第234話 あの隼人がねぇ......ほろり
俺は一瞬宇宙猫にでもなった気がした。
隼人の言った言葉があまりにも衝撃的で、すぐには理解できず固まった。
口からは反射的に驚きの声が出たが、未だに言葉が上手く吞み込めない。
「付き合った?......誰が?」
「俺が」
「誰と?」
「愛名波と」
「付き合った......?」
「あぁ。だから、そう言ったじゃねぇか」
隼人は面倒くさそうに肯定し、それを聞いて俺はようやく言葉を受け入れた。
ま、まさかあの一件があそこまで勇姫先生の評価を高めていたなんて。
つーか、それ以上にコイツがわざわざそんな関係に手を伸ばすなんて......。
「愛名波さんはそこまで価値が高かったのか?」
「価値......あぁ、まぁそうだな。
確かに、アイツの見た目は一見派手だが、内には確固たる意思がある。
そして、アイツは過ちをすぐに認められ、相手が誰であろうとハッキリと謝罪を言葉に出来る。
プライドもそれなりにあるくせに、それが出来るんだ」
まぁ、それは確かに.......。
俺と話してる時も普通に謝ったことあるしな。
それこそ、柊さんと謝罪に来た件なんて勇姫先生の人の良さがよくわかるだろう。
「加えて、アイツは男に囲まれようと物怖じしない。
天然ものであそこまで上流階級相手に戦える素質を持った人間はそういない。
加えて、あれでまだ原石ときた。磨き方次第でいくらでも輝く。
それこそ、その場にいるだけで誰もが目をくらますぐらいにな」
「はぁ.......」
俺は隼人がここまで誰かを評価する光景を初めて見た。
まさか勇姫先生がこんなに褒められるなんて......なんだか自分のことのように嬉しい。
しかし、ってことは、コイツも意外と魅入られてたんだな。
「なんというか、お前ああいうのが好みだったんだな」
「そうだな。俺がやろうとしていることを考えれば、あれぐらいは求めてたな。
とはいえ、あそこまでの純度の高さで存在しているとは思わなかったが」
そういう事じゃないんだが......無自覚ってことなんだろう。
こんな風に理論づけているが、多分もっと純粋な気がする。
例えば、散歩していたら道端に咲いていた花に目を取られるような素直さで。
「ま、根拠はどうあれ愛名波さん的には望んだ結果だからいっか」
「なんだ、アイツが俺に告白ったこと知ってるのか?」
「いや。だけど、お前に焚きつけた後に愛名波さんが露骨に関わってきてな。
そん時にある程度の察しがついてた。
それを受けるかどうかを答える条件に、俺の試練に一役買えとかなんとかってな。
けど、こんな結果になるとはさすがに予想外だったけど」
「俺が約束を反故にする人間とでも?......まぁ、否定はできないな。
だが、今回は俺の望む結果ではなかったが、それ以上の価値を見せた。
あんな存在を手放すのは惜しい。だから、早めに俺の手元に引き寄せただけだ」
なんかコイツの惚気話を聞かされてるみたいで、口の中が甘くなってくらぁ。
にしても、こうなった以上明日以降の勇姫先生は無事に生きているだろうか。
とりあえず、しばらくはデレッデレのデロッデロとしたスライムになってそう。
「まさかお前から恋愛話を聞くとはな。予想だにしてなかった。
とはいえ、なんというか......その、お前の姉にバレた時どうすんだ?」
俺は勇姫先生を素直に応援したいのは事実だ。
あんないい人が幸せにならんのは俺とて納得いかん。
とはいえ、それをあのブラコン姉の成美さんが許すかどうか。
その質問に対し、隼人は鼻で笑った。
「ハッ、今更アイツがしゃしゃる場面なんてねぇ。
邪魔立てしようものなら、姉であろうと潰す。
アイツは俺のもんだ。誰にもやらねぇ」
もしこの場に勇姫先生がいたらどうなっていただろうか。
オーバーキルでもはや原型すら残っているかも怪しい。
少なくとも、「もうここで終わっていい」と真っ白にはなってそうだな。
―――キーンコーンカーンコーン
「あ、チャイム」
「そろそろ。帰るか。久々にまともに話せて満足だ」
そう言って隼人は立ち上がり、ポケットに手を突っ込みながらドアに向かってく。
俺は急いで勉強道具を片付けると、その後ろをついていった。
正直、あんま捗らなかったが、なんか色々と胸がホクホクなので良しとしよう。
そして、俺は隼人と適当に正門まで話しながら歩き、隼人が車で帰るの見送った。
んでもって、俺も帰ろうとした矢先。
隼人の車が見えなくなったタイミングで、近くに止まった車に拉致られた。
おっと、この手口は......?
「ねぇ、拓海君! 隼人が付き合ったってのはホント!?」
そう言ってきたのは、隼人の姉の成美さんである。
つまり、ここはリムジンの中であり、俺は成美さんと向かい合って座っている。
あぁ、こんなかめっちゃ快適~。あ、温かいココアあざーす。
「君もだいぶこの状況に慣れてきたわね。かなり久々だと思うんだけど」
「まぁ、こんなことするの成美さんぐらいと思ってましたし。
で、聞きたいことってさっきのことですか?」
そう聞き返した瞬間、成美さんは興奮した様子で反応した。
「そうなのよ! まさか隼人が私の知らないところで彼女を作るなんて......いや、作ること自体はいいのよ?
私は隼人が何より大事だけど、束縛したいとは思わないし。けど、なんの相談もないなんて」
「相談も何もそれってほぼほぼさっきですよ。
っていうか、俺が聞かされた後、俺はずっと隼人といましたし。
成美さん、あなた......盗聴してますね?」
そう聞くと、成美さんは冷や汗をかきながら目を逸らした。
ホントこの人隼人が関わると途端にポンコツになる気がする。
っていうか、そういうの前してないとか言ってなかったっけ?
「その、ね? 今回は特別というか......ほら、ここ最近学校周辺できな臭いことあったじゃない?
それこそ、拓海君や隼人が襲われるようなことも起きちゃったし」
なるほど、それで盗聴ってことか。まぁ、それなら納得だ。
しかし、成美さんがいながら止められなかったというのは妙だな。
「成美さんは介入しなかったんですか?
その、弟が襲われる可能性があることはわかってたんですよね?」
「えぇ、それぐらいはわかっていたわ。
けど、隼人の方から『余計な手出しをするな』って来てね。
だから、私は事の成り行きを指を咥えて見守ることしかできなかったの」
「隼人がそんなことを......?」
となると、下手したら前提が崩れることになる。
俺は隼人が突発的に襲われたと思っていたが、今の話では襲撃自体は把握済みだった可能性がある。
となれば、もとより襲われるつもりだったということか?
いやいや、さすがにアイツでもそんな危ない橋を渡ろうとは思わないだろう。
それは試練の範疇としてもやりすぎだし、何よりアイツのメリットがない。
......まぁ、これ以上深く考えるのはやめよう。
もうあの件は終わったんだし。
「ま、何か思うことはあったんでしょうし。そこは隼人の問題です。
それよりも、隼人から聞いたんですが、隼人を襲った連中はどうしたんですか?」
「あ~、あのゴミはもちろん焼却場に出したわ。ふふっ、気にすることじゃないわ」
「......さいですか」
何気なく聞いた質問だったが、地雷だったかもしれん。
焼却場ってアレか? 言葉通りの意味か? やべぇ、怖くて聞けねぇ。
心なしかココアがもう冷たく感じる。もう少し体を温めさせてくれ。
そんな怯えてる俺の姿が気になったのか、成美さんは首を傾げつつも、全く別の話題を提示した。
「あ、そうそう今回拓海君を攫ったのは、隼人のことを聞きたかったのもあるんだけど、もう一つ用件があったからなの」
「用件ですか?」
「えぇ、拓海君.......クリスマスパーティしない?」
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