第198話 何がどうしてそうなった!?
勇姫先生によるフィットネスジムが始まってから早くも一週間が経過した。
より一層冬へと近づいていき、寒さは刻一刻と近づいてくる。
しかし、暖房はまだ許可が下りていないらしく、教室では各々のグループが冬場の猫の集会のように身を寄せ合っている。
そういう俺達も身を寄せ合って、もとい机を合わせていつも通りの昼休みの時間を過ごしていた。
もうこの時期となっては専ら教室で昼食を取っている。理由は簡単、寒いから。
「そういやこの前の大地、練習試合でスゲー活躍してたぜ。
味方から貰ったボールったかと思えばあっという間に敵陣切り分けてポイントゲット。
ぶっちゃけ周りの連中もデカくて超大型巨人が暴れ回ってるようにしか見えなかったけど」
「お前もただの練習試合なのによく見に来るよな。というか来すぎ。
知ってるか、ここ最近俺とお前がデキてんじゃねぇかって先輩に揶揄われまくってるんだぜ?」
「お前、そんなに行ってるのか。空太ですら行ってないのに」
「休日は家に籠るに限る」
隼人は呆れた様子で俺を見て、空太は瞑目し静かに答えた。
それを見ながら、俺はそれとなく弁明する。
「いや、なんというかさ、生で見るとやっぱ面白いのよ。
ほら、たまに放課後にツーオンツーでやってたりしたじゃん?
そのせいでニワカ知識がついちゃって興味持つようになってさ。
それにうちのバスケ部は強いから余計に見ごたえあんだよ」
「良かったな、彼女はご満悦らしいぞ」
「彼女じゃねぇ!」
「だが、大地、噂によると差し入れも貰ってるんだろ?」
「それは.......まぁ......うん。ありがたく」
「やっぱ彼女じゃねぇか」
「ちげぇよ! おい拓海もさっきから黙ってないで何とか言えよ!」
「大地......ヤラナイカ?」
「おい、ここで気持ち悪いネタを持ってくるな!」
今日も今日とて俺達の健全で楽しい会話が続いていく。
にしても、隼人がここ最近俺達に食事のペースを合わせて昼食を取るようになったな。
加えて、前よりもスマホを触るペースが減って、俺達の会話に意識を集中させてるというか。
前までは四六時中触っていたのにすっかり良い子になっちゃって......。
だけど、毎日昼飯に菓子パンは健康に悪いからやめなさい。
後なぜ太らない? 太らない体質か?
その体質を寄越せ。ついでに身長も寄越せ。
そう思いながら、俺はふんわり浮かんだ疑問を大地にぶつける。
「にしても、俺と同じようにちらほらと見に来ている女子の姿があったな。
サッカー部とバスケ部はモテると古より伝承で伝わっているが、やっぱバスケ部ってモテるのか?」
「さあな。でも、彼女がどうとか先輩の間でよく話してるぜ。
まぁ、半分ぐらいは振られて慰め合ってる話が多いけど。
けど、実際そういう話が出るくらいには彼女持ちはいると思う。同じ学年でもいるし」
「そうなんだなぁ。ってことは、あの女子の数はうちのバスケ部と他校のバスケ部のを合わせた数だったのか。どうりで居心地が悪いわけだ」
「居心地が悪いのは、単に男で応援に行くのがお前ぐらいだからだろ」
隼人からのツッコみにアハハと笑う俺達。
その時、空太がボソッと呟いた。
「あ、俺、彼女できたぞ」
「おう、そうか。おめ」
「「「.......」」」
あははは、と笑っていた俺と大地と隼人の表情と笑い声は止まった。
上がっていた口角はスーッと下がっていき、やがて真顔で顔を合わせ、同時に残りの一人の方へ視線を向けた。
「「「.......え?」」」
「ん? どうした? 一斉にこっち見て」
空太が首を傾げる。そこに俺は追及した。
「いやいやいや、どうしたも何も.......今のって本当か?」
「今の?」
「お前がサラッと言ったやつだ。さっさと経緯を吐かねぇとお前の幼馴染が血涙するぞ」
「聞いてもしそうだけどな」
「答えろ、空太! 今のはどういう意味だ!!」
大地の脅迫する取調官のような態度に俺は思わずビクッとする。嫉妬が8割とみた。
にしても、今の反応で隼人が全く知らない感じだった。
コイツでも把握できてないことあんだ。
そんな幼馴染の威を気にする様子もなく空太はサラッと答えた。
「できたのはつい最近だ。告白されたから別に断る理由も無かったし付き合うことになった」
「お前ってそんな奴だったか!?」
「まさかこの中で誰よりも早くパートナーを作るとはな」
「うぐ........ん、ぐっ.....お、おめでとう......!!」
大地、お前.......凄まじい血涙と噛みしめた唇から血が垂れてるのに祝福する姿勢は漢だよ!
にしても、まさか空太が彼女を作るなんてな。予想外も予想外だ。
加えて予想外なのは、このカミングアウトに対して空太が全く動揺してないところ。
俺からの空太に対する印象はクールぶっているちい〇わだ。
俺達からはもはやとっくにクールという印象はなくなっているが、関りが無い人達からすれば未だクールキャラは健在でそれが受けたのか?
それが本当ならある意味空太の印象操作は成功しているだろう。
だけど、見た目を装っているだけで中身は正真正銘の陰キャ童貞のはず。
であれば、どこかでソワソワした態度を取っているか、挙動不審な行動をしているかのどっちかだ。
ましてや、こんな自ら暴露するような行動なんてするはずがない。
「空太、お前の身を案じて聞くが騙されてるわけじゃないよな?」
「そうだ! お前はバカだから騙されてる可能性がある!
安心しろ、例え騙されていたとしても俺達は笑わねぇ」
「おいおい、美人局に遭ってるとでも思ってるのか? 嫉妬は醜いぞ、お前ら。
とはいえ、もしそれが本当だったとしたら俺が何とかしてやる。相手は誰だ?」
「お前らは俺をなんだと思っているんだ?」
俺達の容赦も遠慮も配慮もない追及に、空太は困惑した表情を見せる。
いつになく呆れ顔を見せる彼は教室を見渡し、各場所で食事を取っている女子達を見始めた。
「この中にいるのか?」
「いや、どうやら今はいないみたいだ」
「で、誰なんだよ? さっきの感じからしてこの教室の誰かなのか?」
「あぁ、そうだ。名前は確か......柊潤っ名前だ」
柊潤......!? あのロリ巨乳の!?
「柊潤ってあのロリ巨乳の!?」
あ、大地もその認識なんだ。ちょっと安心した。
「そのロリ巨乳は確かこのクラスのギャルグループの一人だったよな?」
「隼人、別にそれは呼称じゃないぞ。
で、隼人の言う通り、彼女はクラス一番のギャルである愛名波勇姫一派の一人だ。
その呼称で言われる通り、何がとは言わんが低身長であの大きさが、蠱惑的で思春期男子には受けるんだろう」
隼人がそういうと大地が同意するように頷いた。
「まぁ、実際告白されててもおかしくないとは思うけどな。
夏休み前に、たまたまだけど、部活で校舎の外周走ってたら校舎裏で告白現場みたいなの見たし」
「ほぉ......どうやらその女が男子から告白された数はすでに二桁行ってるみたいだな。
で、成功率は100パーセント。もっとも友達の二人の審査をクリアした奴はいないみたいだけどな」
隼人がスマホを見ながらそんなことをしゃべる。
相手は恐らく勇姫先生だろう。こんなにも堂々とやり取りしてることを見せてくるか。
まぁ、実際焚きつけたのは俺だし、二人が接触してるのは知ってるから、レイソを交換しててもおかしくはないんだよな。
「審査ってなんだ? っていうか、レイソ持ってるのかよ」
「その女の友達のものだ。審査ってのは、簡単に言えばただヤりたいだけの男じゃなく、真剣に交際を考えてるかってところだろう。
で、落とされた連中は漏れなくそうだった。そういうことだろ」
「まぁ、空太は三次元より二次元に萌え豚してる方だしな。
性欲が無いわけじゃないだろうけど、方向性が違うだろうしな」
「おい、人を二次元しか愛せない人間みたいなことを言うのはやめろ。
俺も男だぞ、興味が無いわけじゃない。それに......当然視線がそれに動いたこともある」
「「「おぉ~~~~」」」
「だから、なんだその反応は!? 俺の時だけおかしいだろ!?」
「だが、少しひっかかるな......」
隼人がスマホの画面を落とし、両膝を机につけながら手を組んだ。
「その女は告白してきた男子に対して告白を必ず受けた。
そんな女が急に空太に対して自ら告白したという。
この話だけじゃ何かのきっかけで惚れたの一言で尽きる。
だが、これまでの時間の中で二人の間には何の接点もない。
さて、一体何が目的なんだろうなぁ?」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
良かったらブックマーク、評価お願いします




