第187話 考えてみればマジで後先ない
愛名波さんとの共闘の約束をした翌日。
俺は隼人に愛名波さんのことを意識付けるための行動をすることとなった。
そんな俺が取る行動は実に単純――そう、宣戦布告だ。
「隼人、たまには俺も反撃に出ようと思う。どんなことをするかは楽しみにしておくんだな」
「ほう? お前が俺に? そいつは楽しみだ」
普通、これから仕掛ける相手に「自分が仕掛けますよ」と言うのはおかしいだろう。
正面切って戦うのは下策も下策。相手を警戒させていいことなんて一つもない。
それは自分でも言ってたことだ。しかし、こと隼人に限ってはその限りでもない。
まず前提として隼人に隠し事が通用しないというのが大きいだろう。
隼人の独自の情報網は例えるなら蜘蛛の巣のようなものだ。
そして、俺はもうその巣に捕まっている。
その中でいくらもがこうと巣からは抜け出せない。
やることなすことバレて、それどころか上手いように俺を罠に嵌めるだろう。
それは俺にとっても、なにより愛名波さんにとっても良くないだろう。
であれば、ここはあえて自ら何かをするという行動を取ることで隼人の興味を引くのが正解だ。
隼人は自分が強者という立場であるが故に、退屈であることが日常なのだ。
言い換えるなら愉悦を求めている。それが金城隼人という男。
「具体的には何をするつもりだ?」
「それを言っちゃ楽しみがねぇだろ。それとも俺ごときに仕掛けられるのが不安か?」
「言ってくれんじゃねぇか。いいだろう、お前のやることに対して俺の情報網では探らねぇ。
全て俺の力でもってお前がやりそうなことを見抜いてやるよ。
ここまで俺にさせるんだ。退屈させんなよ?」
「ふっ.......保証はしかねる」
「そこは自信持てよ」
いや、自信なんてもてるわけねぇだろ。お前相手に何ができんだよ。
とはいえ、ここまで盛大に前振りをした手前、隼人からの評価がどうなるか気になる。
さすがに何もしなさすぎないのは呆れられるだろうか。
でもなぁ、ぶっちゃけ俺が出る幕なんてあるのか?
なんたってこれはあくまで俺が愛名波さんに隼人の接点を持たせるためのものだ。
それにああいう宣言をした手前、突然関わりのない愛名波さんが話しかければ、それだけで彼女の好意が隼人にバレるかもしれない。う~ん、どうするべきか。
「ん~~~~、これはなぁ.......」
時間は経過し休み時間。
俺はこの状況を愛名波さんにどう伝えるか悩んでいた。
無事に愛名波さんが隼人と接触する道は作った。
アレが正解かどうか問われれば正直怪しいところだ。
しかし、隼人に対してはあの選択肢しかなかったとなれば仕方あるまい。
下手に詮索されるよりは正面から戦って相手に黙認させる方が動きやすい。
それはいいんだけど......あまりにも後先がないのがなぁ。
それにこういう女子を仕向けさせるってのは隼人は嫌いそうなんだよな。
別にそこに悪意がなくてもそういう状況そのものが。
しかし、もしこれで隼人の慌てふためく姿が見れたなら、この取引の甲斐はあったというものだけど。
「拓海君、どうしたの? そんな悩んだ顔をして」
話しかけてきたのは東大寺さんだった。相変わらず話しかける頻度は多い。
しかし、告白してからはなぜか感情的な行動はすっかりなりを潜めた様子。
そんな彼女に返事を保留している俺が誰かの恋路の相談なんておかしいだろう。
......いや、もしそれで「なんだコイツ」って思ってくれるのなら別にいっか。
まぁ、ただそれを踏まえて聞いてみたとして、何の問題もなく会話が続くだろうけど。
「東大寺さん、少し意見が欲しいんだけど聞いてもらっていい?」
「え、もしかして相談事! 聞く、絶対聞く! なんでも言って!」
「できる範囲のことでいいから」
なりを潜めたとか思ってたけど、全然そんなことなかった。
少し刺激を与えただけでこのニトロ爆弾かのような爆発具合。
単純に、普段の様子は誰かがトリガーを引いてなかっただけなんだな。
「実は俺の友達の話なんだけど――」
そして、俺は愛名波さんのことは伏せて詳細を話した。
「えーっと、つまり、普段全く話したことのない相手とどういう風に仲良くすればいいかって話?」
「そうそう。それで東大寺さんならどういう風な考えを持つかなって」
「う~~~ん、ハッキリ言うと相手の人による、かな」
「というと?」
「たぶんうちが拓海君と話す前の状況に似てるから言うんだけど、それは話しかける相手が拓海君であったから私も頑張れたわけで、つまりその相手が優しく対応してくれるかどうかだと思うんだよね」
「なるほど。つまり、相手が最初から拒絶モードなら取り付く島もないってことか」
「そうそう、そんな感じ」
そこは盲点というか考えが至らなかった点だな。
確かに、接点を作れたとしても、その後が続くかは相手次第。
特に隼人なんかは攻略難易度マックスの相手だ。
好感度を上げたとしても微増程度にしかならないだろう。
となると、やはり会話ペースは隼人に任せた方がいいだろう。
つまりは今の俺と同じように隼人の指示を聞いて動くような感じ。
相手にしてまともに会話できそうな手段がそれしかない。
「だから、まずは相手のペースにこっちから合わせる方がいいかもしれないかな。
ほら、相手が話したがりだったら聞き役に徹していた方がいいとか」
「......ちなみに、参考までに聞くけど東大寺さんから見て俺と話しての印象はどうだったの?」
「う~ん、そう聞かれてもぶっちゃけわからない、かな。
なんというか、話すたびに緊張してわかんなかったというか、一度振られた時は拓海君が何考えてるかわからなくて困惑してたっていうか........そんな感じだった」
「その.......ごめん、訳は話せないけどこっちの勝手で振り回して」
「いやいや、全然! むしろ、こっちの方こそしつこく絡んじゃってごめんねって感じだから!
あ、でも、今思うと拓海君は基本何でも受け止めてくれるから、多少無茶しても笑って済ませてくれるって感じだったかも。えへへ、なんかそう考えるとだいぶ甘えちゃってたかも」
「別に気にしてないから大丈夫だよ。それと質問に答えてくれてありがとう。
お礼に今度何か頼み聞くよ。俺に出来ることならだけど」
「そ! それなら......その.......」
そんなことを言うと東大寺さんが途端にもじもじとし始め、顔を赤らさせた。
そして、その様子で僅かに上目遣いをしながら聞いてくる。
「こ、今度一緒に遊びに行かん?」
「っ!」
か、可愛い! 思わず脳内でそう叫んでしまった。
いくら俺が誰かと恋愛するという気はなくとも可愛いものには反応してしまう。
そして、問題なのは特に断る理由がないということ。
たぶんデートだよな? デートの誘いしてる感じよな!?
―――ガタンッ
どう返事するか迷っていると後方で椅子が倒れた音が聞こえてきた。
突然のその音にビクッと体を震わせながら後ろを振り向く。
すると、愛名波さんからの威圧的な視線が飛んできた。
俺にはわかる。
アレは「何自分の目の前でイチャコラしてんだテメェ」的な目だ。
すでに導火線に火がついてる状態。これは後が怖いな。
「ビックリしたね」
「そ、そうだな.......」
「で、どうかな?」
今のではぐらせなかったか。
「か、考えておくよ」
「返事は”はい”か”いいえ”、だよ。莉子ちゃんが二択をはぐらかされた時そう言えって言ってた」
あ、あのセコンドめー!
「.......はい、わかりました」
「やったー! 勝ちぃ!」
本日の成果、無事に隼人に仕掛けられたものの、その代償に東大寺さんとのデートが確約した。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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