第192話 着火
「どうしようどうしようど~う~し~よ~う~!」
「うるさい」
拓海が謎のギャルと二人で話を出しているのを見てから取り乱しまくった琴波は、最終奥義を出す前に無事莉子によって回収されていた。
そして現在、彼女は莉子の抱き枕を抱きしめて寝転がっていた。
「だってだって、拓海君が女子と話しとったっちゃん!?
それもうちとは真反対んギャル! 拓海君がチャラ男になってしまう!」
「なにそれギャルは感染力の高いウイルスか何か?そんなことありえないでしょ。
それはそうといい加減私の抱き枕から放しなさい」
「ばってん、万が一、億が一、拓海君が急に『彼氏君見よー~?』とか言い出したら、うち発狂してしまうかもしれん!」
「ギャルに対しての思想が偏り過ぎでしょ。なんでNTR目線なのよ。
あぁいうのはどっちかって言うとおこぼれ貰ってる側よ」
「なんでそげんジャンルに詳しかと?」
琴波から送られる純粋な視線に、本を読んでいた莉子はそっと本で視線を遮った。
そして、一つ咳払いして莉子は流れを自分のターンに戻した。
「とにかく、アタシから見ても早川君はそういう方向性とは無縁だから大丈夫よ。
それに兆が一そんなことになっても、あんたなら多分興味持つでしょ?」
「.......ちょっとある」
「無敵かよこの女。とまぁ、くだらない話は置いといて、あのギャルってあの人でしょ? 愛名波勇姫って女子」
「知ってるの?」
「知ってるも何も同じクラスでしょうに。まさか半年も一緒のクラスで過ごしていて覚えてないの?」
「ほら、うちって拓海君に憧れて頑張っとったばい?
そのせいで玲子ちゃんや唯華ちゃんば除きゃあ関わりんあった女子しか覚えとらんばいね、アハハ」
「それ本人の前で絶対言っちゃダメだよ」
軽い感じで敵を作るような発言をする琴波に莉子は呆れながら指摘する。
まさかクラスの中でもアレほど目立つ女子を全く知らないとは莉子も思わなかった。
とはいえ、実に仕方ないとも言えるが。
「にしたっちゃ、愛名波さんはなして拓海君と話しよったんやろ?
ハッ、もしかしてそん人も拓海君ば好きとか!?
ギャルパッションでアグレッシブゴーしとーとか!?」
「何を言ってるのかサッパリわからないけど、なんでも早川君と絡めるの止めたら?
おおよそ金城君に近づきたいけど近寄りがたい雰囲気出してるから、早川君から近づいて外堀でも埋めようとしてるんじゃない?(※大正解)」
「莉子ちゃんのバカ! そげん短絡的な思考でどげんかでくる相手やなかよギャルは! じぇったい拓海君狙いばい!(※不正解)」
「ギャルに対してどんな偏見持ってるのよ。仮にそうだとしたらもう勝ち目ないじゃん。
良かったわね、失恋も立派な経験よ。次に活かしなさい......あればだけど」
「なんでそげん酷かことば言うと! 嫌嫌嫌嫌! い~や~! まだやれとらんことたくさんあるぅ~!」
琴波は抱き枕を抱きしめてゴロゴロ~ゴロゴロ~。
その姿はさながら掃除道具のコロコロのようだ。
そんな鬱陶しい行動をしている友人に「人の部屋で転がるな!」と莉子からの叱責が飛ぶ。
さすがに家主の言葉には従うのか琴波はピタッと止まり、涙目で莉子を見た。
「莉子ちゃん、どうすりゃよかかな~?」
「.......ハァ、あなたは少しは自分で考えなさいよ。
猪突猛進も過ぎる。イノシシの方がもう少し考えるわ」
「なら、うちゃウリボーでよかもん!」
「なんでちょっと可愛さ求めてるのよ。全然認めてないじゃない。
ともかく、クソ雑魚恋愛脳のへっぽこ感情暴走フレンドにアドバイスをあげるとすると」
「ちょっと罵倒並べ過ぎばい」
「敵の敵は味方。これでわからなかったら、あんたはもう単為生殖でもしてなさい」
「何それ?」
「家に帰ってから調べなさい。さ、帰った帰った」
そして、莉子から強制的に家から追い出された琴波は一人家に帰った。
その後、帰り道でスマホを見ながら叫ぶ女子高生の姿があったという。
―――数時間後
「ふへぇ~、お風呂気持ちよかった~」
パジャマ姿で首にタオルをかけ、自室に戻ってきた琴波はすっかりリラックスモードであった。
スマホでコスメ動画を見ながらドライヤーをかけていると、ふと何か大事なことを忘れてるような気がして、今日あったことを思い出す。
「そういやあ、莉子ちゃんがなんかアドバイスくれた気がしたけど......なんやっけ?
敵がどうたらこうたらとか......確かなんかん言葉やった気がする」
髪を乾かし終えると琴波はスマホで”敵”を用いた言葉を調べてみる。
そして少しの間調べていると、とあるワードで完全に思い出した。
「そうやった『敵ん敵は味方』って言葉やったな。えーっと、『自分が敵対する者と同じく敵対している第三者を、共通の敵を持つ味方と見做す事』ね。へぇ~......つまりどげなこと?」
普段使わないし聞かない言葉に琴波は首を傾げた。
そして、スマホを床に置き、腕を組んで言葉の意味を整理してみることに。
「えーっと、”自分の敵対する存在”ってんな、今ん場合やと愛名波さんんのことになるよね。で、”同じく敵対しとー第三者ば、共通ん敵ば持つ味方と見做す事”ってんな......いる?」
琴波は再び首を傾げた。
なぜなら、琴波が勝手に一方的に勇姫に恋敵意識を持っているだけだから。
その言葉に従うと、少なからず琴波以外にも勇姫に恋敵意識を持ってる人がいることになるが、親友はその仲間を探し出せとでも言ってるのだろうか。
「いや、莉子ちゃんなそげんやおいかんことはせんし、提案せん。
ってことは、うちん周りにはすでにおることに莉子ちゃんな気づいとー」
莉子が子ついている相手――つまり、琴波にとって関わりがある相手。
加えて、琴波が勇姫を恋敵と認識して同じくその人物に恋敵意識を持つ相手。
そんな人物、琴波は一人しか知らない。
「うちだけじゃ手に余る内容やし、力借ったっちゃよかね?
うん、唯華ちゃんも恋敵が増えるとは嫌やろうし」
*****
「う~ん、ハァ~......勝ったぁ」
唯華は装着していたヘッドホンを外すと大きく伸びをした。
先程までランダムマッチした相手とFPSゲームをしており、ゲーム内で無事に一位になれてのリラックスタイムが現在だ。
その時、丁度スマホから着信が来ているのに気付いた。相手は当然琴波である。
「あ、もしもし、琴ちゃんどったの?」
『あ、えーっと、その......』
「落ち着いてしゃべりなぁ~」
幸か不幸か文化祭以来なぜか琴波との交流が増えた唯華。
互いに本音で腹の内を晒した結果なのかもしれない。
とはいえ、琴波はまだ残り二体のボスの存在を知らない。
唯華はそれをいつ伝えようかと毎度毎度悩んでいると、琴波から言葉が紡がれた。
「た......」
『拓海君が女子と二人っきりで喫茶店にいたの!』
「は? 何それkwsk」
先程までのリラックスモードが嘘かのようにピキッと反応する唯華。
先天的な陰キャモードがより濃いオーラを醸し始める。
『その、私も今日たまたま見ちゃったんだけど、なんか話してるみたいな感じで。
でも、話している内容はわからない感じで、だから敵の敵は味方みたいなやつで!』
だいぶ感情的にしゃべっているのか、内容が思ったよりフワフワとしていた。
しかし、伝えたいことはなんとなく理解した唯華。
伊達に周りの空気を読んできたわけじゃない。
つまり、琴波が言いたいのは彼女自身が知らない女子と拓海が話していた。
だから、その女子を共通の敵としてこれ以上恋敵を増やさないようにしようという提案。
ただし、その敵の女子が白樺永久の可能性もある。というか、その可能性が高い。
その場合、琴波が知らないのは致し方ない。
「なるほど、言いたいことはわかった。ちょっと確認したいことがあるからまた明日でもいい?」
『うん、いいよ。じゃ、おやすみ』
「おやすみ~」
『あ――』
―――ツーツーツー
「あ、切れちゃった。ま、なんかあればレイソで伝えるでしょ。
それはそうと、早いとこ琴波ちゃんにも永久先輩とレイちゃんを紹介しておくか~」
そう思いながら何気ない気持ちで永久に文章を送る琴波。
「『今日、放課後に喫茶店で先輩が拓海君と話してたってとこを例の女の子が見ちゃったみたいで、変な勘違いしないうちに今度紹介しますよ』っと」
『放課後は直帰だけど』
「え......あ、やば」
『その話、詳しく聞かせてくれないかしら』
「あー.......拓ちゃん、なんかごめん」
そして、琴波から生まれた小さな火種は瞬く間に炎の海を作り出したのであった。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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