第212話 どっちがホント?
柊潤.....やり直し中の接触を除けば、彼女の最後の記憶は一度目の高校生活。
彼女は俺をイジメていた連中に途中から参加し、俺の痴態をあざ笑っていた。
特に直接的なことをされたことはないが、イジメをスマホで撮影していた記憶がある。
今の態度からは想像もつかないが、俺があの頃の地獄を忘れてない以上それが事実だ。
ゆるふわおっとりキャラの皮を被った女型の悪魔......と当時の俺には映っていた。
そういや、彼女だけは唯一いじめっ子との関わりが多かった気がする。
分け隔てない態度やどこかとろそうな動き、そして男を魅了する体つき。
それは隼人を除くいじめっ子連中を当然のように魅了していた。
それこそ、リーダー格の男には腕を組まれた状態で胸を揉まれてた。
ちなみに、椎名さんに関しては今も変わらず女子によくモテてた。
なんというか、こう思い出してみるとまるで正反対の人間だ。
それこそ柊潤という人物のパラレルワールドに来た感覚だ。
いやまぁ、俺が行動を変えた結果なのだとしたら、そうとも言い切れないけど。
とはいえ、人間の性格はそれこそ一朝一夕では変わらない。
隼人でさえ大地や空太、その他の皆と関わってようやくあそこまで丸くなった。
しかし、プライドの高い態度は今もそのままだ。
それが俺の行動一つで柊さんの態度がああも変わるものなのだろうか。
それこそ、二度目の高校生活が始まってからは関わったのはつい最近。
勇姫先生の友達として接触し、空太の彼女として――
――お前は人を型にはめ過ぎなんだよ。
不意に鮫島先生との会話のフレーズが脳内で再生される。
今の俺は柊さんという人物を型にはめて見ているのだろうか。
一度目の柊さんと今回の柊さん......実は変わらない?
確かに、一度目の時は俺の思想が強く反映してた気はする。
例え、傍観者であろうともイジメに加担していたのなら漏れなく同罪だ。
恨みがましい目で相手を見たなら、当然相手は邪悪に映る。
しかし、出会い方が変われば、見方も関係性も変わる。
それこそ、俺と勇姫先生との関係がまさにそうと言えよう。
だから、俺は柊さんを一度目と今回で違うと判断した。
一度目で見たイジメに加担していた悪魔的な柊さんの型。
今回で知り合った勇姫先生の友達という柊さんの型。
その二つを俺は無意識に別々に考えてたってことか。
それじゃ、実は文化祭の真の黒幕は柊さんだったってこと!?
いやいやいや、それはさすがに考えすぎか。だって、隼人が正直に白状したし。
俺に嘘をついてまで隠そうとするなんて、そんなのアイツにとって負けと同じだからな。
なら、どうして――
「文化祭での隼人の作戦に協力しておきながら、俺に隼人にやり返す協力を求めてきたんだ?」
「なにぶつくさ言ってんだよ」
「もうすぐ時間だろ? 気合を入れろ、気合を」
山田と田山が語気を強くして俺を注意する。
その割には二人の膝は大爆笑しているようだ。
現在、時刻は17時45分。
目的地は相手方が選んだというとあるオシャレな店。
そこに待ち合わせ時間である18時より早めに着こうと移動中である。
結局、喫茶店で立てた作戦会議は”俺の全力ヨイショ”だけであり、そこからは男同士のヲタトーク。
その場で長居するのも迷惑と考え、ゲーセンに行ったり、漫画喫茶に行ったりとそれはもう普通に遊んだ。
まぁ、二人にとっては他のことで気を紛らわす意味合いがあったんだろうけど。
待ち合わせ場所に辿り着く。
山田と田山の反応的にまだ来てないようだ。
二人はソワソワした緊張を隠せない様子で、しきりに髪型や服装についてチェックし合う。
安心しろ、服に関しては誰がどう見てもダセーから。特にNYの方は酷い。
「なぁ、自己紹介どっちからする?」
「早川からでいいだろ。ほら、委員長やってるし」
「じゃんけんな」
にしても、本当に来るのだろうか。
実のところ、俺は未だにこの話は二人の妄言説を捨てきれないでいる。
実はすでに知り合った女子に合コンの話をなかったことにされており、散々テンション高めに言って説得した俺に対して引くに引けなくなってるとか。
とはいえ、その説は二人の反応からして違うだろう。
だから、大穴狙いの説というだけ。
なので、俺の最有力候補は実はドタキャンされているという説。
これは正直可能性が高いと思う。
結局、時代が流れより多くの人にサブカルチャーや二次コンテンツを普及させたとしても、それが当たり前のように女子に通じるかとなれば別だろう。ましてや、相手はギャル。
俺が知り合ったギャルは妙にヲタクもとい陰キャに理解力があった。
とはいえ、あんな存在がよそにもいるとは早々思うまい。
確かに、話題のヒットの確率は高くなっただろう。
しかし、基本二次元に萌え萌えしてる連中と、リアルを生活圏としているギャルとで溝が生まれないはずがない。
だからこそ、二人も今日会った最初に「ヲタクに優しいギャルとかフィクションじゃん?」と言っていた。
故に、総合的に考えると、確かにヲタク文化に触れてる人とそうでない人との距離感は近くなった。
だが、溝はある。あるものはある。無くなるものでもないしな。
だから、ラノベでヲタクに優しいギャルのネタが増えるのだ。
フィクションという言葉が全てを物語っている。
「来んのかねぇ......?」
ぶっちゃけ来なくてもいいと思ってるのは俺だけだろうな。二人には申し訳ないけど。
それに来ない可能性も高いと思っている理由として挙げられるのが容姿。
一言で言えば、ビジュアルだ。
ゲーセンでぬいぐるみを取ったのがキッカケらしいが、あの時は魅了に補正がかかっていた可能性が非常に高い。
だから、勢いだけで合コンとかの話になったのだろう。
しかし、時間が経って冷静になって我に返ることなんてザラにある。
それこそイケメンが一人でもいれば違ったかもしれない。
しかし、待ち合わせているのはヲタク、ヲタク、デブの三人。
俺も含めて童貞丸出しであり、多分に陰キャ属性を持っている。
俺もこういう考え方をしてる時点で十分に陰キャだしな。
「なぁ、今何時?」
「自分の見ろよ。えーっと、17時55分」
「も、もうすぐじゃん! やっべ、緊張してきた!」
「や、やめろよ素人丸出しじゃん! 玄人感を出せ!」
いや、素人だろうが。
俺が心の中で突っ込んでいると、ポケットに入れていたスマホがバイブした。
画面を見ると一通のメールが来ており、その相手は勇姫先生からだった。
そして、画面の一部には一言だけ――
『あんたもいるの?』
「?」
俺はその言葉に首を傾げる。
どういう意味だ? 俺がいるのは合コンの会場.....まさか!?
その時、田山の「あ、来た」という言葉で、俺はすぐさまスマホから周囲へ視線を移す。
そこには見知らぬ女子に混じって勇姫先生の姿もあった。
「......」
そのことに俺は唖然とする。どうしてここに勇姫先生が!?
それは彼女も同じようで口をぽかーんとさせている。
互いに互いの事情というか、周囲とのの関係性は知っている。
故に、互いに「なぜいる!?」という状況になっていた。
「山田山......」
俺は焦って二人の名前を融合させてしまった。ややこしいのが悪い。
しかし、二人は同じクラスの女子がいることに目もくれず、知り合った女子二人と再会を喜んでいた。
そんな童貞二人の姿に玄人感などまるでない。
アイドルの握手会に来たファンみたいになってる。
勇姫先生は俺に近づくやすぐに山田と田山の様子を一瞥する。
そして、大きく肩を落としため息を吐きながら言った。
「.......なるほど、大体状況を察したわ」
「さすが先生、話が早くて助かります」
「言っておくけど、アタシはただの人数合わせよ......ってそれはあんたも同じだったわね。
ともかく、こうなってしまった以上アタシは友達を気分良くさせたい。
それにあんたも付き合いなさい。返事は?」
「イエスサー」
「よろしい。それじゃ、乗り切るわよ」
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