第207話 思わぬ誘い
俺が勇姫先生を疑う理由は、アイツが隼人にとって絶対的な味方だからだ。
勇姫先生は隼人のことが好きで、だからこそ接触する手段として俺を利用した。
そして、その後のことは知らないが隼人に接触したのは確かだろう。
それは勇姫先生のこれまでの行動からして明らかだ。
勇姫先生が隼人と接触に成功したならその時点で目的は達成された。
つまり、その時点で俺という存在は利用価値を無くしたのだ。
にもかかわらず、勇姫先生は俺に関わってきた。
それも目的を達成した後の方がより積極的に。
最初に恋愛関連に関して講座するとか言ってきた時点で怪しい。
勇姫先生からすれば、俺の恋愛事情なんて知ったこっちゃないはずなのに。
それがなぜか現在はダイエットに付き合ってくれている。
が、それが今の現状を作り出すためのフェイクだとすれば納得できる。
しかし、肝心の目的がわからない。なぜ多くの女子を関わらせるのか。
「正直、愛名波さんに関しては心当たりが多すぎる。
だけど、その人と関わってきた時間は少ないけど、そんな回りくどいことするタイプには見えないんだよな」
でなければ、隼人に接触するために直接俺を尋ねに来ないもんな。
友達曰く好きな人に対してだけ奥手らしいから、それ以外にはガンガン行くタイプのはず。
そんなことを言うと、永久先輩が急にムッとした顔で俺を睨んだ。
「なに? よその女の話? そうやってこちらを煽って引き留めようとするのはあなたの悪い癖よ」
「え? 何の話?」
一体何を言っているのか。
そう思っていると、俺の代わりに玲子さんが反応した。
「大丈夫よ。ただジェラシーを感じて拗らせてるだけだから。
それはともかく、私も概ね拓海君の意見には同意ね。
私もそれとなく観察してたけど、あのタイプは堂々と行動するタイプよ。
言い換えれば、嘘をつくのがあまり上手くないというべきかしら」
「ワタシも陰ながら偵察はしたわ。同じ意見よ」
偵察って......つーか――
「わざわざ見てたんですか?」
「何? 敵を見定めるのは必要なことでしょ?」
「いや、それってわざわざ2年の教室がある階から移動して盗み見てたってことですよね。
なんというかその、他にも生徒はいるわけで.......目立ちません?」
「だから何? こっちはこれ以上敵を増やされても厄介なのよ。
今後関わることもない他人の目を気にして目的を達成できないことの方がワタシは嫌よ」
なんか覚悟が決まってる目をしている。
いや、もう少し外聞は気にしてくださいよ。
にしても、まさかの二人からも同意を示されるとは......まいったな。
もちろん、見た目に騙されているだけで実は狡猾なのかもしれない。
先で言ったのはあくまで勇姫先生が一人で考え、実行した時の場合だ。
隼人が指令を与え、勇姫先生が実行しているだけなのならこの考え方は不味い。
というか、後者の方が圧倒的に確率は高いが......。
「ひとまず僕の方でも勇姫先生に関しては探ってみます。
僕はまだ関わる機会が多そうなので」
「くれぐれも木乃伊取りが木乃伊になるなんてことはないようにね」
「助けが必要なら呼んで。唯華も琴波も引っ張り出すから」
「わかった。ありがとう」
彼女達が力になってくれるのは心強い。
しかし、なんだろうこの決戦前に仲間が集う感じ。
俺はこれからボスと戦いにでも行くんか?
―――翌日
「どうしたの急に話って?」
昼休み、俺は勇姫先生に時間を作ってもらい屋上近くの階段に呼び出した。
その目的は当然勇姫先生から探りを入れるためだ。
ただ、俺もあまりこういった駆け引きが得意ではないので、俺は俺らしく行こうと思う。
「実はさ......最近モテてきてる気がするんだ!」
「......はぁ?」
「いや、マジなんだって! なんというか妙に女子から話しかけられることが増えてさ、これって人生の中でも数少ないモテ期って奴が来たんじゃないかって思って」
さて、駆け引きが苦手とは言ったが、何も考えてきていないわけじゃない。
ここで俺が仕掛けたのは思春期男子特有の理由を盾にした動揺作戦。
ま、要するに勇姫先生の表情や態度から嘘かどうかを判断しようって話だ。
勇姫先生はポーカーフェイスとかできる人じゃない......たぶん。
ここで言い淀んでしまうのは、東大寺さんという前例があるから。
それに鮫島先生からも「人を型にはめて見るな」とも言われてるし。
「あんたがモテ期はない......こともないか。あのメンツを見れば。
それに確かに他の女子からも話しかけられてるの見るし、そう言われると否定できないかもね」
その言葉に特に変な淀みはなかった。
つまり、言葉からは嘘をついているようには聞こえなかった。
表情は......目線を少し外したのが気になった程度でこれといって違和感はなし。
目線も単純にお弁当に目を向けたのかもしれないし、もう少し探ってみよう。
「これってもしかしてダイエットの効果出てるとか......?」
「それはうぬぼれすぎ。それは体形じゃなくてあんたの人徳が生み出した感じでしょ。
それにあんたって恋愛に否定的だったはずなんじゃ? 一体どういう風の吹き回しよ」
「いや、別に大した理由じゃないよ。
誰かと付き合いたいとかそういう願望はあんまりないけど、人に好かれてることがわかるってのは単純に嬉しいじゃん。特にそう......男なら!」
「......」
力強く言ったら冷ややかな視線が飛んできた。ん? なんだその視線は?
仮に勇姫先生がこの状況を仕向けたとしたらその反応はおかしいよな。
それとも単に俺の発言に対して「コイツ.....」ってなっただけ?
「ま、確かに誰かに嫌われるよりかはよっぽどマシなのかもね。
で? あんたはそれを私に言ってどうしたいの?
それとも本当にこれを言いたかっただけ?」
「そう言われると主な理由は後者になってしまうんだけど......でも、これって状況的にあまりよくないよね?」
「そうね、あの4人からすればいい気分じゃないでしょうね。
友達で彼氏が女子からモテて嬉しいって言ってたその子もそれが続けば、不安になったり嫉妬したりとしていたし」
「とはいえ、単純に俺を頼ってきてくれてるわけだけだから、無下にも出来ないし......」
「別にいいんじゃない? それで」
「え?」
「あんたは誰とも付き合ってるわけでもないし、周りからとやかく言われる筋合いもない。
加えて、あんたの行動は純粋な人助け。であれば、悩まずに堂々としていればいいのよ」
「.....そっか、そうだよな」
なんだろう、今の言い方。ずっとどっちとも取れる言い方だな。
だからこそ判断に困る。表情や仕草からも特にないし。
実は勇姫先生は犯人じゃない......?
「あ、予鈴。アタシは食べ終わってるし先に戻るね」
そう言ってささっとお弁当を片付けた勇姫先生は一足先に戻っていった。
その後ろ姿を眺めながら、残ったお弁当をチマチマ食べつつ先程の会話を思い出す。
「なんというか、どうにも嘘をついているような人の返答とは思わなかったな。
だけど、人に恋愛講座しようとしておきながら、あの返答は少し引っかかるものはある」
単純な感想を述べただけなのか、それともこちらの意図を察してはぐらかす返答をしたのか。
まぁ、こちらもこの一回で判断しようとは思っていない。
もう少し念入りな情報収集が必要そうだな。
そう考えた放課後。
俺のもとに舞い込んできたのは意外な連中の意外な言葉であった。
話しかけてきたのはクラスメイトの男子二人。
その二人は俺にこう言った。
「なぁ、合コンに参加してくれねぇか?」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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