第223話 縦読み不良漫画で見る展開のやつだ!
俺が今にもトラウマの因縁の相手にボコられようとした時、一人の男が声をかけた。
その姿は一言で言えば、ゴリラと熊を足し合わせたような大男だ。
身長は190センチぐらいはあるだろう。
加えて、制服越しにもわかる筋肉の厚み。
なんか目の前にオール〇イトが現れた気分だ。
っていうか、よく見たら同じ高校かよ。
あんなゴツい人見たことないぞ? 一年か三年か.......ん?
よく見たらなんか見覚えあるような......?
ともかく、そんな男が不良三人に立ち向かった。なんという激熱展開!
「あぁ、誰だテメェ?」
「俺はしがない高校生だ。だが、こういった光景を見逃せない高校生でもあってな。
男三人が寄ってたかって一人を囲んで......恥ずかしいと思わないのか?
やるとすればタイマンが道理だろ!」
おい、しれっと俺が戦う流れに巻き込むな。そうじゃねぇだろ。
助けられる身の俺が言うのもなんだけど、そこはサッと助けに入ってくれよ。
そんなことを思いつつも、俺は決して言葉に出さず静観した。
すると、飯田は横やりを入れられたことに腹を立てたのか、首をコキッと鳴らしながら、大男の目の前で近づいた。
「ハッ、テメェ......俺達がテメェの図体ごときでビビると思ってんのか?
どうせケンカもしたことねぇナリだろ。たまにいるんだよな、そういうデカさで威嚇する奴」
飯田がそう言うと、彼の後ろから益岡と加々見が近づいた。
なんというか、一触即発って感じだ。今にも爆発しそう。
アレ? 俺ってば、いつの間にか不良漫画の世界に転移してたりしないよね?
そう思ったのも束の間、飯田が思いっきり拳を振り上げた。
アレ、これ思ったよりもガチじゃね? いや、わかってるなら止めろよ!
「ちょ、ま――」
「調子乗んなや! でくの坊ごときがよ!」
たぶんその場の勢いで口走って誤用している飯田は、拳を大男の顔面に叩きつけた。
その攻撃は思いっきり頬に直撃したが、大男は身じろぎ一つしない。
そして、殴られて首が横に向いたまま、ギロッと飯田を睨んだ。
「それだけか?」
「っ!」
「なら、次は俺の番だな。一発は一発だ」
「は? ま――ぐぅ!?」
大男はガシッと片手で飯田の口元を掴むと、そのまま持ち上げた。
う、嘘だろ!? 飯田ってパッと見180センチ近くあるのに、それをつま先立ちにするとか。
あれって現実で出来る人いるんだ......ちょっと感動してしまった。
そんな飯田の姿に、益岡と加々見も怯んでる。
「それじゃ、行くぞ」
そう言って、大男は体を近くの石垣に向ける.......え?
ま、まさかあのまま頭を壁にぶつけようとしてる? マジ?
そんなの俺、ブ〇リーがやってるとこでしか見たことないぞ!?
「ふぁ、ふぁめ――」
「ふんっ!」
俺は目の前に起こる急なスプラッター的な展開に、思わず両目を手で覆った。
しかし、特に何も音がしなかったので、指の隙間からチラッと覗く。
どうやら大男は寸止めしていたようだ。
「冗談だ。だが、これで誰にケンカ売ってるかぐらいわかっただろ?」
大男は飯田を投げ捨てた。
一方で、飯田は尻もちをつきながら、大男を見上げる。
うっわ、あの飯田がガチでビビってやがる。
ざまぁねぇ......って思うとさすがに程度が知れるよな。
にしても、飯田の口にがっつり跡ついてんじゃん。
どんだけの力で掴んでたんだ。
「さて、次はどうするんだ? 三人でかかってくるか?
いいぞ。ただし、その時は手加減はしない。その覚悟で挑むことだな」
「チッ、引くぞ!」
そう言って、飯田が尻尾巻いて逃げて行った。
その後ろに、益岡と加々見が続いていく。
個人的には、残りの二人にも罰を与えて欲しかったが、まぁいい。
にしても、この展開不良漫画は不良漫画でも、主人公無双系の不良漫画かもしれない。
俺、そういう漫画をレイソマンガで読んだことある。
「大丈夫か?」
「あ、はい......」
大男の人は親切にも手を差し出してくれたので、ありがたく引っ張り上げてもらった。
そして、改めて近くで大男を見る。おー、本当にデケェ。迫力満点。
う~ん、やっぱりなんか見たことある気がするんだよな......あ!
「ゴリ先輩か!?」
そういえば、体育祭の耐久種目で最後までやり合った人だ。
こんなゴッツイ人のそうそう忘れないはずなのに......まぁ、色々濃かったしな。
ん? って、俺よ! その呼び方って俺の心の中での呼び方だろ!
完全に見た目から取った呼び名だけど、それを本人に言うのはあまりにも失礼だろ!
「あれ? 俺、自己紹介したっけ?」
やっちまった! と思っていれば、先輩が首を傾げた。ん? どういう反応?
「俺は五里剛だ。五里先輩でも、剛先輩でも、なんなら呼び捨てでも構わないぞ!」
合ってるんかい。後、普通に恐れ多い。
「お前とは体育祭でしのぎを削り合った仲だし、そう考えると覚えてて当然か」
いや、普通に忘れてました。ごめんなさい。
けどまぁ、なんか好印象っぽいしこのまま知ってる体で行かせてもらおう。
すると、先輩は今にも豆粒ほどの小ささで逃げる負け犬を見ながら、俺に話しかけた。
「にしても、災難だったな。
最近、学校外でうろつく不良がいるとは聞いていたが、まさかその連中に襲われるなんて」
「五里先輩がいてくれて助かりました。正直、あのままだったらどうなっていたことやら」
二度目で仮にも順調にやり直せてるところで、またあの連中にぶち壊されるのは勘弁だ。
ま、その場合また隼人が助けてくれるような......ってそんな甘い考えはやめろ!
人に頼る前に、まずは自衛だろ。
目の前から危険が迫ってるなら、避けるのが当たり前だ。
ふぅー、危ない危ない。少し思考が平和ボケしていたようだ。
「このお礼は必ずしますよ。命の恩人と言っても過言ではないですから」
「ハハッ、それには及ばない。いつも主がお世話に――ごほん、なんでもない。
ともかく、俺は施しを受けるために助けたわけじゃないんだ。お礼はいらない」
「そ、そうですか......」
しかし、それはそれでなんというかむず痒いな。
助けてもらって何もしないと言うのは。
すると、そんな俺の様子を見透かされたのか、先輩は質問してきた。
「ん~、それじゃ、さっき何か聞かれてたようだが、何を聞いてたんだ?」
うっ、なんという答えずらい質問を......。
お礼のお返しとばかりに聞いてるから、余計に断りづらい。
ただまぁ、そりゃあんな光景を見てたら気になるか。
さて、どう返答したものか。
「実は、あの三人......昔っていうか、高校に入る前に目を付けられて。
それから少しの間いじめられてたんですよ。
でまぁ、色々あって高校から消えてくれたのは良かったものの、さっきは運悪く捕まって。
どうやら俺を逆恨みしているようで、探し回ってたみたいなんです」
俺は隼人の情報を伏せつつ、先輩に説明した。
正直、こういう話は他人にあまり言いふらすものではないだろう。
それに、今のアイツは変わった。少しでも悪く言うのは避けたい。
「本当にそれだけか......?」
「へ?」
「あ、いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「あ、はい......」
そう返事しつつも気になりますやん。まぁ、聞けやしないけど。
隼人って先輩とも交流関係あるのか?......あるか、隼人だし。
とにもかくにも、先輩のおかげで無事に帰れそうだし、後で隼人にレイソで注意喚起しとこ。
「先輩、今日はありがとうございました。おかげで元気に帰れそうです。
とはいえ、ああいう手合いはメンツで生きてるような連中なので、報復とかに気を付けてくださいね」
「そうだな。忠告感謝する。じゃあな」
「はい、失礼します」
そして、先輩と別れてから、俺は早速隼人にレイソで連絡した。
しかし、いつもなら数時間後には必ず来る通知が、その日以降は一度も無かった。
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