第237話 イブの告白#3
母さんに全てを打ち明けると、母さんは思いのほかケロッとしていた。
そんな態度に俺が疑問をぶつければ、論破......ではないが、反論できない謎の説得力のある言葉でもって説得された。
そんな俺の現在は、母さんと一緒に夕食の真っ最中。
俺の告白によって食事はいつもより静かだ。
今日という特別な日なら母さんももっと楽しい話をしたかっただろう。
それだけは少しだけ申し訳なく感じてる。
しかし、俺は今とても楽しく感じている。
楽し気な会話も、嬉しいことも特にあったわけじゃないが、不思議と心がフワフワしている。
ご飯が美味しい。いや、いつも美味しいんだが、今日は特に美味しく感じる。
なんというかこう......ご飯が沁みるというか。ちょっと、変だな。
「.......母さん」
「ん? 何?」
「俺の話、突拍子もないと思わなかったの?」
俺は今日のために買って来たであろう骨つき肉に、手を伸ばしながら聞いた。
その手はあえてだ。この話がただの雑談であることを示すための行動。
そんな行動を知ってか知らずか、母さんは変わらない表情で答える。
「最初は何の創作って思ったけど、拓ちゃんの顔が深刻そうだったからね。
今までにない青ざめた顔で、苦しそうに顔を歪めてたから。
あ、これ、ガチのやつっぽいなって思って」
青ざめた顔に、苦しそうな顔って......え、マジ?
「そんな顔に出てたの?」
「出るわよ~、そりゃもうわかりやすいくらいに。
ま、例え表情が変わらなくてもわかっただろうけど。
なんたってお腹を痛めてでも生みたかった自慢の息子だからね!」
そう言って、母さんは胸を張った。
さらにニコッとした顔を添えて。
その表情は俺の毒気すら抜いていく。
そして、改めて思う。母は強しって。
「にしても、一度目の拓ちゃんってばそんな酷い目に遭ってたのね。
今回は大丈夫だった?......って、今の感じから見ればわかるわよね。なら、いっか」
ほら、こういう所よ。
例え、俺が自らバラしたとはいえ、その話題はデリケートもデリケート。
そんな所に何のためらいも無く触れていくスタイル。
たぶんあえてとか意図あってのことじゃない。
本当に気にしてないと思う。
「まぁ、そうならないために動いてたしね。
無事に一年を乗り切れそうで何よりだよ」
「ふーん......となると、やっぱり四月の最初の頃の拓ちゃんがなんかおかしかったって思ったのは、正解だったのね」
母さんはそんなことを思いながらご飯をパクリ。
一方で、俺はその発言を聞いて目をパチクリ。
「え、何、その時から俺が何か隠してるって気づいてたの!?」
「ううん、そんな感じがしたなーってだけ。違和感を感じたの。
だって、あの時の拓ちゃんは絶賛アニヲタ謳歌中って感じだったのよ?
加えて、太っていようとなんぼのもんじゃいって雰囲気もあったし。
それが急に高校入ってヲタ活は鳴りを潜め、さらにはダイエットを始めたら......そりゃもうねぇ?」
た、確かに、以前とっていた行動を一切しなくなったり、逆に心機一転したように新しいことを始めたりしたら変な風には感じるな。俺だって感じそうだ。
しかし、自分を本気で変えようと思ったら、それこそコソコソとやるのは難しいもので。
そう考えると、どっちにしろバレるのも時間の問題だったって感じるよな。
母さんは性格的に、本人がぶっちゃけるまでとことん待ち続けるタイプってだけだったろうし。
「なるほどなぁ~、どうやら俺は隠し事は無理なようだ」
「むしろ、出来るタイプだと思ってたの?
拓ちゃんは顔にも表情にもハッキリでるからね」
「そ、そんなにか......」
「いい加減、自分の色恋沙汰にも決着つけるべきだと思うわよ。
待たせてる四人の女の子が可哀そうだわ」
「んぐふっ!.......ゲホッゴホッ」
飲んでいたスープが気管に入りかけたし、むせて逆流させたら今度は鼻から出そうになった。
あっぶねぇ、危うく肺でスープを飲むところだった。
つーか、なんで母さんが俺の恋愛事情を知ってるの!?
「え、ちょ、母さん......いつから?」
「ふふん、ママ友ネットワークを舐めないことね。拓ちゃん程度の行動なら把握済みよ。
ちなみに、お相手の名前は......まず久川玲子ちゃん、そして白樺永久ちゃん。
まぁ、この二人とはお母さんも付き合いあるしね」
なんなら、永久先輩に限ってはもう何度か家に侵入してるしね。
「後は玲子ちゃんの友達の元気唯華ちゃん。あの子とはたまに外で顔を合わせるわね。
あの子常に元気そうに振舞ってるけど疲れないのかしら?
とてもそんな風なタイプには見えないんだけど」
おいゲンキング、お前の猫かぶり......普通に母さんにバレてるみたいだぞ。
「で、最後は東大寺琴波ちゃんかな。あの子には会ったことないのよね。
ねぇ、今度お話ししたいからお家に連れてきてよ! なんなら全員!」
「無茶をおっしゃる」
「女子会したぁい~~~!!」
そう言って、母さんは体をクネクネさせながら抗議してきた。
母さんで女子会は無......いや、何も言うまい。半分ぐらい言ってたけど。
にしても、本当に知ってたよ。
全員の名前いい当てちゃったよ。
恐るべしママ友ネットワーク。
どこに目や耳があるかわかったもんじゃないな。
「.....母さんはどう思うんだ? こう、複数の女子と関わってる俺のこと。
ぶっちゃけ女ったらしとか思ったら全然言ってもらっていいんだけど。
俺は母さんの抗議をスルーしつつ、質問で話題を逸らした。
もっとも、この話題を自分で掘り下げるつもりは無かったのだが、気が付いたらつい。
すると、母さんはキョトンとした顔で言った。
「別にいいんじゃない?」
「え、いいの?」
「だって、付き合ってるわけじゃないんでしょ?
もし、その中で付き合ってる人がいて浮気してるなら、この息子修羅の道を歩もうとしてるなぁって思うけど」
「いや、付き合ってはないよ」
さすがに告白の返答待ちなんてことは言えんが。
つーか、仮に浮気状態でもその程度の気持で済むのかよ。
我が母ながら全っ然価値基準がわからん。
そんな俺の返答に対し、母さんはコップに口をつけた後答えた。
「なら、問題ないわね。まぁ、あくまでお母さん的にはって話だけど。
今の拓ちゃんの状態は結婚相談所による仮交際期間って感じなのよ。
全員とお友達状態で、お友達として付き合う分なら何人でもOK。
だって、それは互いに相性を調べ合ってる期間なんだから」
「な、なるほど......」
俺はずっと今の状態について悪いことをしてる気分だったから、ちょっとだけ肩の荷が下りたような気分になった。
「けど、その人達はあくまで結婚という目的のために、そういう状態になることを初めから同意した状態で、仮交際しているってことは頭に入れておかなきゃダメよ?
お母さん的に悪いとは思わないけど、その子達の立場になって考えたら、その状態が続くということがどれだけ辛いことかは理解しないといけない」
「大丈夫、わかってる」
辛い思いをさせてることは自覚してるし、玲子さんからも釘を刺された。
それでも、ここまで長引いてしまったのは、11月にあった色々なゴタゴタもそうだけど、単純に俺がそれに考えをシフトできるまで気持ちを整理できてなかったからだ。
けど、それも母さんに全てを打ち明けた今もう迷いはない。
いや、この言い方は正確じゃないな。
俺自身に対する気持ちにはもう迷いはない。
だから、後はここに来た時と一緒で前に進むだけ。
「明日、自分の気持ちを伝えようと思う」
「告白するの?」
「いや、本当にありのままの気持ち。付き合うとかそんなんじゃなくってね。
どうせ嘘が下手なら、とことん正直になった方がいいかなって」
「.......そっか」
母さんは俺の言葉を聞いて、なぜか嬉しそうに笑った。
そして、その笑みのままこうも言った。
「なら、頑張りなさい。仮に全員に振られたら、お母さんが胸を貸してあげる」
「さすがにそれは......いや、その時はお願いします」
「任された!」
そしてその後、俺は母さんと一緒に残りのイブの時間を過ごした。
その時に母さんと一緒に見たドラマは、母さんが昼に録画していたもので、男が何人もの女性と浮気していて妻から離婚される昼ドラだった。
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