第228話 どいつもこいつも#1
かつてのトラウマが消え、この場に拓海、勇姫、春香、隼人の四人だけが残った。
そして、拓海は隼人が目覚めたことに気が付くと、勇姫と春香に声をかける。
「勇姫先生、椎名さん、さっきは助けてくれてありがとう。おかげで命拾いしたよ」
「いいってことよ。これも先生の愛のなせる行動ってか?」
「ちょっと気持ち悪いこと言わないでよ。
この弟子は”ついで”って言ったでしょ。
それよりも、ほら。アタシ達はさっさとこの場を離れるわよ」
勇姫は春香の腕を掴み、無理やりにバスケットコートの入り口の方へ移動させようとする。
その行動に、春香は戸惑いながらも勇姫の行動に従い、そして疑問の言葉を零す。
「あれ? 金城君に声をかけなくていいの?」
「いいわよ、別に。だって、本来いないはずのアタシ達がこの場にいるのは不自然じゃん。
それになにより、あんな大立ち回りをして野蛮な女とか思われたらサイアク!」
「なるほど、乙女だね~」
「うっさい。後、あんたも余計なことを言うんじゃないわよ!」
勇姫はそう言って拓海に釘を刺すと、春香とともに出て行った。
その姿を見た拓海は「俺達もすぐに離れるんだけどな」と呟き、未だぐったりしてる隼人に肩を貸した。
「よっこらせっと。隼人、歩けるか?」
「あ、あぁ......」
「とりあえず、ここから移動するぞ。少しの間辛抱してくれ。
......にしても、やっぱお前見かけより筋肉あるな。こっそり筋トレしてた?」
そして、拓海もゆっくりながらこのコートを去っていく。
そうして無人になったバスケットコートを橋台の近くから眺める一人の人物がいた。
その人物は橋台から離れ、バスケットコートを囲むフェンスに指をかけると、一人でにしゃべり始める。
「あ~あ、なんか意外な結果になっちゃったな~。
これってもしかして君の仕業? だとしたら、やるね」
そう言って振り返ったのは柊潤であった。
そして、潤の視線の先には、同じく橋台の奥側から歩いてくる空太の姿が。
空太は両手をポケットに突っこんだまま、潤の一定の距離まで近づくと答える。
「確かに、拓海を呼んだのは俺だ。あいにく俺は戦力外だからな。
もっとも、拓海がここまで出来るとは思ってなかったが」
「それに関しては私もびっくりだよ。
何かとゆうちゃんの家に行くことが多かったけど、全部ダイエットの為だと思ってた。
けど、ゆうちゃんのお父さんと親交があるだったら、あの動きは納得だね~」
まるで他人事のように話を進める潤。
そんな潤の言葉に、空太は顔色一つ変えずに聞いた。
「それで、どうしてお前はこんなことをしたんだ?
俺を使って拓海にまで近づいて。だが、狙いは隼人。
行動と結果がちぐはぐのような気がするんだが」
「全然、ちぐはぐじゃないよ。
金城君がああなったのは手段でしかない。
私の目的は始めっから拓海君だよ。
ほら、ゆうちゃんが手こずってたみたいだし」
「――その話、俺にも詳しく聞かせろよ。柊潤」
その時、声を聞いた純はピクッと反応し、初めて焦ったように目を剥いた。
なぜなら、潤の前に現れたのは、この場にいないはずの隼人であったからだ。
隼人は両手をポケットに突っ込みながら堂々とした佇まいで、空太の横に並ぶ。
そして、潤は隼人を睨み、ここにいる訳を尋ねた。
「あなたがどうしてここにいるの?」
「そりゃ、俺が本物で、お前が襲った奴が偽物だからだ。
あっちは俺に化けた俺の手下の五里。つまり、お前は騙されたわけだ」
「どうやって? あの姿はどっからどう見てもあなただった。
それこそ、助けに来た拓海君やゆうちゃんが気付かないほどなのはおかしい」
「別におかしいことじゃない。単なる技術の結晶さ。
顔は俺そっくりのマスクを用意し、声も俺そっくりの変声機を取り付けただけのことだ。
ただ、顔を殴られれば青あざが出来ないのは不自然だから、顔だけは徹底的に守らせた」
そう説明しながら、隼人は空太に近づく。
それから、空太の頭上で手のひらを下に向け、それを水平に動かした。
「とはいえ、身長差やガタイに関してはどうにもならなかった。
五里は俺よりデカいし、ゴツい。
けどまぁ、気付かなかった以上俺の勝ちだ。
どうだ? 思っているよりも単純な小細工だろ?
ま、お前はそれすら気づかなかったわけだが」
「そういう所が本当にムカつく!」
潤は今までにない睨むような目つきでもって隼人を見る。
しかし、隼人はその視線を向けられてもどこ吹く風と言った様子で、再度聞き返した。
「お前の質問に答えてやったんだ。次は俺の番だ。
俺が聞きたいのはさっきの回答の続き。
どうせこれでお前の茶番も終わりなんだろ? だったら、言えるはずだ」
隼人の質問に、潤は大きくため息を吐いた。
そして、フェンスに背中を預けると、足を組んで答え始める。
「目的は変わらないよ。
私の目的は拓海君の意識覚醒であり、それも全てはゆうちゃんのため。
拓海君のこと調べて思ってたけど、アレは自分で解決できるようなもんじゃない。
いや、正確に言うと自分でも解決できるけど、拓海君の場合は無理って感じかな」
「というと?」
「拓海君の意識の根本は自分自身への罪意識。
どうしてそう思ってるかは知らないけど、その意識の深さはもはや呪ってるレベル。
自分自身に呪って心をがんじがらめにしてるんだから、自分で解決できるわけがない」
その言葉に、隼人は少しだけ理解できるような気がした。
これまでの拓海という人物は、例えるなら”理想のためなら死ねる特攻兵”だ。
自分が思い描く理想のためなら、どれだけ自分が傷つこうが躊躇わない。
むしろ、それが当然であるかのように振る舞っている。
もっとも、その意識は拓海自身にはまるでないが。
だからこそ、隼人は拓海に理想的なヒロインが揃った時点で、勇姫に”拓海の意識を変える”ことを指示した。
隼人が勇姫を起用したのは、拓海を客観的に見れる第三者が必要だったからだ。
なぜなら、隼人が揃えたヒロインではあまりに近すぎるのだ。
近すぎるが故に、拓海が弱みを見せまいとする。
また、ヒロイン側でも拓海の意識に同情してしまう恐れがあった。
もし、ヒロイン達の言葉が拓海に響くとすれば、それは拓海自らが弱みを見せた時しかない。
しかし、それがいつ弱みを見せるかなんてわかったものではない。
だからこそ、長期戦を見込んで勇姫を投入したのだ。
第三者だからこそ、話せることがあると思って。
しかし、そんな隼人の思惑はすぐに破綻することになる。
それは当然、潤による拓海への干渉だ。
「ぶっちゃけ、ゆうちゃんがやろうとしてることはすぐに分かった。
ゆうちゃんは拓海君に積極的に関わり、それでいてダイエットのコーチを自ら買って出たのは、全て拓海君との仲間意識を作るため。
それも拓海君の周りにいる恋する女子じゃなくて、異性の友達として」
「だろうな。俺はアイツには具体的な指示は出してない。
その上でアイツが拓海の心の隙間を作るために生み出した策がアレだった。
だが、その全てはお前によって壊されてしまったがな」
「壊したなんてとんでもない。時間がかかり過ぎるから短縮させただけだよ。
拓海君に様々な人物を関わらせ、それに伴って乙女四人を誘爆させた。
それを繰り返すことで、拓海君に精神的疲労を蓄積させ、強制的に弱みを作り出す。
そのフィニッシュがコートのアレだったんだけど......なんかそれよりも先に解決してたっぽかったね」
そんな潤の言葉に、隼人は胸ポケットに入ってるスマホをチラッと見つつ、言った。
「なるほど。大体想像通りだったが、実際に話を聞いてさらに納得した。
お前のやったことはある意味では間違っちゃいないのかもしれない。
だが、お前は拓海の精神的負荷を考慮しなさ過ぎた。
それに関して俺はお前を許すことができない」
瞬間、潤は隼人の言葉を鼻で笑う。
「それあなたが言うの? これまで散々拓海君に色々としかけてたあんたが」
「俺はあらかじめアイツに『価値を示し続けろ』と言ってある。
そういう契約のもとの行動だ。
つまり、アイツは俺のやってることを理解している。
しかし、お前は違うだろ。
お前は俺を隠れ蓑に好き勝手やってくれた。
その罰を受けてもらうだけだ」
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