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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第203話 RPGで技を教えてくれる仙人に出会った気分

「いや~、ありがとね。湿布まで貼ってくれて。おかげで少し楽になった気がするよ」


「いえいえ、大したことはしてないですよ。

 それにさっき貼ったばかりですし、そんな急に効果はでないですって」


「こういうのは気の持ち用ってやつだよ。

 怪我した時だって早く治ると思えば、体はそういう風に動いてくれる。

 いかに自分を信じれるかってことだね」


 そう言いながら勇姫先生の親父さんは笑ってお茶を出してきた。

 現在、俺がいるのは普段家として使ってる方のリビング。

 どうやら勇姫先生はいないようだけど、なんだか気まずいなぁ。

 とりあえず、適当にお茶を飲んだら帰ろ――


「そういえば、君が最近勇姫と一緒に運動してる子?」


「ごふっ......ゴホゴホ......」


「え、大丈夫!?」


「だ、大丈夫です.......」


 唐突な質問に吹き出してしまった。

 あ、あれ~? 勇姫先生? なんか普通にバレてますけど?

 親御さんがいないタイミングを見計らってるんじゃなかったんですか?

 つーか、この状況でその質問ってヤバくね!?


「あ、その、勇姫先生とは別にやましいことはなく――」


「大丈夫、大丈夫。そこら辺はさっきの君とのやり取りで性格を把握したから。

 それに知ったのもたまたま妻が出てくるタイミングを見てたみたいでね。

 勇姫には何も言ってないから安心してくれていいよ」


「そ、そうですか........」


「でも、先ほどの”先生”ってのは気になるな~?」


 親父さんがニコニコした表情でこっちを見てくる。

 なんだか一見温厚そうなその顔だけど、逃がさないような雰囲気を纏っている。


 はぁ、勇姫先生には申し訳ないけど、ここは正直に経緯を話した方がよさそうだな。

 別にやましいことをしているわけでもないし、わかってくれそうな人だと思う!


「実は――」


 そして、俺は勇姫先生との関係性を全て話した。

 ただし、勇姫先生が元は恋愛講座目的だったことは省いて。

 その言葉を親父さんは終始穏やかな顔つきで聞いていた。


「――なるほどね、つまりはダイエット目的か」


「はい。そしたら、勇姫先生が自宅のトレーニングルームを教えてくれて。

 ご両親がいない間に何回か利用させていただきました」


「大方、僕達が茶化すだろうと思って避けてたんだろうね。

 はは、むしろその行動の方が不審感は増すっていうのになぁ。

 さすがは僕の娘だ。そういう所が昔から変わらない」


「その......今更不躾で申し訳ないのですが、引き続き利用させてもらうことはできますでしょうか?

 もちろん、使用料は払わせていただきます! これまでの分も含めて!」


 そう言うと親父さんは首を横に振った。


「いいよ、いつも通りで。これで娘の友達からお金を貰ったら僕のメンツが立たないし。

 何より娘から嫌われてしまうかもしれないしね。

 あの子が信用して家のトレーニングルームを貸したのなら、それが全てさ。

 にしても、まさかあの子が直々にトレーニングコーチをするなんてね」


「自身でもダイエットのために色々トレーニングの研究をしていたそうですね」


「そうそう、妻からも聞いたりなんかしてね。あの子の好きに関する頑張りは凄いから。

 ただまぁ、親目線からだと、もう少し勉強の方にも精を出してくれるとありがたいんだけどね」


 そう言いつつも、親父さんはあんまり気にしてなさそうな笑みを浮かべていた。

 なんだか元気でいてくれればそれでいい、みたいな雰囲気を感じる。

 そういう所は母さんと近しいものがあるような気がした。


「あ、そうだ、合気道習ってみない?」


「え?」


 突然の話題転換に一瞬困惑してしまった。

 そういや、親父さんは合気道教室を開いてるんだっけ。

 興味はあるけど、通うことは難しいよな.......。


「その、興味はあるんですが、そういう習い事のお金はなくてですね――」


「大丈夫。別にそういう勧誘じゃないよ。

 娘と仲良くしてくれて、さらには僕も助けてもらった。

 それに対するお礼が僕にはこれぐらいしかないんだよ。

 ダイエット感覚にボクシングを始める主婦みたいな軽い気持ちでいいからさ」


「そ、そういうことなら、是非.......」


「それじゃ今からやろう」


「今からですか!?」


「大丈夫。本当に腰は良くなってきたし」


 意外と押しが強い親父さんに案内されて離れへと移動した。

 道場の畳の上で互いに私服のまま向かい合う。


「まず初めに早川君は合気道って言葉を聞いてどう思う?」


「そうですね。競技性のない武道、護身術、後はカッコいい......とかですかね?」


「うん、ぶっちゃけ正解。本当は”自己練磨”って素晴らしい考え方があるんだけど、今のご時世そういう気持ちを抱くために学ぶ人とか少ないからね。

 僕だって渋川〇気先生の投げの動きに憧れてこの業界にいるようなもんだから」


 まさかの返答が返ってきた。

 ちなみに、俺の”カッコいい”のイメージも渋〇剛気先生である。


「だから、僕は護身術の意味合いで勇姫には指導をした。途中で飽きられたけどね。

 けど、そのおかげで何回か救われた場面があるみたいだよ。

 そう聞くと教えた甲斐があった気がするよね。ま、無いのが一番なんだけど」


 それは恐らく柊さんの話じゃないだろうか。

 いや、勇姫先生もモテるタイプだろうから自身の体験談か?

 にしても、意外と濃い人生過ごしてるな。


「なぜ僕が急に合気道を教えようとしているかわかる?」


「それは単に教えることが好きだからじゃ.......?」


「そうだね、それもある。だけど、一番の理由は君が危ういと思ったから」


「危うい......ですか?」


「今から失礼なことを聞くけど――君、イジメられたことがあるでしょ?」


 その言葉にドキッと心臓がはねた。途端に冷や汗が出始める。

 少しだけ気分が悪くなりつつも、理由を尋ねた。


「......どうしてそういう風に思うんですか?」


「そうだね、大きく言うなら勘だろうね。後は雰囲気が似てるからかな」


「雰囲気ですか?」


「僕の合気道を習いに来る子の中で、比較的に内気な子が学びに来るんだよ。

 そういう子達に似てるんだ。

 例えば、やや猫背な姿勢、常に控えめな態度、常に誰かに気を遣っているような姿勢。

 別にそのこと自体が悪いことじゃない。

 でも、それは自分が弱い草食動物であることをアピールしている」


「........」


「だいぶ話がズレるけど、どうして運動部のチャラチャラした人だったり、明らかに不良な人がモテるに、割に恋人がいると思う?」


 本当に話題が大幅にズレた。脱線事故を起こすレベル。

 それはそうと、どうして所謂陽キャがモテるのか、か.......う~ん。


「人に話を合わせるのが上手いとかですか?」


「それもあるだろうけど、一番大きな要素は”自信”の有無だと思うね。

 例えば、もし失敗できないプロジェクトがあるとして、そこで起きた問題は自分では解決できない。

 そこで頼れるのが自信のない上司と、実力はそこそこだけど自信満々の後輩のどちらか二人だったら、当然後者を選ぶよね。

 自信があるということは、”この人なら成功させてくれるかも”という期待ができる」


「な、なるほど.....」


「というわけで、個人の好みを除けば、自信というが大きな要因となってモテることに繋がる。

 自分が抱えている不安を消してくれる可能性があるんだから、そりゃゆだねちゃうよね。

 ってことで、話を戻すと今の君には、その自信が大きく欠けていると思うんだ」


「自信、ですか......」


 そう言われると、特に何かに対して胸を張って誇れるものはない。

 そういう意味では何か自信があるものは何もない。


「......そういう意味では勇姫の行動は実に合理的だね」


「え?」


「いや、なんでもない。ま、ひとまずは合気道の護身術と呼ばれる所以を体験してもらおう。

 きっとそれからでも君の自信の器を身に着けるのも遅くはない」


 そして、俺は親父さんから合気道を教わった。

 加えて、なぜかちょくちょく教えてくれることになった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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