第230話 保護者同伴の謝罪とは思わなんだ
なんだかとても大変な平日を送った週の休日。
その日の俺はそれはもうベッドの上でゴロゴロしていた。
理由はもう先に言った通りだ。
とはいえ、まさか自分があんな形でトラウマと対決するとはな。
飯田、益岡、加々見.....どの三人ももう顔も見たくないし、会いたくない。
しかし、あの三人が結託してここまで来た執念を考えれば、まだ油断は出来ないよな。
「けどまぁ、あの天下の金城隼人にケンカを売った以上、このまま逃げ切れるとは思えんけどな。
もっと言えば、金城姉に狙われるか。ま、自業自得だけど」
さて、となれば今日はどうしようか。
ゴロゴロするにしても、ずっとベッドの上で過ごすのはさすがにな。
かといって、今何をするわけでもなく。
前だったらラノベとか漫画とかアニメとか色々読んだり、見てたりしてたよな。
それこそ、現実逃避するぐらいに時間も忘れて没頭してた。
それがいつの間にか、やっぱ筋トレぐらいやろうかなと悩む日が来るとは。
「よっこらせ」
俺はベッドから起き上がると、冬特有の寒さに体が震える。
掛け布団の温もりから離れると、どうしてこうも寒いのか。
別に、俺の部屋は気密性が悪いわけじゃないんだけどな。
これが冬の寒さってことか。エアコンいれよ。
――ピロン♪
突然スマホが音を鳴らした。メールが届いた音だ。
スマホの通知画面の少し上には時刻が書かれており、時刻は10時14分。
こんな朝っぱらから......というほどの時間でもないが、今日は特に予定もなし。
だから、こう急に予定が入りそうな気がすると、若干気が滅入る。
「とはいえ、確認しないわけにもいかんしなぁ」
俺は改めてスマホのレイソ通知に視線を向ける。
瞬間、俺の目は僅かに細くなった。
なぜなら、その相手は柊さんであったからだ。
この人物は正直、これまでの一連の出来事で一番疑ってる人物である。
そんな相手からまさか連絡が来るとは思わなかったが......一体何のようだ?
『今から会う事ってできる? 少し話したいことがあって』
通知画面に表示されていたのは、その一文のみだった。
なんという罠臭だろうか。
いや、それは俺が柊さんを警戒しているからか?
ともかく、話す内容をもう少し具体的に言ってもらわねば。
『別にいいけど、何を話すつもりなのかによる』
トーク画面を開き、早速返答した。
すると、ものの数秒で返答が返ってくる。
『これまでのこと。全部話す』
「これまでのことって......」
俺の想像通りなら、これはもはや自白と同じだ。
つまり、これまでの俺に起こった出来事の数々は柊さんの仕業になる。
しかし、どうして柊さんが俺なんかをターゲットにするんだ?
俺がなんかしたか? もしかして、柊さんの提案を断ったから?
だとしたら、理不尽にも程があるだろ。暴君かよ。
しかし、それを話そうってんなら会うべきか?......う~ん。
「少し考えよ」
既読をつけてしまったが、俺は一先ず返答を保留にした。
そして、寝間着から部屋着に着替えると、一階に降りていく。
リビングに移動すると、母さんがソファに座って再放送のドラマを見ていた。
ドラマの内容はシリーズの多い刑事もので、前のシーズンは見たことあるな。
「あら、拓ちゃん、おはよう」
「おはよう、母さん」
俺はそのままキッチンの方へ移動し、冷蔵庫に手をかけ、そこから野菜ジュースを取り出す。
ストローがついてる小さめな紙パックタイプだ。
それを飲みながら、母さんの方をチラッと見つつ、そのまま紙パックを吸い潰すように飲み干した。
ストローが空気を吸ってズコココと音を鳴らし、それを数秒続ける。
そして、ようやく紙パックを捨て、母さんの方へ改めて視線を向けた。
「母さん、一つ質問してもいい?」
「ん~? どうしたの~?」
「もしさ、自分にとって顔が合わせずらいとか、会うのがちょっと嫌だなって思う人が、メールで会って話したいといった内容を送ってきたらどうする?」
「う~ん、その人物が母さんにとってどのような評価によるかな。
例えば、その人が前まで仲が良い感じで、それでいて仲違いしてしまったとしたら、お母さんは会いに行くかもしれないけど、そうじゃないとしたら会わないかな」
「......そっか」
「だけどね、拓ちゃん。結局は拓ちゃんがどうしたいのかを考えなさい。
その相手が例え苦手な相手だったとしても、それで拓ちゃんが気持ちにケジメつけるキッカケになるとしたら、その相手と話してみた方がいいと思うの。
話してみて、それでいてダメならばもう会わないとか決めたらいいんじゃない?」
まぁ、そりゃそうだよな。
いくら他の人の意見を聞き入れようと、それを実行に移す決断を下すかどうかは自分だ。
そして、その自分が行きたいかどうか......この決断が俺の気持ち的にどうなのか。
「......よし」
瞑目し少しだけ考えた俺は、ポケットからスマホを取り出して返答した。
会う時間は俺の返答も相まってか正午辺り。
それでいて、なぜか場所を指定された。
ここは......前に柊さんと話した喫茶店だったような。
「まぁ、それだけ相手も本気だと捉えよう」
そして、俺は外用の服に着替え、出発まで適当に時間を過ごした後出発した。
十数分後、目的地に辿り着くと、そこには柊さんの姿があった。
同時に、なぜか勇姫先生の姿もあった......え、なんで?
「え、えーっと、おはようごさいます?」
「なんで疑問形なのよ。もしかして、潤がアタシのこと言わなかった?」
「まぁ、トーク画面で話した限りは」
瞬間、勇姫先生は隣にいる潤をギリッと睨んだ。
なんというか心なしか勇姫先生の目つきが鋭い。
それこそ、友達というよりは、悪いことした子供を見る感じに近い。
「え、えーっと、その......自分一人の方が会って話したいって言った方が、誠意が伝わるかなって思って......」
「だからって、そのためだけに嘘ついたらかえって誠意無くなるでしょ!
あんた、そんなに考えなしとは思わなかったけど......やらかすときはホントやらかすね」
「......ごめんなさい」
「謝る相手が違う!」
「拓海君、ごめんなさい」
「いや、俺は別にいいけど......」
え、なにこれどういう状況?
なんか勇姫先生が正しく母親的ポジションでもって柊さんに接してるんだけど。
もはやそっちの方が戸惑いの方が大きい。
「ひとまず、中に入って話しましょ。
こんなところで話してちゃ、他の人にも迷惑になっちゃうだろうし」
「あぁ、そうだな」
勇姫先生の提案に乗り、俺達は喫茶店へと入っていく。
そして、テーブル席に座ると、俺の前には柊さんと勇姫先生が座った。
当然ながら、柊さんが奥側で逃げられないように。
とりあえず、飲み物だけ済ませると、早速話を始めた。
「それで、話をしたいって言ってたけど、これまでの一連のことでいいんだよね?」
その言葉に、柊さんはコクリと頷く。
「私はゆうちゃんの為と思って、拓海君に色々な状況を押し付けた。
色んな女子に声をかけ拓海君に誘導するようにしたり、他校の女子を使って間接的に合コンの流れを作り出したり」
おっとー? それに関しては、俺はガチだと思ってたぞー?
そうなると、山田と田山が酷く浮かばれなくなるじゃないか。
けどまぁ、結局合コンは出来て話は弾んでたようだし......いいのか?
とはいえ、今のに関しては中々えぐかったぞ。
「それだけじゃないでしょ。ちゃんと言いなさい」
勇姫先生がやっぱ母さんしてる。
そんな母さんの言葉に、柊さんは依然としてしょんぼりしながら言った。
「その状況を作って、拓海君の周りの女子を煽って、拓海君に精神的負荷がかかるように仕向けました」
.......はぁ?
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