第200話 何を企んでいる?
一瞬時間が止まった気がした。
それほどまでの衝撃的な言葉。もはや自分の耳の疑うレベル。
しかし、耳打ちした当の本人は相変わらずのフワフワとした雰囲気でそこにいた。
「......何の冗談?」
俺は気さくに返した......いや、無理、全然気さくじゃない。
思いっきりガチトーンで聞いちゃったよ。
でも、なんで柊さんが隼人に対して「やり返す」なんて?
アイツ、知らぬ間に何かやらかしたのか?
「......今日夜、中央公園で会える~?」
「え?」
「このままここでしゃべって久川さんに変に疑われても嫌だしさ。
どうせ話すならお互いまとまった時間があった方がいいと思って~」
「あ、あぁ、空いてるけど......」
「良かった~。あ、安心してよ、もう十分寒くなってきたし、あの場所は生徒もよりつかないから」
「なんでそんなことを知ってるんだ?」と思ったが口にはしなかった。
なぜかその質問は憚られた。途端に目の前にいる女子が異質に感じる。
「それじゃ、またあとでね~。時間はまた伝えるから~」
そして、柊さんは軽く手を振りながら教室を出た。
その姿を目で追う事しかできなかった。
―――数時間後
時刻は夜八時。
本来なら母さんを心配させないために夜の外出は避けるようにしているが、今日は適当な理由をつけて約束場所の中央公園までやってきた。
そこには私服の柊さんらしき姿と、男二人組の姿があった。
状況的に知り合い......という感じではないらしい。ナンパの手合いか。
前までなら見て見ぬフリをしていた状況だが、今はくぐってきた修羅場が違う。
それに何より、知り合いを放置しておくことなんてできないだろう。
俺は深呼吸して意を決して走り出した。
しかし、俺が到着する前にキャップ帽を被った青年らしき人物が先に三人の間に割って入った。
俺よりも痩せていて高身長......間違いないイケメンだ。加えて、精神的イケメンでもある。
ナンパしていた連中はその青年の出現によってあっさりと去っていく。
そして、助けられた柊さんはその青年の腕にくっついた。
おっと、しょっぱなから嫌なものを見たぞ。
「あ、たくちゃ~ん!」
すると、俺に気付いた柊さんが、大きく手を振りながら小走りでやってくる。
その度に大きく揺れるたわわに目線が引っ張られたが、なんとか堪えて声をかけた。
「柊さん、時間通りに来たけど......さっきのナンパは大丈夫だった?」
「あ~、見てたんだ~。なら、声をかければよかったのに」
「かけようかと思ったけど、別の人が助けてたみたいだからね。出る幕もなかった」
「お、早川じゃないか」
先程のイケメンが話しかけてきた。
お前、帰ったんじゃなかったのかよ!?
てか、なんで俺のことを知ってる?
俺の記憶フォルダにはこんなイケメンは記憶してないぞ!?
俺が訝しむような目で見ていると、イケメンは深く被っていた帽子を少しだけ上げた。
「私だよ、私。椎名春香」
「あ、椎名さん......どこのイケメンかと思った」
「相変わらずよく間違えられるなぁ。なんでだろ?」
「その身長と寒いからって理由でパンツしか履かないからじゃない~。
ほら、女の子のオシャレは我慢からって言うでしょ~? 学校みたいにスカート履かなきゃ」
「えーやだよ。毎度この時期になって履く度になんの拷問だよって思うし」
突然繰り広げられた女子トーク。
その間にもう一度顔と声を確かめてみたが、やはり勇姫先生の友達の椎名さんだ。
「椎名さんは何でここに?」
「私が呼んだんだよ~。理由はさっき見た通り~」
「そうそうコイツ、ちっちゃいくせに全ての栄養を胸に蓄えたような体してるから、よくナンパ連中にたかられるんだよ。その胸には一体何が詰まってんだー?」
「ひゃっ! もう急に胸を揉むなんてダメだよ~! 男子がいない時にして~!」
「え......あ、二人はそういう.....ん? でも、あれ?」
「潤、ダメじゃないか誤解されるようなこと言っちゃ。
大丈夫ダイジョーブ、潤が寛容的すぎるだけでノンケだよ。私がバイなだけ」
「それでも十分衝撃的なカミングアウトだけど」
なんかたった数分で情報量が凄い......主に椎名さんの。
なんで約束してない人の話で衝撃を受けねばならんのだ。
俺は別のようでここに来たってのに。
そんなことを思っていると、途端に椎名さんが踵を返した。
「それじゃ、終わったら連絡して。それまで適当に時間潰してるから」
「うん、わかった~」
「え、椎名さんこれだけのために来てくれたの?」
「うん、そうだよ~。優しいよね~」
「優しいというかカッコいいというか......なるほど、これがイケメンか」
俺は今まで表面的な、言わば外見だけでカッコよければイケメンと判断していた。
しかし、椎名さんはルックスもさることながら、何より行動がカッコいい。
なるほど、女子にモテる理由がなんとなくわかった気がした。
「それじゃ、近くの喫茶店にでも場所を移そっか」
柊さんに連れて行かれるままに近くの喫茶店にやってきた。
そこでテーブル席に向かい合わせで座り、適当に注文を済ませる。
品が届くまで先程の椎名さんに関しての話題で話し、品が届いたところで話を始めた......かった。
「.......なんというかガッツリ食うね」
「お腹減っちゃってね~」
俺がアイスティーに対し、柊さんはハンバーグステーキを頼んでた。
加えて、さらにいくつか料理を頼んでおり、まるで二人で食事に来たかのよう。
もちろん、テーブルいっぱいに並んである料理全てが柊さんのものである。
「いつもこの量なの......?」
「うん、そうだよ~。だからか、最近ブクブク太っちゃって~。胸がキツいんだよね~」
「それは太っている場所が違くないか」とツッコみたかったが、セクハラになるのでやめた。
ついでにテーブルに乗るたわわに向いてしまう視線も。
これはある種の試練かもしれない。
あぁ、やめて、見ないで......誰とは言わないけど四人の女子のオーラが睨んでる気がする。
「あー、そろそろ、本題に入ってもいい?」
「本題~? はむ......モグモグ、ん、美味しい~~~」
「放課後に言ったことだよ。隼人にやり返すとかどうとか」
「あー、それね。そうだな~、どこから話すべきか。
端的に言うと、金城君が嫌いだからが一番だからかな~」
「......凄くわかりやすい理由でありがたいよ。
だけど、隼人は勇姫先生の想い人であることも知ってるはずだよな?」
そもそも俺が柊さんと椎名さんと関わることになったのは、勇姫先生と関わり始めたことがキッカケだが、もっと起源を辿れば、それはきっと勇姫先生が隼人と付き合いたいという理由で行動したからだろう。
誰が誰に好意を向けているかなんて、周りの方が存外気付くのは早いものだ。
ましてや、陽キャグループに属する柊さんが知らないはずがない。
「うん、知ってるよ~。だって、ゆうちゃんてばすっごくわかりやすいもん。
隙さえあれば金城君の方を眺めてるし、教室に来たらまず金城君の位置を探してる。
で、レイソを交換した今となったらニッヤニヤでやり取りしてるし~。
あのまま口角が天井に突き刺さるんじゃないかって思うぐらいだよ」
「それは何ともヲタク的な感想をするな」
「下にアニヲタの弟がいるもんで~。たぶんそこら辺の女子よりは確実に話についていけるよ~」
柊さんは自慢げにピースする。
口元が汚れたまましているためなんとも幼く映った。
「なら、どうして俺にあんな提案を?」
「う~ん、そうだな.......私ってパパ活女子だったんだ~」
「.........ん?」
突然、何の話?
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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