第221話 不穏な影
「妙な動き......?」
永久先輩に弄ばれた帰り、俺はたまたま会った空太から意味深な言葉を言われた。
その言葉はさながら、バトル漫画で先輩ハンターから注意喚起される主人公のよう。
空太の無駄に容姿だけのクールキャラが相まってそう聞こえる。
とはいえ、あまりにもフワフワした言い方だ。
どうせ何かを伝えてくれるというのなら、もう少し具体的にお願いしたい。
まぁ、何も思い当たらない節が無いわけではないから、そう言ってもらえるだけありがたいが。
「それって具体的になんのこと?」
俺は軽く呼吸を繰り返し、先輩のせいで昂った気持ちを静めると、改めて聞き返した。
その質問に、空太はポケットに手を突っ込んだまま答える。
「わからない。けど、何かが起きてるのは確かだ。
それに関しては隼人の方からも俺つてにお前に伝えるよう言われてる。
まぁ、俺も少し気になることはあるが.......」
隼人が空太を使って俺に注意喚起してきたって?
あの隼人が俺に対しそんなことをするとは......いやはやなんとも意外だ。
もちろん、その言葉が本当であればの話だが。
正直、隼人がこうして直接俺に伝えにこない時点で怪しさしかない。
これまで俺がアイツに一体どれだけ辛酸を舐めさせられたことか。
それが試練であると思ってるから、俺は我慢しているが、違うなら普通に怒るぞ。
「気になることって?」
俺は空太がボソッと呟いた言葉を聞き、質問してみる。
にしても、なんというか、今日の空太は妙に様になっているな。
いつもそこはかとないポンコツ臭を醸し出しているのに、今は本当に理知的なクールキャラに見える。
とはいえ、空太があんまり何か掴んでいるとは思えないが。
「なんというか......気のせいかもしれないが、柊が何かを企んでる気がするんだ」
は? 柊さんが?......と思ったが、全く驚きが無いわけではない。
だけど、柊さんの狙いって隼人だった気がするんだけど?
「その根拠は? そう考えるということは何かを見たり聞いたりしたんだろ?」
「あぁ、実は――」
そして、空太は見たことを話し始めた。
俺が合コンに連れ出されていた土曜日のこと。
空太は柊さんとデートをしていたらしい。
柊さんがリードする形で空太が付き合っていると、空太は違和感を感じたようだ。
というのも、柊さんが頻繁に場所を移動するように連れ回したというのだ。
もちろん、それだけじゃ空太を連れて色んな所を巡りたいみたいな感じになる。
しかし、空太の感じ方だと、まるで分刻みのスケジュールデートみたいだったようなのだ。
加えて、やたら人込みを突っ切るような所を好んで言ったらしい。
そこに空太は妙な違和感を感じたらしい。
そんな空太の違和感に対し、俺は正しいと思った。
なぜなら、柊さんは恋愛においては明らかな有識者であるから。
柊さんは告白されて断らないで有名だ。
であれば、告白されてから少なからず一度や二度はデートはするだろう。
となれば、デートのテンポ感というのはよくわかっているはずだ。
ましてや、人込みを好んで突っ切るなど、恋愛初心者の俺でもしない行動だ。
それを踏まえて邪推すると......柊さんは人込みに紛れること追っ手を振り切っていた?
なんだかいかにも漫画にありがちなことを想定してしまった。
しかし、考えられることはそれぐらいだろう。
それで一つピンと来たのが、審査係として尾行していたことのある勇姫先生と椎名さんの存在だ。
だが、その二人は柊さんにとっては親友のはずであり、つけられても問題ないはず。
そう考えると、つけられると不味いことを企んでいたか、はたまた全く別の何者かが尾行していたかのどちらか。
「ちなみに、その時の柊さんの表情はどうだった? 焦ってる感じとかあった?」
「いや、全然。少なくとも俺は全く普段と変わりないように感じた。
だがまぁ、やはり今思うとあんな見た目おっとりした感じが、ああもアクティブに連れ回すのはなんだか変に感じるが......」
「初めて好きな人とデートに舞い上がってしまった......という展開も微レ存だけど、それでも人込みにあえて突っ込むなんてな。夏祭りの屋台を回ってるんじゃないんだから」
「他にも気になったことはある」
そう言って、空太はデートの続きを話し始めた。
柊さんとのデートはそんな違和感を感じたものでありながらも、デート内容として順調だったようだ。
例えば、駅前の通りを二人で歩きながら、近くにある屋台で買い食いしたり、小物を売っている店で買い物をしたりと。
そんな買い物で空太がカッコつけて奢ろうとすれば、悉く断られたらしい。
そして、支払いのほとんどは全て黒いカードで済ませていたとのこと。
そう、よく漫画描写である”大人のカード”の最上位版だ。
ポケ〇ンで言えば、何でも捕まえられるマス〇ーボールに当たる。
それを柊さんは使っていたとのこと。
俺も空太も隼人に一度見せてもらったことがあり、空太曰くその時のカードと同じだったようだ。
となると、柊さんって思ったより良いとこのお嬢様?
まぁ、一先ずそれは置いといて。
その後、空太は「奢られっぱなしは男のプライド的に不味い」となったようで、近くにドリンクを売っている露店を見つけると、そこで二人分のドリンクを購入したようだ。
そして、空太が待たせている柊さんのもとへ戻ると、柊さんは路地裏の壁に背中を預けながら、電話していたようなのだ。
空太は邪魔しちゃ不味いと思い、距離を取りつつも、なんとなくどんなことを話しているのかと覗き見れば、周りの雑音で声こそ聞こえなかったものの電話の仕方がおかしいことに気付いた。
それが左手で自分の襟元を掴みながら、電話するというもの。
さらに襟元は少しだけ引っ張って口元に寄せていたのだという。
わかりやすく例えるなら、コ〇ン君が蝶ネクタイ型ボイスチェンジャーを使っている感じだ。
「最初は俺も柊さんの電話する時の癖とも考えた」
「さすがに癖ありすぎだろ......」
「あぁ、すぐに俺もそう思った。さすがに見たことないしな。
もちろん、否定できる材料がないから100パーセントとは言えないが......なんともそう考える方が自然な気がしてな」
「その状況だったら俺だってそう考える。それで電話が終わった後どうしたんだ?」
「少しだけ間を開けて、何も聞いていないように自然に振る舞ったつもりだ。
正直、その時は変な感覚でしか捉えてなかったはずだから、時折お前の周りにいる女子が圧を出した時に、怯えているような俺じゃなかったはずだ」
なんか急に情けないことを言いだしたな。これまでちょっとカッコついてたのに。
それはともかく、仮に空太がそうだったとしても、相手は柊さんだ。
空太の違和感に気付くと思う。うん.......そうだな――
「空太、その時の状況ってまだちゃんと思い出せるか?」
「まぁ、まだ直近の話だからな。とはいえ、そこまで細々としたのはさすがに覚えてないぞ」
「じゃあさ、空太がドリンクを渡した時、柊さんは少しそれをじーっと見てたりしなかった?」
「どうだったか......そんな感じはあったような.......」
「なら、質問を変える。その後、柊さんとのデートはどうだった? またいろんな場所に連れ回されたか?」
「いや別に......そう考えると、あの時から過ぎた後は割とのんびりしてたような?」
なるほど、つまり柊さんは空太が違和感を感じてることを感じ取ったんだな。
理由としては、先ほど挙げられたドリンクが原因だ。
空太の渡したドリンクがどういうものか想像つかないが、露店で販売されてるものだとしたら、大概紙コップ型だ。
加えて、土曜日は晴れており、11月とはいえ数分でも時間が経過すれば、ドリンクのコップ表面に水滴ができ始める。
水滴がついたということは、それだけ空太が待っていたということであり、電話しているところを盗み見られたと柊さんは思うだろう。
故に、柊さんは空太からボロが出ないかじっくり確かめた。
もしくは、単純に用件が済んだから連れ回す必要もなくなったのか。
なんにせよ、空太のおかげで柊さんが何かを企んでいるのは確かだ。
こんなことを起こすのは、俺が一度柊さんの提案を蹴ったからか?
はたまた、全然そんなことは関係なく単純に何かの目的のため。
さて、ここから俺はどう動くべきか。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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