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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第195話 勇姫フィットネスクラブ#1

 勇姫先生に「痩せろ!」と言われた翌日の放課後。

 俺は勇姫先生に学校外の公園で呼び出しを受けていた。


「なぁ、なんで外で待ち合わせしてるんだ?」


「そんなのあらぬ噂を立てられるのが嫌だからに決まってるでしょ?

 ただでさえあんたと付き合ってるみたいな噂は癪なのに、ましてやあの女子四人から狙われるような余計な証拠は増やしたくないのよ」


「そこら辺は持ち前のメンタルで気にしないかと思ってたけどな」


「殺されたくはないからね」


 勇姫先生は一体あの四人に対してどんな印象を持っているんだ。

 別にあの四人がそんな嫉妬に狂ったような行動なんてしない.......たぶん。

 余計なことは考えないようにしよう。今は目の前に集中。


「それで? 俺が痩せられるってのはありがたいけど、具体的に何すればいい?」


「あんたに良い場所を貸してあげる。ちょっと気分的には複雑だけどね。ついてきなさい」


 勇姫先生に先導してもらい、俺は横を歩く。

 その道中、俺はどのようにしてあの四人と関わったのかということを聞かれた。

 なので、俺はこれまでの経緯をザックリと説明した。


「――なるほど、そんな感じで着々と増やしていったわけね」


「増やしていったとは人聞きが悪い。別に邪な欲を持って接触したわけじゃないのに」


「そういうのが一番達が悪いのよ。女は目敏い。

 普段男子がどんな下心を持って見てるかは視線でまるわかりだし、男子と会話できる女子は態度で自分に対する好意をある程度図ることができる。

 だからこそ、何にもない方がかえって戸惑うし、案外興味を惹かれたりするものよ」


「へぇ~、反応がいいというか......たどたどしい態度を取っている男子をからかって楽しむもんだと思ってたけど」


「それは漫画の読みすぎ。そういう人種がいないとは言わないけど、それはよっぽどの肉食ね。

 あんたなら一度は聞いたことがあるでしょ? 好意の反対は”嫌い”じゃなくて”無関心”だって」


 確かに、中学の時に一度だけ。どこではかあんまり覚えてないな。

 たぶん普通に日常会話の一部として話していたのだろう。


「確か、意識の有無じゃなかったっけ? ”嫌い”は負の感情ではあるけど、存在が認知されてる。

 だけど、”無関心”は気にも留められていない。つまり、それはいないも同じって」


「そ。だから、別に教室でヲタクやらスケベな男子どもやらが何を話してようが興味ないの。

 アタシらの世界には存在しないも同じだから。

 いちいちそいつらに目くじら立ててる方が疲れるっての」


「なんというかドライだな.......」


「ドライ? んなわけないじゃん。むしろ、適切な距離感じゃない?

 陰キャがアタシらを陽キャだって区別するように、人には見合った世界観があるの。

 それが侵害されたらたまったものじゃない......ってこれ前にも話さなかったっけ?

 まあいいや、ともかくアタシらはあんたらの自意識過剰に付き合ってる暇はないってこと」


 まぁ、そんなもんだよなリアルってのは。

 確かにこればっかりは俺が漫画の世界観に毒され過ぎたようだ。


 とはいえなぁ、この今の俺の立場といい、なんだかんだで勇姫先生に関わってる展開といい、とても漫画っぽいと言えば漫画っぽいんだよなぁ。不思議。


 そんなこんなで他愛もない会話をしていると、住宅街へとやってきた。

 その一角、そこには随分と立派な和風の屋敷が視界に入る。こりゃ豪邸だ。

 そんなことを思いながら歩いていくと、突然勇姫先生が止まった。


「ん? どうした?」


「ここよ」


「え?」


「ここがアタシん家」


 愛名波先生が指をさす方向に目を向けると例の豪邸の巨大な門。

 .......え? ここが、え? マジのガチでここが家!?


「驚くのは無理もないわね。アタシが呼んだ友達はその顔をするし。

 だけど、安心して。別に怖い人達が集まってるとかじゃないから。

 アタシの先祖が凄い人だったってだけのただのデカい家。

 それに用があるのはこっちじゃないから」


 「とはいえ、初めての男子がアンタとはねぇ.......ハァ」と呟きながら、」勇姫先生はガックシと肩を落とし、門を開けて家の中に入った。


 そんな彼女の後ろから、俺はオドオドキョロキョロしながら入っていく。

 まさか勇姫先生にこんなキャラ属性があるとは思わなんだ。


「こっちが離れ」


「離れとかあるんだ......こっちも普通に大きい」


 まるで道場みたいな大きさだと思えば、中に入るとまんま道場だった。

 オリンピックで見た柔道の道場と同じ床の材質をしている。


「普段は道場とかで使ってる感じ。で、ここにトレーニング器具が色々揃ってるから、アタシが家にいる時は自由に使っていいわよ」


「なんというか.......実は勇姫先生って凄い人?」


「別にそうでもないわよ。親が口うるさいからたまーに参加してやってるだけ。

 感覚としてはダイエットでやり始めたボクシングって感じかな。

 そんなことはいいから、昨日の夜レイソしたように運動着持ってきたわよね?」


「うん、もちろん」


「なら、あんたは先に着替えてて。アタシは荷物降ろしたら来るから」


 それから着替えて数分後、勇姫先生がトレーニングウェアを着てやってきた。

 しかも、へそが出てるタイプのちょっとガチっぽい人が着るタイプ。

 なんというかギャルがこういう服を着てるというは新鮮だ。


「なんか目がやらしいけど、変な気起こしたら顔面陥没させるまで殴るから」


「まだ命が惜しいので気を付けます」


「よろしい。で、あんたは普段準備運動とかどんなのしてる?」


「準備運動?」


「え、筋トレとかする前にしてないの?」


「してない.......」


 そう言うと勇姫先生に「コイツマジか」みたいな顔をされた。

 その後、数秒間のクソでかため息をしつつ、説教した。


「あんた、いきなり筋トレ始めたって体壊すだけでしょ。

 いい? いくら日中体を動かしてようと、急に無理な動きをすれば体は傷つく。

 その傷は今は事を起こさなくても、やがて大きな事故を引き起こすかもしれない。

 てか、常識的に考えて、なんで体育の前に準備運動してるかわからないあんたじゃないわよね?」


「.......はい」


「怪我をすれば悲しむ人がいる。あんただってやりたかったことができなくなる。

 怪我ってのはめんどうなものなのよ。するだけ損。大きい怪我なら治療費も高いしね」


 なんだか実体験のあるような口ぶりだ。

 それだけでなんとなく今の勇姫先生のギャル姿の意味を邪推してしまう。

 とはいえ、下手なことを口走る前にこの思考ごと止めておこう。


「ってことで、今からやるべき準備運動を教えるからそれをしてから始めなさい。はい、メモ用意!」


「イエッサー!」


「返事はオス!」


「オス!」


 俺はカバンからメモ帳......はなかったので、適当な用紙を裏紙にして勇姫先生に教えを請うた。


「で、何をすれば? 体育でやってることと変わる?」


「体育だと基本的に屈伸やアキレス腱伸ばし、上半身を伸ばしたりとか色々あるけど、間違っちゃいないけど足りない要素もあるの。だから、ここでは代表的にやるべきものを教えてあげる」


「オス」


「やることは側屈、跳躍、前後回旋、内外旋、前後屈、伸脚、膝屈伸、腓腹筋のストレッチ、股割り、股関節周りの前後回旋の10種類ね。

 丁寧に教えてあげるけど、一度きりだから死ぬ気で覚えなさい」


「オス!」


「返事がうるさい!」


「.......解せぬ」


 そこから、勇姫先生によるフィットネスジムが始まったのであった。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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