第188話 駆け引き(俺の負け)
放課後、いつもの待ち合わせ場所となり始めた屋上で俺は壁際に追いつめられていた。
愛名波さんのモデルのような長い足を見せつけるように、壁に足をかける様子は少し前に流行った足ドン的な感じ。
加えて、愛名波さんは165センチという俺よりも少し大きい。
なので、威圧的な上から目線はクルものがある。もちろん、恐怖的な意味で。
「あんた、人がイチャコラできないのを知ってて、よくまぁ堂々とイチャコラできるものね。
なに? 当てつけののつもり? だったら、そのケンカ高く買うわよ」
ここで近くの足に下手に目線を動かしたり、鼻の下を伸ばせば八つ裂きにされる感じがする。
だから、表情も言葉も慎重にならねば。
彼女だけは今まで会話してきたどの女子よりもハッキリしたアンチ俺なのなだから。
「べ、別にイチャコラなんて......まぁ、東大寺さんとは文化祭を機に仲良くなった人だから、そこからこう......親友的な距離感になっただけだよ」
「親友ねぇ......ねぇ、まさか本当に男女で友情が成立するとか頭おかしいこと信じてんの?」
「そりゃまぁ......じゃなきゃ異性と関わった瞬間には、常に恋愛のやりとりが行われてるとかそれこそ異常だろ?
現に俺と愛名波さんとの間に友情が成立しなくてもこうして協力関係が出来てるように、恋愛感情を抜きに人は異性と関われる」
「.......あんたなんなの?」
なんか「コイツ頭大丈夫?」的な哀れみの目で見られる。おかしい。
しかし、俺の考えは間違ってないはずだ。
確かに、男女の友情は成立しないとはよく聞く。
だけど、極論心の持ちようだ。でなければ、だいぶ混沌とした世界になるぞ。
愛名波さんは足を降ろすと「もういい」と諦めたようにため息を吐く。
そして、腕を組むと相変わらず上から目線のままに聞いてきた。
「で、何の話をしてたの?」
「愛名波さんをどうやって隼人と引き合わせようかと思ってね。
ほら、隼人って特殊なタイプだろ? だから、会うにしても出来るだけ好印象に――」
「あぁ、それならいいわ。もう会って話したから」
「はやっ!?」
いつの間に!? あまりにも早すぎる行動。普通に見逃した。
詳しく内容を聞くと、どうも昼休みのうちに隼人と接触していたらしい。
一体いつ......と思ったが、思い出してみれば隼人が飲み物を買うタイミングがあった。
恐らくその時に愛名波さんと接触したのだろう。
東大寺さん並みに行動力があるというかなんというか。
これが本物の陽キャという存在なのか、もしくは単に精神力が強いだけなのか。
なんにせよ接触したというなら話が早い。一体どんな話をしたのか。
「隼人と何を話したの?」
「それは......」
そう聞くと愛名波さんが途端に言いづらそうな顔をし、俺から目線を逸らした。
時折様子を窺うようにチラッとこっちを見るが、表情は変わらない。
これは......隼人に何かを吹き込まれたと考えるべきだろうな。
あの男がただ受け身でいるはずがない。何か仕掛けていると考えるべき。
「まぁ、言いづらいなら聞かないよ。
ただの興味本位ってだけで、愛名波さんに迷惑かけるつもりはないし」
愛名波さんは十中八九隼人の傀儡だ。
そして、隼人が一番である以上俺にそう簡単に口を割るはずがない。
であれば、会話の中で探るかボロを出させるしかない。
さて、この場合の問題は俺の話術でどこまで引き出せるかだが......とりあえず、会話の主導権を奪うか。
「ともかくまぁ、これで無事に愛名波さんの依頼は達成かな。
ここからは愛名波さんの頑張り次第だから頑張って。それじゃ俺はこれで」
「え......あ、ちょっと待って!」
「ん?」
やはり来た。普通ならここで引く、もしくは用があっても新たな問題が発生した場合だ。
にもかかわらず、明らかに話がまとまってない状態で俺を引き留めた。
まず隼人から何かの指示を受けていることは確定した。
「まだ何かある?」
「えーっと、その.......あ、お礼! そうお礼! それをあんたにしてなかったと思ってね。
だから、今日とかどう? 無理そうなら明日でもいいけど」
「別にお礼とかはいいよ。そういう目的で依頼を受けたわけじゃないし。
また何か用があったら呼んで。一応、愛名波さんの目的が達成されるまでは協力するつもりだから」
「あ、ちょ、待ちなさい!」
俺か踵を返して帰ろうとした時、愛名波さんが慌てて俺の肩を掴んだ。
そして、体をぐるんと回すと鼻先がくっつきそうな距離に顔が現れた。
こ、これはさすがに近すぎ――
「近い! キモい!」
「理不尽っ!」
途端に距離を取られると、強烈なビンタが俺の頬を打ち抜いた。
お、おかしい......俺は何も悪くないのに.......。
「あ、ごめん.......顔がキモ過ぎて思わずビンタしちゃった」
「謝る気ゼロか?」
「ごめんって、謝るから!」
さすがの愛名波さんもこの行為には責任を感じているのか両手を合わせて頭を下げた。
その謝り方はどことなく軽かったが、一応誠意はあるようなので受け取っておこう。
しかし、ただでは帰らん! 隼人から何を吹き込まれたのか聞かせてもらう!
「で、ここまでして引き留める理由は? 用があるなら早めにして欲しいんだけど」
「それは.......その、あ、あんたに恋愛講座をしてやろうと思って引き留めたのよ!」
指先をビシッと向けながらワン〇ースのハン〇ックとまではいかないが、それぐらい上から目線で言ってきた。な、何様なんだコイツ。
「お気遣いどうも。だけど、結構です」
「な、なんでよ! 男なら誰だってモテたいだったり、女子と付き合いたいだったり思うでしょ?」
「それは偏見が過ぎるよ。俺の体形を見てそう言っているなら尚更余計なお世話。
そもそも自分だってロクな恋愛遍歴なさそうじゃん。隼人相手に俺を頼るぐらいだし」
「うっ!」
「人に教授したいのならまずは自分のテクで隼人を落としてからの方がいいんじゃない?」
「うぐっ!」
「それと用件は済んだから帰るよ」
「うぐぐっ!」
なんだか想像以上にダメージが入っているようだ。情けない声が漏れてる。
「そ、そんな3回も正論パンチで殴らなくたっていいじゃない.......」
そんな俺の言葉に愛名波さんは顔を赤くして涙目の弱々しい声で言った。
おかしい、最後の三言目に限っては帰ることを言っただけなのに、なぜか正論パンチとしてカウントされている。
しかし、まさか泣かれるとは思わなかったな。
泣き落としでこっちの気を引いているのかと一瞬勘ぐったけど、思っているよりもガチだったし。
なんかまるで俺が悪いことした気分になるのが癪だ。あークソ!
「わかった、わかったから! 恋愛講座聞きます! どうぞご教授してください!」
半分投げやりになりながら言えば、愛名波さんは涙をぬぐい、腕を組んでふんぞり返った。
「わかればいいわ。まぁ、こっちも無理やり引き留めたわけだし、特別に勇姫と呼んでもいいわ。
だけど、これからは私が教師なんだから勇姫先生と呼びなさい!」
「いっきに厚かましさが増したな。はいはい、わかりました。お願いします勇姫先生」
「うん、それでよし!」
愛名波さんもとい勇姫先生はこれまでにない笑顔で頷いた。
まぁ嬉しそうな顔をしちゃって。俺にマウントを取られるのがそんなに嫌か。
けどまぁ、これ以上機嫌悪くされても嫌だし......よいしょしとこ。
「それで最初は何をするんですか、せんせー」
「もう少しやる気出しなさいよ。まぁいいわ、まずはあんたのことを知ることから。
ってことで、近くの喫茶店でパフェ奢りなさい」
「俺が奢るんかい」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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