第235話 イブの告白#1
クリスマスパーティー......もちろん、読んで字のごとくの意味だ。
しかし、俺の人生の中ではクリスマスと日に特別な思いではない。
いや、強いて言えば、母さんがサンタ代わりに買ってきてくれたゲームソフトとかか。
ただ、それもシングルマザーという点の負担から小学3年生とかで消えたけど。
まぁ、俺もそん時は母さんの事情を知っていたし、特別ねだることはなかった。
だから、なんというかまぁ......クリスマスはただの平日もしくは休日なんだよな。
もちろん、イブも含めてね。
その当時の友達とかは、家族で旅行に行ったり、親同士で親交があればパーティーらしき食事会をしていたりしてたそうだけど。
というわけで、クリスマスパーティーと言われてもあまりピンと来ない。
「あれ? もっと喜ぶかと思ってたんだけど」
俺の反応に気付いた成美さんが予想外とばかりに首を傾げた。
その反応に対し、俺は思ったことを正直に話す。
まぁ、成美さんに嘘をつきたくないしな。
ついた後が怖いというのが本音だが。
「喜ぶも何もそういう習慣が無かったからよくわからないんですよ。
もちろん、皆でワイワイするのは楽しいって思いますけどね。
でも、別にそれ自体はクリスマスに合わせなくたって出来ますし」
「夢が無いわね~。聖なる夜なのよ? 年に一度の特別な日なのよ?
それこそ、青春を謳歌する義務がある高校生にとっては三回......いや、受験シーズンを除くと二回しかないんだから」
「いやまぁ、回りくどい言い方はしましたけど、あるなら参加する意思はありますよ。
ただ......その、ぶっちゃけ言いますと、金城家のクリスマスパーティーに参加するのは気が重いと言いますか」
その言葉に、成美さんは「本当にぶっちゃけたわね」と言いながらも、特に怒ることなくむしろ笑って返答した。
「大丈夫だって。これはむしろあなた達学生のためのイベントなんだから。
だから、今は拓海君を誘ってるけど、その後も君のお友達を招待するつもりだから。
これに特に私達の圧力はかかってないから安心して」
「そういうことなら......まぁ」
というわけで、俺は成美さん主催のクリスマスパーティーに参加する運びとなった。
どういうことをするかは、完全に成美さんの方で用意するらしい。
なので、俺には遠足が楽しみで眠れない小学生の気分を味わって欲しいとのこと。
そんな会話をしていると、いつの間にか俺の家の前まで着いたようだ。
俺は成美さんと運転手さんにお礼を言い、出ていこうとしたその時、ふと思ったことを言った。
「成美さん、柊さん......柊潤に関してはほどほどにしてやってください」
どうしてかはわからないが、ふと脳裏に彼女の姿が過ったのだ。
別に俺が庇う必要はないし、なんだったら彼女の自業自得。
......なのだが、それでも勇姫先生の知り合いだ。
先生の表情が曇るような結果にはなって欲しくない。
とはいえ、相手が相手だ。
金城財閥の令嬢で、あの隼人がコンプレックスを抱きまくる完璧超人。
加えて、極度のブラコンであり、隼人が関わるとあらゆる権力を行使する......たぶん。
そうなれば、一般人の柊さんなんて、この世界に存在していたこと自体無くなるんじゃなかろうか。
大袈裟に思ったこの言葉が、容易に否定できないから怖いんだよなぁ。
「拓海君にそう言われちゃ考えるしかなさそうね。
君に嫌われたくないし、何より隼人の親友だもんね」
成美さんは微笑みながらそう言った。
どうやら俺は知らず知らず成美さんの好感度を上げていたらしい。
まぁ、たぶん隼人の好感度次第で上下する好感度だろうけど。
―――数週間後
俺の日常はテストも含めてあっという間に過ぎていった。
その日常は、まるで11月の月日が嘘であったかのように穏やかで。
ちなみに、勇姫先生は案の定デレデレであり、会うたびに惚気られた。
あと他に挙げるとすれば、やはり季節がクリスマスムード一色というべきか。
クラスメイトの会話でも、「クリスマスに彼氏とデート」だったり、「クリスマスイブにお泊り会」だったり、「クリスマスガチャ来るよな」だったり......最後のはちょっと違うか?
もちろん、それは学校に限ったことではなく、駅前のショッピングモールやコンビニでもそうだ。
なんだったら、そういう場所って一か月前からそのムード持ってくるよな。
気が早いというか、なんというか......まぁ単純に経営戦略か。
「ふぅー、カイロ持ってきてて良かった」
そんなこんなで現在、12月24日。通称クリスマスイブだ。
その日の午前中から、俺は一人駅前通りに向かって歩いている。
言っておくが、デートでの待ち合わせをしてるとかではない。
今日という日に関しては、ありがたいことにお誘いが来てたが、あいにく断らせてもらった。
それは俺が今日を特別に考えてるからだ。
「あ、あそこか。母さんがクリスマスケーキを予約したって店」
俺は今年の4月.....高校へ入学して少しした所でタイムリープしてきた。
クソッたれな自分にケジメをつけ、一念発起して色んな事に愚直に接して現在。
多くの人に関わり、友達を作り、好意を寄せられ、トラウマと戦った。
一度目の俺を形作って来たものは、それこそトラウマと向き合ったことで無くなり、俺は生まれ変わって新たな俺としてこの人生を過ごしていく。
しかし、その俺として生きていく過程において、俺はやらなければいけないことがある。
それは俺なんかに好意を寄せられてくれている彼女達に向き合うためにも必要な儀式。
「すみません、予約していた早川ですけど」
俺は店員からケーキが入った箱を受け取ると、転ばないように意識しながら家へと戻る。
往来するカップルがイチャイチャとした甘い雰囲気を出す中、俺は一人瞑想するように心を整えていた。
頭の中で考える度、緊張によって僅かに心拍数があがり、その度に深呼吸を繰り返す。
そして、人通りの多い駅前通りを抜けると、閑静な住宅街へ。
少しずつ自分の家が近づく度、僅かに喉が渇く。
「まだ午前中だぞ......落ち着けって俺」
そして、やや早い鼓動をする心臓をそのままに家に付けば、その後はなんというかあっという間だった。
もちろん、気を紛らわすように筋トレしたり、漫画を読んだりしていたが、それでもだ。
夕方近くになれば、クリスマスということで何やら張り切ってる母さんの物音が、一階から俺の部屋まで微かに届いている。
そうなれば、俺はいよいよ呼吸が浅くなってきた。
意図せず心臓はドキドキとし始め、気分はまるで好きな子に告白する直前の男子のよう。
いや、告白という意味では全然間違ってないんだけど。
精神統一で時間をついやしていると、階段下の方から母さんの声が聞こえてきた。
どうやら夕食の準備が出来たらしい。
つまり、俺も腹をくくる時が来たようだ。
「今行くー!」
俺は平常心を装って、一階へと降りていき、リビングへ。
机の上には、今日のために特別に用意したような料理が並んでいる。
母さんの意気込みが感じられる豪華な晩餐だ。
「拓ちゃん、一緒に食べましょう。
とはいえ、本当に今日はお母さんと一緒で良かったの?
なんというか、今日はクリスマスイブよ? 友達とパーティとかないの?」
「それは明日の予定だから大丈夫」
まぁ、厳密に言えば今日から開催する予定だったようだけど、俺の都合で無しになった。
まさか俺一人参加しなくなるだけで予定が無くなるとは思わなかったけど。
俺の返答に母さんは「そっか」と返事をすると、それ以上は何も聞かず、席に座り始める。
俺も合わせて座ると、膝の上に乗せた手をギュッと握りしめた。
そして、母さんへと向き合うと、心臓が早鐘を打つままに口を開いた。
「突然だけど、母さん......話したいことがあるんだ」
「話したいこと?」
「俺の......一度目の人生について」
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