第193話 突然の囲い火
勇姫先生による恋愛講座という名の個人面談を受けた翌日。
いつも通りの学校にて、俺は三名の女子からの並々ならぬ視線を受けていた。
もちろん、その三名とは玲子さん、ゲンキング、東大寺さんである。
なんというか......圧が強い。それはもう特に。
チラチラと様子を伺っているわけでもなく、ガッツリと視線を送ってくる。
まるで背中に三方向の石化光線を受けている気分だ。心なしか肩が重い。
原因を探ってみるが、ここ最近でトラブったのは永久先輩ぐらいだ。
だけど、先輩とは無事に友人関係を維持しているし、それ以上のことはない。
その後は基本的に勇姫先生と関わっていただけだし.......。
「......」
―――ブーブー
スマホが振動した。画面を見てみると勇姫先生からの着信だ。
レイソを起動して文章を読んでみる。
『なんかあんたを妙に見ている連中がいるけど何したの?』
勇姫先生からの心配の内容であった。案外面倒見がいいな。
なんとなく後ろを振り返ると、目を逸らす三人とこっちを見る勇姫先生がいた。
すると、追加で着信が来る。
『こっち見んな。また変にこじれたらどうすんの?』
『すんません。だけど、特に何もしてない。ここ最近は勇姫先生と話してただけだし』
『そう......だとするとアレかしら? もしかしたら見られてたのかも』
『何を?』
『話してるところ! 中学の時にも男子と付き合ってる女子が、喫茶店で別の女子と二人っきりで話してる所を見て、浮気かも! って泣きついてきたことがあるのよ。まぁ、結局浮気だったんだけど』
なんか中学時代で早々に泥沼に浸かってる......え、女子ってそんな経験すんの?
あれか? 勇姫先生が陽キャグループに属しているからか? わからん。
『まぁ、その泥沼恋愛の話は置いといて。俺は別に誰かと付き合ってるわけじゃ――』
『それ本気で言ってる? ただでさえ自覚ある状態でそれ放置してたらヤバイよ?
しょうがないからあの時のこと話して誤解を解いてきなさいよ』
『いいのか? そしたら勇姫先生の事情も話さないといけなくなるぞ?』
『いいわよ別に。それで意識が変わるような連中じゃないだろうし。
それにその誤解を受けたままこっち動きずらくなる方がよっぽど嫌だし』
『わかった。そういう事なら』
勇姫先生から了承を得て俺は三名に連絡する。
なんというかこういう行動をしている自分に罪悪感を感じる。
こう......プレイボーイな感じがして。いや、実際そうなのだろうけど。
にしても、東大寺さんはわかる。たぶんゲンキングも。
だけど、玲子さんは.......いや、この気持ち的にはうっすら理解してるのかもな。
なんか嫌な感じだ。こんな俺に好意を持ってくれてるというのに。
『表情には気をつけなさい。女子ってのは好きな人の表情の違いくらいすぐに気づくものよ。
特にあんたはわかりやすい方なんだから。このアタシでもわかる程度にはね』
そのレイソを見て俺はチラッと勇姫先生を見る。
すると、呆れようなため息を吐いた表情だった。
さながら「世話のかかる生徒ね」と言いたげな顔である。
別に本格的に勇姫先生に教えを乞うわけじゃないけど......世話になります。
―――放課後
「さて、放課後に喫茶店で話していた女子について教えていただきましょうか」
俺は永久先輩がよく使う空き教室で、先輩から取り調べを受けていた。
おかしい。先輩には連絡していないはずなのに、先陣切って尋問してくる。
まぁ、どっちにしろ先輩にも誤解を受けそうだったのでいいけど。
にしても、玲子さんとゲンキングが部屋の入口で陣取っている辺り、どうやら逃がす気はなさそうだな。
それってつまり好意の裏返し的なやつってことでいいのか?
にわかには信じがたい......こういう光景を目にしていながらもそう感じる。
「実は、ゆ......愛名波さん――」
俺は許可を受けた通り勇姫先生の恋愛事情を説明した。
現状で俺はその手伝いをしているだけだと。
そんな話を全部聞いてくれたが、彼女達の表情はどことなく固い。
「えーっと、信じてもらえたかな......?」
「そうね。話は理解したわ。本当にそうなら私としても何も問題はない。
けどまぁ、それとなく似たような状況で前科がある人達のせいでね」
そう言って永久先輩は東大寺さんを見て、玲子さんはゲンキングを見る。
見られている二人は罰が悪そうに顔を逸らしていた。
んまぁ......こればっかりは擁護できんな。俺も被害者だし。
ただ、その根本的な原因は俺にあるんだけど。
「それに恋愛講座? っていうのも実に興味があるわ。
拓海君、あなたはその人の話に付き合ってあげなさい。
そして見聞きした内容を逐一ワタシに報告すること」
永久先輩は俺に指をビシッと向けて指示を出した。
その言葉に俺よりも早く反応したのは玲子さんだった。
「ちょっと待ちなさい。なぜその報告が最初に届くのがあなたなのかしら?
付き合っているわけでもないのに、束縛系彼女ムーブをするのはやめてもらえる?」
「何を急に言い出すかと思えば、全く呆れた物言いね。
私はただ今書いている小説の参考にしたいと思っているだけよ?
それともなにかしら、私がそういうことを聞くとあなたに何か不都合があるのかしら?」
永久先輩と玲子さんが睨み合っている。
もはやオレンジ色の火花が見えるぐらいバッチバチだ。
そして、両者からは虎と竜のオーラが見える。
また、格式的にはこの二人の方が上なのか、東大寺さんとゲンキングは見て見ぬフリで縮こまっていた。
あ、こっち見て来る。早く止めてって言いたそうな顔してる。まぁ、ですよね。
「と、ともかく、俺と勇姫先生の間には特にないですし、これ以上はお開きってことで!」
俺は椅子から立ち上がると、二人のケンカを止めるように強制的に話題を終わらせた。
これにて無事に誤解も解けた――のも束の間、俺は油断とともに致命的なミスを犯した。
直後、それは瞬時に俺を危機へと追い込む。
「勇?」
「姫?」
「先?」
「生?」
まるで息の合ったかのような連続した言葉からの名前呼び。
ず、随分と仲がよろしいことで......って現実逃避してる場合じゃない!
今までよりも空気が一斉に怖いぐらいに変化した。実際怖い。
し、しくった~~~~! つい勇姫先生って呼んでしまった~~~!
これで余計な疑念が生まれてしまった。これはまずい。
「さて、拓海君、今あなたは致命的なミスを犯したわ。何かわかるわよね?」
「い、いえ......聞き間違いではないですか?」
「下手な嘘をつくと刑がより重くなるけどそれでもいいのかしら?」
「......」
圧が強い。ど、どうしよう......今この場は袋のネズミ。
もはや言い逃れは出来ないか。仕方ない、自分が蒔いた種だ。
それに別にこの呼び方に大した意味はない。正直に言おう。
「その呼び方は単に相手側から指定されただけで、その呼び方をしなければ話が進まなそうだったからしているだけです。
で、俺は基本呼び方を定着させるので――」
「先程は普通に名字を呼びをしてなかったかしら?」
「......下の名前だと誰かわからないという配慮の賜物です」
「.............そういうことにしといてあげるわ。ワタシは優しいから」
「それにそういう意味では先輩とも依然偽恋人役になった時に、下呼びにしたはずですけど。
実際今だって永久先輩って呼んでますし」
まぁ、もっと言うと普段は”先輩”呼びで、名前すら呼んでない。
なぜかと言われれば、先輩一人しかいないし。
「.......っ! ねぇ、今のもう一度呼んでくれるかしら?」
「「「はい?」」」
なんか急に永久先輩がキラキラ下目でこっちを見て来る。おや、なんだこの展開は。
そして同時に、背後からの凄まじい圧が襲い掛かった。
目の前と後方の空気感の違いで風邪引きそうだ。誰か助けて。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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