第204話 野良エンカウントの多い日
なんだかここ最近不思議な出来事が多い気がする。
さながら特殊イベントが乱立してる的な感じだ。
もっとも、そこまでフラグを立てた覚えはないのだが。
そのイベントを消化しているとあっという間に時間が消えていく。
毎日が充実していると言えばそうなのだろうか。
とはいえ、どのイベントも終わっているかと言えば微妙なライン。
時間を空けないと進行しないタイプのイベントだと思おう。
リアルじゃこんなもん。
とはいえ、相変わらず発生するイベントも存在する。
11月末に行われる期末テストだ。
二学期の集大成とも呼べるこのテスト。
それが迫っているせいか早い人ではもうテスト勉強を始めている人もいる。
そういう俺も少しずつ始めている。
成績は隼人に対してわかりやすいアピールになるしな。
「ねぇ、早川君、少しいい?」
そんなある日、休み時間に俺に声をかけてきたのはクラスの女子の浜口さんだった。
その女子の後ろには彼女の友達であろう加藤さんと戸崎さんの姿もある。
なんとも珍しい出来事だ。
というのも、俺は彼女達とまず話したことが無い。
実際、クラスの中で全員とある程度話したことがある人なんて、クラスに一人いるかいないかだろう。
そのレアケースにはゲンキングが含まれるのだが、俺は彼女ほど社交性をアピールしてるわけではない。
なので、委員長としての仕事で必要があれば声をかけることはあっても、それ以外で話しかけたことはない。
ましてや、話しかけられることなんてもってのほか。
「えーっと......どうした? 何か用?」
「その......できればでいいんだけど、勉強教えてくれないかなって!」
「.......ほぅ」
なんとも意外な頼み事だ。
先も言ったが俺は仕事で用がある時しか話しかけない。
故に、逆となったら当然何か委員長の立場としての仕事か、先生からの伝言のどっちかと思っていた。
しかし、言われた言葉はそのどちらでもない。まさかの私的事。
「え、俺は別に教えること自体はいいんだけど......なんで俺?」
俺は男子だ。加えて、このクラスで半年以上過ごしてきたが、まともな会話はこれが初めて。
そんな高すぎるハードルを飛び越えてまで俺に頼むことなのだろうか。
少なくとも、俺だったらまず同性に頼む。
明らかにそっちの方が頼みやすいから。
そんな思わず聞いてみた言葉に、浜口さん達は顔を合わせる。
「その、本当は別の子に頼もうと思ったんだけどね。
私達が知ってる頭が良い人って久川さんか安達さんぐらいなんだけど......正直、声をかけずらいんだよね。
あ、決して悪い意味で言ってるわけじゃなくて、そのオーラに近づけないっていうか」
浜口さんの言葉に激しく同意を示す加藤さんと戸崎さん。
まぁ、言わんとすることはわかる。
久川さんは常に一定の覇気を纏っているし、安達さんは自分が他人と関わらない分、他人からも関わらせないような近寄りがたいオーラを放っているし。
とはいえ、俺も女子の誰々が頭がいいとか知らないしな~.......どうしよ。
ゲンキング辺りに聞いて誰か女子を紹介してもらうのが良さそうだとは思うんだけどな。
だけど、それじゃ結局タライ回しにしてるだけにならないか?
でも、同性の方がいいと思うし......。
「どうしたの?」
「玲子さん.......」
俺が困っていると玲子さんが声をかけてきた。
一応、浜口さん達の様子を伺いつつ、用件を話し始めた。
「勉強を教えてくれる人を教えて欲しいって言われてさ。
最初は俺が頼まれてたんだけど、さすがに同性の方がいいと思って誰かいないか探してたんだ」
「そう。それなら私が引き受けましょうか。大方、期末テストが危ういんでしょ?」
「玲子さんはこう言ってくれてるけどどうする?
玲子さんは優しいし、俺よりも勉強できるから教え方も上手いと思うけど」
「まぁ、私は別に......」
「うん、いいよ」
「それに久川さんと話す機会なんてそうないだろうしね」
どうやらオッケーらしい。
ただ、俺が頼まれたことを玲子さんに回してしまったことは申し訳ない。
なので、今度何かお礼をしよう。うん、そうしよう。
その次の休み時間。
俺は永久先輩から「感想を語り合いたいから」とおススメされた本を読んでいた。
すると、またもやクラスの女子の一人である渡辺さんから声をかけられる。
「あの......間違ってたらごめんなんだけど、今のって『真夏の雷鳥』って本じゃなかった?」
「あ、うん、そうだけど.......」
「嘘! まさかハニカミイオリ先生の作品を読んでいる人がこのクラスにいるなんて......!」
渡辺さんは口元を手で押さえて驚いていた。
加えて、声色が急に高くなった辺りから喜んでいることもわかる。
にしても、俺、本にカバーしてたはずだけどなんでわかったんだ?
「あ、一人で興奮してキモいよね? ごめんごめん」
「いや、それは別に......それよりもよくわかったね」
「あたし、ハニカミイオリ先生の大ファンなんだ。
その本ももう何度も読んでて、ある程度の文章は覚えちゃったの。
だから、たまたまチラッと見た時に知ってる会話文が続いてたから、もしかしてと思って」
「.......なるほど」
なんという偶然だろうか。まさかクラスの女子にこの本のファンがいるなんて。
しかも、いるだけなら未だしも、こうして繋がりを持つ機会が生まれるなんて。
にしても、またほとんど話したことのない女子と会話してるような、俺。
それから、俺はネタバレにならない範囲で渡辺さんと話した。
彼女からはハニカミイオリ先生の作品をいくつかおススメされ、ついでにレイソも交換した。
そして、彼女の友達が彼女に声をかけたことにより、話はそこで終わった。
「感想を語り合う相手が増えてしまった......しかも、ガチ中のガチのファン。
これは下手すると永久先輩よりも高い会話レベルを要求されるぞ」
「随分とおモテになられてるようで.......」
「ゲンキング!? いや、これはそういう意味じゃなくて――」
「アハハ、大丈夫、わかってるから。だけど、さっきも女子三人と話してたよね?」
おかしい、にこやかな笑みを浮かべているゲンキングから太陽神のごとき明るさを感じない。
むしろ、どこか寒々しい。陰のオーラが溢れ出てしまっている!
「あ、アレは勉強を教えて欲しいって頼まれて......でも、なんで俺かわからなくて、ゲンキングに勉強を教えられそうな女子を紹介してもらおうと思ってたんだよ。
その時に玲子さんが声をかけてきてくれて、そのまま流れで玲子さんにって感じで」
「......わたしを頼ろうとしてくれたのか。ふむ、そっかそっか。
なら、仕方ないなぁ、特別に許してあげよう。
だけど、拓ちゃんは不用意に隙を見せてはいけないよ! いい!?」
「あ、はい......」
授業の予鈴が鳴り、ゲンキングは俺の返事を聞いて満足そうに席に着く。
確かに、今日は特に女子から話しかけられる気がするな。
気のせいでなければ、だけど。
昼休み。
珍しく母さんが寝坊して弁当を作り忘れたため、購買にて昼食を買って教室に戻る帰り道。
廊下をテクテクと歩いていると後ろから「そこの人!」と声をかけられた。
振り返ると女子。そう、またしても女子だ。加えて、知らない人。
「えーっと、何のようでしょうか......?」
「その、ハァハァ......こ、これ、ハァハァ.......ちょっと待って.......」
「呼吸を整えてからでいいんで焦らなくて大丈夫ですよ」
その少し派手めの女子は呼吸を整えると、手に持っていた手紙を渡した。
「これ」
「.......手紙ですか?」
「そう、ラブレター」
..........ん?
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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