第191話 勇姫の思惑
「早川拓海の恋愛思想を変えろ?」
勇姫は好きな人である隼人に告白すると、返事のための試練を与えられた。
それが隼人の親友である拓海の恋愛思想を変えろということ。
「早川拓海ってあのいつも近くにいるチビで......ぽっちゃりした男子のことよね?」
「あぁ、あのチビデブで間違ってない。ま、半年前よりは多少瘦せただろうがな。
もともと痩せずらく太りやすい体質なのだろう」
早川拓海......その存在は勇姫も良く知っている。
同じクラスの男子でも小さい方で太っているからよく目立つ。
それに学級委員長でもある。知らない方がおかしい。
それになにより、いつも隼人の周りでウロチョロしている人物だ。
加えて、隼人が一番心を開いてる人物でもある。
あんな遠慮のない物言い、他の陰キャであれば睨まれるだろうに。
とはいえ、実のところ勇姫は拓海に多少の感謝はしている。
なぜなら、今の話しかけやすい隼人にしてくれた人物だから。
隼人は春頃なんてただでさえ尖っていた。
加えて、なんかイキってる連中と拓海をイジメだしてからはさらに目が死んでいたような気がする。
でなければ、勇姫は近づくためにはあの声が大きいだけの連中に混ざらなきゃならなかった。
正直、勇姫にとってもあの連中は近づきたくなかったからラッキーだった。
なぜなら、彼女を見る目は完全に下心しかなかったから。
とにもかくにも、拓海のことは隼人に一番近い人ってことで勇姫はムカついているが、人間として嫌いなわけじゃない。むしろ、泥臭い努力は彼女も嫌いじゃない。
「なんでアイツの恋愛思想? ってのを変えなきゃいけないの?」
そもそも拓海は妙にモテていることを勇姫は知っている。
勇なぜか知らないけどクラスにいる可愛い子達と漏れなく友達っぽいし、あの男に話しかけるために容姿まで変えるスゴイ女子もいたし、夏休み前では二年の女子と付き合ってたなんて話もあった。
これらの言葉を並べただけでそこら辺の男子よりも明らかにおかしい。
正直、拓海にどうしてそこまでの魅力があるのかわからない。
全員たまたまデブ専だったってことだろうか? いやいやいや、無い。ありえない。
クラスでデブなのは拓海だけではないし、同じ学年にもたくさんいる。
にもかかわらず、選ばれてるってことはそのほかに要因があると考えるべきか。
そんなことを勇姫が考えていると、隼人は質問に返答してくれた。
「俺はアイツに投資してんだ。人間、一人じゃ限界がある。
それは能力に限った話だけじゃない。精神的な話にも通ずる。
アイツは精神的にタフだが、無敵じゃない。誰かが支えてやるべきだ」
「そう? 確かに、あんだけ女子に囲まれちゃ苦労することは多そうだけど、あんだけ仲良くできてれば随分と楽しい学校生活送れてるんじゃない?」
「客観的に見ればその回答が正解だろうな。
だが、往々にして望まざる状況というのは、望まざる人物に舞い降りるものだ」
「あの状況は早川君が望んだ状況じゃない? 金城君の言葉とはいえなんとも信じがたい話。
男子なんてどこもそこも発情期のサルみたいに下心丸出しなのに」
「アイツの過去に何があったかは知らん。あえて詮索はしてないからな。
だが、今の現状の人間関係に満足してるようじゃ俺が望むアイツは手に入らない。
周りの女どもも拓海の凝り固まった思想を壊そうと四苦八苦しているが、結果はご覧のありさまだ」
「だから、代わりにアタシが壊せってこと?」
「そういうことだ。加えて、身内の争ってる連中にはいい刺激になるだろう。
それになにより......なんだろうな、アイツが変に落ちぶれる姿は見たくない」
「っ!」
いつも堂々としている隼人が珍しく影を落とす姿に勇姫は目を大きく開いた。
なぜなら、隼人という人物は唯我独尊、己の道を行くという人物だと思ってたから。
実際、その実力もあるし、財力もある。だからこそ、意外だった――その反応は。
「くれぐれもアイツには言うなよ。バレたらその時点で終わりだ。当然、お前への返答もな」
「.......一つ聞かせて」
「なんだ?」
「それは金城君の幸せに繋がること?」
「面白いことを聞くなぁ。で、その答えはイエスだ」
「そう」
ならばやるしかない。やり遂げて見せる――そう勇姫は心に決めた。
「なら、このアタシに任せなさい。華麗にぶち壊してやるわ」
*****
―――現在
隼人との回想を思い返し、勇姫は改めて現状の困難さにため息を吐いた。
「恋愛は好きだと思うって言ってたけど.......あんな理由じゃ、どっちかって言うと苦手意識を感じてるようにしか感じないわよ」
問題は明らかに拓海本人にある。それは間違いない。
ただ、それをどうやって本人に認めさせるか。
気づいていないならまだマシな方だ。
だが、それ以上に気付いていてそれを無視しているかのような態度が一番厄介。
自覚してないことを気付かせるよりも、自覚していて無視しているものを認めさせる方がよっぽど困難だ。
それをどう認めさせるか。これが今後の課題だろう。
「とりま、隼人君から期限を設けられたわけじゃないからいいけど、あんましのんびりやり過ぎてもそれはそれでイメージ悪くなりそうだしな~。
ハァ、ともかくまずはアイツと仲良くなることから始めた方が良さそうね。さて、どうしたものか」
勇姫は今までに感じたことのない疲労感を感じながら家に帰った。
****
―――時は遡って放課後
拓海から相談を受けた琴波はなんとなく物憂げな表情をしていた拓海のことが気になっていた。
相談事をされたことは嬉しい。しかし、できたことはそれだけで解決したわけじゃない。
「拓海君は何に悩んどったんやろう」
琴波は腕を組み何か思い当たる節を考える。
色々思い当たる節はある。特に文化祭に関してなんかは。
あの時に迷惑かけた可能性は大いにある。
しかし、もしそうだとすればそれを本人にアドバイスを求めるだろうか。
「ねぇ、何に悩んどったて思う?」
「知らないわよ」
一緒に下校中の友達の莉子に聞いてもぞんざいな言葉が返ってくるだけ。
なんというかあの文化祭が終わってから莉子の様子も前に戻ってしまった気がする。
「冷たか。また前んごとシェコンドになりんしゃい」
「あの時は特例みたいなものよ。あんたが珍しく絶望に打ちひしがれていたから助けただけ。
それに味を占めてまた頼ろうとは随分と浅はかな女になったわね」
「うちゃ好きな人ん助けになりたか! それんどっか浅はかか!
ただ、あわよくばそれで距離ば縮められたらよかねって思うとーだけ! 主にそれだけ!」
「その文脈で”主に”って言うとただの下心丸出し女になるけど?」
どうやら今回友達は役に立たないらしい。
となれば、少々不安ながら自力でどうにかしなければいけないようだ。
なら、まずは根本的にどういう問題が起きてるか知らなければいけない。
「拓海君は何ば考えとーとか......」
「また別の女のことでも考えてるんじゃない? ほら、案外あの見た目で天然タラシだし」
「拓海君が女ん子んことなんか考えとーはずなか! だって、そりゃうちが困る!
これ以上強敵増やしゃれたら勝ち目が無うなるかもばい!
既成事実ちゅう最終奥義が必要になるかもばい!!」
「あなたがそこまで覚悟して望んでるとは思わなかったわ。
なんというか......その最終奥義は永遠に封印しておきなさい。不向きよ」
「ばってんばってん......ん?」
「どうしたの?」
「あれって拓海君だよね」
莉子が用事があるという理由でたまたま行った駅方面。
そこにあるとあるカフェの窓際で琴波は拓海の姿を見つけた。
テーブル席に座って誰かと話している様子だ。
ただし、もう一人は光の反射で顔が見えないが......あれはもしかして女子?
「莉子ちゃん、行くよ」
焦燥感に駆られた琴波は莉子を連れて拓海にバレないように見える位置に移動。
そして、琴波は見てしまった――明らかな陽キャギャルを。
「た、拓海君の貞操が危ない! 今こそ出すしかない――最終奥義!」
「やめなさい」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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