第216話 月夜の語らい#1
玲子さんの機転のおかげで修羅場から抜け出した俺は、合コンへと戻った。
正直、もうちょっと色々とゲンキングや東大寺さんから、ありがたい言葉を受けると思っていたのだが、結果から見れば玲子さんのオンリーステージ。
もしかして、最初からあの状況を作るために?
その考えを否定できないのが玲子さんの凄い所だ。
これはどこかのタイミングでお礼しないとな。
そして俺は、ギャル二人と適当に会話をし、勇姫先生によって合コンは幕を閉じた。
ギャル二人は割とお気に召したようで、二次会に誘われたが、俺は山田と田山を生贄に捧げ、一人帰路に着くことにした。
その道中、帰り道の小さな公園で見覚えのあるような人物を見つめた。
街灯があるだけの、全体的に暗い公園のベンチに一人座る長い髪をした女性。
月明りと街灯によって照らされた銀髪は、月に負けないほどの輝きを放っている。
玲子さんだ。何をしてるんだろうか。
見る限りでは夜空を眺めてる感じだけど、玲子さんでも黄昏る時はあるだな。
俺はつま先の向きを変え、公園へと向かっていく。
「れ――」
「どうしたの、拓海君?」
俺が声をかけるよりも先に、玲子さんが振り返らず呼び掛ける。
その行動にはさすがの俺もビクッとしたね。
やっぱ、玲子さんってエスパー持ちなのかもしれない。
「よくわかったね」
「わかるわよ。あなたならね」
玲子さんが肩越しに振り返る。
様々な光でキラキラと光る瞳は夜空のように綺麗だった。
それこそ飾りたいほどに......ってこの感想はヤベェな。
俺は玲子さんの座っているベンチまで近づいた。
「どうしたの? 一人で。玲子さんなら大丈夫とはいえ、女の人が一人で夜の公園にいるのは危ないと思うけど」
「心配してくれてありがとう。そうね、次から気を付けるわ。拓海君を心配させないためにもね」
玲子さんはそう言うと、そっと手で彼女の隣のスペースをポンポンと叩く。
その行動を言語化したなら「横に座ったらどう?」ってことだろう。
なら、立っているのもなんだし、甘えさせてもらおうかな。
「星を見ていたの?」
俺は座るやすぐに、玲子さんと同じ空を見て聞いた。
すると、隣にいる玲子さんはコクリと頷く。
「冬の空は空気が澄んでいて星が良く見えるの。
昔もよくこうして空いた時間には眺めてたわ。
あいにく冬の乾燥はお肌の大敵だったけれどね」
玲子さんはクスッと笑った。
玲子さんの昔か......つまり、タイムリープをする前の時か。
「でも、今はあまり見なくなったわ」
「どうして?」
「拓海君が近くにいるから」
玲子さんは温和な笑みを浮かべたまま、俺の方を見る。
その言葉の意味はわからなかった。
しかし、玲子さんにとって大事なことだったのは、なんとなくわかった。
俺はその言葉に対する追及の自信はなく、話を合コンの時へと変える。
「そういえば、ありがとね」
「ん? 何が?」
「合コンの時だよ。ゲンキングに捕まって、三人の顔を見た時は生きた心地がしなかったけど、玲子さんのおかげで助かった。あれって玲子さんが仕向けた流れでしょ?」
「ふふっ、さすがね。私の演技力もまだまだということかしら」
「いやいや、十分すぎる迫力だったよ」
今思い出しても心臓止まるかと思うぐらい怖い。
二次元キャラのハイライトなしの瞳とかは、それはそれで可愛いとか思えるけど、さすがに現実で似たような感じになったら耐えれないわ。
俺は修羅場を思い出して、背中を丸くしてため息を吐く。
そんな様子を横目で見ていた玲子さんは、視線を星の方へと向ける。
そして、苦言を吐いた。
「にしても、当事者である私にその話題を出すなんて、拓海君は随分と命知らずね。
案外キツく言ったつもりだったけれど、まだ怒られたりないのかしら?」
「あ、いや、そういうわけじゃ......」
「ふふっ、冗談よ。でも、下手に口にしないことね。
他の三人は私より寛容とは思えないから。特に先輩面したおチビちゃんはね」
「先輩はちゃんと年上だけどね......」
とはいえ、玲子さんの言わんとすることはわかる。
もしあの状況で永久先輩がいたなら、もっと空気は地獄と化してた。
それこそ玲子さんの独壇場とはいかず、先輩による尋問大会が始まっていただろう。
そう考えると、先輩がいなかったのは不幸中の幸いか。
「とはいえ、あの場に先輩がいなかったのは、今更ながら不思議だけど」
「まぁ、最初に不審に思ったのが唯華と琴波で、その二人が私に相談してきたわけだけど、その時の話で白樺先輩を呼ぶのは満場一致でやめとこうってなったわ」
なんとそんなことが。
「さすがに可哀そうなことになるって。
たぶんだけど、あの二人もなんらかの事情を予想していたんでしょうね。
だって、拓海君は大抵巻き込まれる側だから」
「つまり、俺は玲子さん達に助けられたわけか......」
「安心して、今日のことは三人の秘密だから。
とはいえまぁ、乙女の純情を傷つけた対価は高くつきそうだけどね」
玲子さんは小悪魔のようなイタズラっぽい笑みを浮かべ、俺を見た。
玲子さんもこういう顔をする時あるんだ。
なんというか普段の学校じゃ、それこそゲンキング相手にも見せないような顔をしてる気がする。
クスクスと笑う頻度も心なしか多い気がする。
「善処します」
「よろしい」
玲子さんは笑みを浮かべると、再び星を見る。
それにつられるように俺も星を見る。
「「......」」
しばしの沈黙が流れた。
しかし、その沈黙も居心地が悪い感じはなく、むしろ落ち着きさえした。
やはり互いにタイムリープという境遇を得ての連帯感があるからなのだろうか。
秘密を共有している仲と考えれば、落ち着けるのも納得がいく。
「金城君の仕業じゃないわ」
「え?」
玲子さんが突然発した言葉に、俺は反応して顔を見る。
玲子さんは目線を下げると、左手で右肘を掴みながら、右手の人差し指は顎に触れていた。
そのポーズを一言で表すなら、考える人みたいな感じだ。ただし、姿勢はやたらいい。
「拓海君が合コンまでの経緯を話してくれたじゃない?
確かに、拓海君が巻き込まれるというのは、拓海君に試練を与えているという側面だけで見れば、そうと考えられるかもしれない」
「けど、玲子さんはそうと考えてない、と」
「えぇ、金城君は無茶苦茶する人だけど、最終的に拓海君の糧となるように考えてる人物なのよ」
えぇ......今まで俺が隼人からの試練だと思ったやつの中に、そんな要素あったか?
まぁ、IQに大きな差があれば会話の成立が難しくなると聞くし、隼人との間に起きたのはそういうことだったりするのかもしれないが。
「けれど、今回はその意図や目的が見えない。
愛名波さんだけだったら未だしも、やはり色々な女子を、挙句には他校の女子を使ってまで拓海君を巻き込むというのは......あまりにもらしくない」
「けど、それって俺は山田と田山に誘われただけで、偶然って線もあるし......」
「そうね、その可能性も否定できないわ。
けれど、金城君であれば、相手の取り得る行動予測することができる。
IQが高く、よく周り見て、常に情報収集を怠らない人であれば、未来予知的な行動は可能」
「あぁ、玲子さんが言ってた『物事というのは大抵何かしらの前兆があり、それに気づけばリスクを回避できる』みたいな感じか」
「えぇ、その通りよ。これで私が考えられるのは、金城君によく似た思考を持つ誰かということになる。
ただ、私の中には該当する人物はいないわね。
まぁ、単純に交友関係が狭いだけかもしれないけれど」
玲子さんでも思いつかない犯人像を、俺が思いつけるのか、否、無理だ。
まぁ、なんとなく思い当たる節がなくもないが、それでも確定させるような証拠はない。
今は話についていくことで精いっぱい――
「......もしかして、そもそも狙いは別? 私達だったりする?」
はい、ついていけなくなりました。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
良かったらブックマーク、評価お願いします。




