私に極力関わらずあっちの乙女達の相手をしてて。
たぶんそっちの方が上手く回ると思うから)」
「(あ、はい。了解っす)」
「よう、来たかお前ら」
俺と勇姫先生の話に区切りがついたところで、門の方から隼人の声がした。
そして、視線をそっちに向けてみれば、そこには執事とメイドを侍らせた隼人の姿があった。
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