第239話 今日は一本取れた気がする
先輩にアドバイスを貰いプレゼントを購入したその後。
時間までショッピングモールをぶらぶら......ひいてはゲーセンで遊ぼうかと思っていた。
が、どうにも永久先輩が何食わぬ顔で横を歩いている。
あれ、先輩いつまでここに......?
「あの......先輩? 俺はもう用事は済んだので、先輩は自分の用事に行ってもいいんですよ?
俺は時間まで適当に時間潰す予定なので」
「酷い男ね」
「え?」
「だって、そうじゃない。せっかく手伝ってあげたというのに、自分の用事が済めばすぐにポイ。
まるで女を都合のいい存在としか思っていない感じだわ。
それとも、ワタシが都合のいい女になってしまったのかしら。ねぇ、どう思う?」
「えぇ......そんなこと聞かれても」
うっわぁ、先輩のエンジン急にかかってくるじゃん。
いやまぁ、先輩が楽しそうにする分には全然構わないんだけどね?
急だからビックリするのよ。それに返答に困る質問してくるし。
「俺は先輩に対してそんな気持ちは抱いたことないですよ。
つーか、先輩だって用があってここに来て、たまたま俺を見つけたんじゃ?
それとも、こういう友達と集まるってのが初めてで浮足だってたとか。
ほら、先輩ボッチだし」
「い、言うようになったじゃない。後輩のくせに生意気。
それに、ワタシは馴染めなくてボッチになったんじゃなくて、自ら進んでその立場を望んでいるの。
気の持ちようが全然違うわ。そこは訂正しなさい」
「でも、ボッチには変わりないですよね?」
そんな煽り言葉を、俺は実にニヤニヤした顔で言った。
例えるなら、殴りたくなるような顔というべきだろうか。
先輩とはそこそこ長い付き合いになって来たし、これぐらい許されるだろう。
「へぇ~、意趣返しのつもり? このワタシとやり合おうっての?」
あ、思ったより深めに地雷踏んだかも。
先輩が頬を赤くしながら、頬をヒクヒクと引きつらせている。
目つきも邪気というよりは怒りに近い感じだ。
すると、先輩はスゥーっと息を長めに吸い込み、そして吐き出すと言った。
「拓海君、あの女に何を吹き込まれたかは知らないけど、この際ハッキリ言っておくわ。
私はマウントを取るのは好きよ! でも、取られるのは腹が立つの!
そこを弁えながら、後輩として先輩を立てながらしゃべりなさい!」
「この上なく堂々とエグいこと言うじゃないすか......」
その言葉を短くまとめると「ワタシのためにサンドバッグになりなさい」ってことだろ?
うん、改めて自己解釈をするとこの言葉のヤバさが浮き彫りになるな。
それとあの女っていうと、多分玲子さんのことを指してるんだろうな。
なんかよくわからんが玲子さんスマン! 勝手に罪を被せてしまった!
「で、本当に用事はないんですか?」
「あるわよ。といっても、こうして外を出るついでに新刊チェックしに来ただけよ」
「新刊日の把握とかしないんですか?
先輩ならそういうの細かく調べてカレンダーにでも書いてそうなものだけど」
「前まではそうしてたわ。
けど、そうね......例えるなら、ワックはたまに食べる方が美味い、かしら。
たまにこうしてふらっと立ち寄って、そこで自分の感性に引っかかるものを手に取る。
当然、当たり外れもあるけど、それもまた楽しんでる感じよ」
「なるほど......それなら俺もわかる気がします。
といっても、俺の場合は漫画とかの方が多いですけど」
まぁ、その気持ちもはるか昔、それこそ一度目の中学時代とかなのだが。
今はだいぶライトユーザーに落ち着いて、スマホアプリで少し読んでる程度。
あ、でも、その漫画アプリでもビビッと来たもの選んでるから結局同じ?
「なら、暇ですし寄りますか?」
「いえ、いいわ。そういうのは別に一人で行けるから。
それにあなたに普段ワタシが読んでるものを知られるのは、なんだか恥ずかしいわ」
「恥ずかしい? え、先輩が読んでるのってミステリ本じゃ?
......いや、前にライトノベルのラブコメジャンルも読んでるって言ってたっけ」
俺は腕を組みながら先輩が過去に言っていた発言を思い出しつつ、それを口に出してみた。
そして、そのままチラッと先輩を見てみれば、なぜか先輩は顔を赤らめそっぽ向いてるではないか。
おん? これは一体どういう反応だ?
普段あまり話さず、それでいて仲良くもない相手にバレるなら未だしも、俺と先輩の仲ぞ?
一体今更どこに恥ずかしがる要素があるというのか。
「あの、先輩? 別に先輩がラブコメを読んでることは恥ずかしいことじゃないですよ」
「ち、違うわよ! ただその......ちょっとした些細なことを覚えてくれたこととかが嬉しかったとかじゃ全然ないから!」
「急にコッテコテのツンデレかますじゃないすか」
もはやその言い回しは様式美とも言えるよね。
にしても、先輩って案外こういうことで喜ぶんだな。
もう半年ぐらいのい付き合いになるのにそういうの全然知らなかったな。
ということは、俺は案外先輩のことを見ていなかったのか?
いや、さすがにその言い方は語弊があるかもしれないが、まぁ深く関わるのを避けようとしていた節はあるからな。
そう考えると、知らないのも納得だ。
それに、これは先輩に限った話ではないのかもしれないな。
玲子さん、ゲンキング、東大寺さん......もっと広げれば隼人達も。
うん、もう少し積極的に話してみるか。もう前とは違うんだし。
で、とりあえず今は――
「先輩の意外な反応が見れて良かったです」
「......やっぱ生意気度が増した気がする」
先輩は赤らめた頬で俺をキリッと睨むも、すぐにため息を吐く。
そして、気を取り直すように一つ咳払いすれば、話を戻した。
「ともかく! 私は本屋以外ならどこでもいいわ。
そうね.....ワタシに似合う服を選んでくれるというのなら、行くのもやぶさかではないわ」
「先輩、そんな無理して優位を取ろうとしなくても......」
「うっさい! 無理してない! それよりもどうなの? 行くの? 行かないの?」
なんか先輩だいぶ焦ってるな。妙な詰め方してくるし。
正直、もう少しこのレアな先輩を見ていたいところだ。
とはいえ、あまり弄り続けて機嫌を損ねられても嫌なので、ここは話題に変えることにしよう。
「先輩がそこに用があるなら行きますけど......ないなら、映画館に行きません?」
「映画? そうね.....昼を食べても見る余裕はあるわね。
何か見たい映画があるのかしら? 付き合ってあげなくもないわ!」
「なら、一緒に行きますか。テレビCMで気になった映画があるんですよ」
俺達は映画館に行き、そこでCMで見たタイトルと同じタイトルのポスターを探していく。
そして、見つけたポスターを指さすと言った。
「これです。『黄昏の魔女』って映画。
確か、前に先輩そのタイトルの本読んでませんでしたっけ?」
「な、なんで知ってるのよ......変態」
「むやみに罵らないでください。
単純に、先輩がブックカバーをせずに読んでたから知ってるだけですよ。
で、そのタイトルと同じ映画CMやってたから気になったってだけで」
「.......そ、そう」
俺が弁解すると、先輩は再び顔を赤らめて黙りこくってしまった。
そして、目線だけをジロッと俺に向けると言った。
「......むかつく」
その後、昼を食べた後に映画館へ向かったが、先輩は終始ルンルンだった。
そして、映画を見た後「原作では」と語り始める先輩もまた楽しそうだった。
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