第186話 共闘成立
愛名波さんからの協力の誘いの続き。
派手に自爆した彼女は顔を真っ赤にしながら逆ギレモードであった。
「アタシが隼人君のことが好きで何か文句あんの!?
なに? もしかしてあんたなんかがアタシに好意持っちゃったりしてんの?
はっ、あんた程度がアタシのお眼鏡に適うわけないでしょ。
自分のだらしない容姿を直してから出直してきなさい。盛大に振ってやるから」
「もうすでに振られてると思うけど。それに別に俺は愛名波さんをそんな風に見たことないし」
「は? なんでそんな風に見てないのよ!? 超意味わかんない。
なにさ、いつも近くに可愛い子がいるから目が肥えてます的な? ウッザ、キッモ!」
一瞬、可愛い人かもしれないと思った自分がバカみたいだ。
まさか1を返しただけで10になって罵倒が返ってくるなんて。
しかも、若干めんどくさい。二次元なら距離感あるからいいけど、リアルはキツいなぁ。
「にしても、愛名波さんが隼人のことが好きだとは知らなかったよ」
そうは言ったものの、ふと古傷の過去を思い返せばそういうシーンがあったような気がする。
基本的にほぼ常にボロボロの自分であったが、隼人のそばには常に彼女がいた。
まぁ、他が猿山の大将みたいな感じでルックス的にも劣っていたから当然な選択だろうけど。
「.......」
ふと聞いてみた言葉に対して愛名波さんは目線を落とし顔をそっぽ向ける。
なんだか好きな人がバレた時とは真逆の反応だ。一体どうしたのだろうか。
「......そうよ、私はずっと前から隼人君のことが好き。それこそ一目惚れだったわ。
自分で言うのもなんだけど、私って恵まれた見た目してたと思うの。
正直、今だってチヤホヤされてる久川や元気にだって負けてないと思ってる。
でも、今の今まで隼人君には見向きもされてない......」
「いや、隼人に関してはそもそも人に対して興味が薄いっていうか......たぶんそこを考え始めたらドツボにハマるよ?」
「それはなんとなくわかるわよ。あの二人に対しても反応が随分淡白だし、目線も特に感情が乗ってないことぐらい。私がどれだけ見てきたと思ってるの?」
それは知らんけど......でもまぁ、今の言葉でなんとなく俺に声をかけた理由が分かった。
愛名波さんは自分に自信を失っている。
彼女のような行動力あるタイプなら考えるよりも行動するだろう。
少なくとも、ほぼ初対面の俺に対していきなりこういうことが良い証拠だ。
だけど、自分の気持ちに嘘つきたくない姿勢だけは伝わってくる。
今だってずっと不安を抱えながらも、一縷の望みをかけるように俺に頼ってきている。
本当は俺にだって頼らずに自分の力でどうにかしたかっただろうに。
「.......俺は何を手伝えばいい?」
前言撤回だ。俺は愛名波さんの頼みを聞き受けることにする。
例えどんな内容であろうと自分の未来を切り開くために頑張っている人に頼まれたのなら、俺もその人にできる限りのことをしてあげたい。
「え?」
そんなことを言うと愛名波さんはキョトンとしている。
まるで俺から積極的にそんなことを言われるとは思わなかったとでも思っているように。
しかし、彼女の口角が徐々に上がっていくと、それはそれは嬉しそうな顔で言った。
「そ、そう! 全く手間かけさせんじゃないわよ! だけど、一体どういう風の吹き回し?
さっきまであんなに渋ってますよ感だしてじゃない?」
「そりゃ簡単な話だ。俺は隼人に一泡吹かせたい」
「一泡吹かせたい......?」
その言葉に愛名波さんは首を傾げる。
まぁ、それに関しては俺にしかわからない気持ちだろう。
隼人には文化祭の時に散々振り回された。
なら、ちょっとぐらいやり返したって罰は当たるまい。
「俺にも隼人とは単純な仲良しこよしって関係じゃないってことだ。
にしても、あの人に興味なさそうな隼人に彼女か......成功すればはだいぶ面白そうなことになるぞ」
「あんた演劇の時並みに悪い顔してるわよ。協力的なら別にいいけどさ」
というわけで、俺は愛名波さんの作戦に全面的に協力することにした。
今度こそ同じ轍は踏むまい。いつも自分が強者だと思ってるアイツにお灸を据えてやる。
と思う一方で、今回のミッションはかなりハードルが高い。
隼人は狡猾にして周囲の空気感の感知能力が高い。
さらに独自の情報網も持っており、人を巧みに動かす話術、道具を揃える財力もある。
こんな隙のない相手を正面切って戦うのは愚策もいいところ。
チート能力でもなければ、初めの村から飛び出した勇者が魔王に勝てる道理はない。
「愛名波さんは現状どうやって隼人を攻めるつもりなんだ?」
「そうねぇ.......まずは近くにいても怪しまれない距離感を作ることからかしら?
隼人君を見ていると、誰とでもそつがなく話せるけど、近くにはある程度信用がない人の所には絶対にいない。そんでもって女子とは徹底的に一定の距離を保っている感じね。
だから、まずはその距離感でも避けられないための信用を得るっていうのが正しいかも」
「なるほど。確かに信用は重要だな」
さすが隼人のことを見てきただけあって隼人のことを理解している。
アイツからの信用を得る。最も重要にして最大の難関だ。
これをクリアできなければ愛名波さんの願いは叶えられない。
「具体的には何か考えてる?」
「正直サッパシ。隼人君のことを知りたいけど、普段の観察からじゃあんまり見えてこないし、それに尾行してサーチすることも考えたけど......バレた時が怖かったからやめた」
「英断だと思うぞ。隼人の信用を完全に得られているかは正直俺自身に対しても怪しい所だ。
そんなアイツに下手な尾行をしてバレたなら、もはや望みはゼロになっていたと思う」
「やっぱそうよね。最も隼人君の近くにいるあんたがそういうならあの時の選択を後悔しなくて済むわ。
とはいえ、近づくためにはどうしても声をかけることは必要なのよね。
そういや、あんたはどうやって隼人君と今の関係になったのよ」
それを俺に聞くか。まぁ、別にそこまで言うに困ることじゃないからいいけど。
ただ、長ったらしく過去の自分のことを話しても混乱するかもだし、重要なことだけ端的に伝えるか。
「あくまで俺主観の経験談を語るけどいいか?」
「いいわよ。今は何でもいいから情報が欲しい」
「なら、アイツの都合のいい手駒になれ」
「........へ?」
まず隼人に関して押えておくべき重要な知識がある。
それは他人をおもちゃにして愉悦に浸るのが隼人という人間ということだ。
もちろん、矯正させているが、それでもそう簡単に本質は変わらない。
俺は言わずもがな、アイツによって振り回された人間は多いだろう。
しかし、そこが逆につけいる隙だと俺は考えている。
隼人は性質上プライドが高く、そして過去の経験から他人を見下しがち。
その思考を俺はなんとか矯正しようとしているが、長年で形成されたものは簡単には変わらない。
だからこそ、隼人は自ら下手に来るものをあまり拒みはしない。
「だけど、注意事項がある。単に手駒になれと言ってるわけじゃない。
隼人にとって“将来性が見込まれる”手駒になる必要がある。
要は手駒になっている間は隼人から適正試験を受けていると考えてくれ」
俺だって最初の頃はいじめグループに立ち向かう心構えをしたところがアイツの評価を受けた。
まぁ、俺の場合はほぼスカウトに等しいかもしれないが、今なおアイツからの試練は続いている。
だから、俺はアイツを信用し、その行動を見てアイツも俺と対応している......と思う。
そう考えると空太はどういう経緯で隼人と仲良くなったんだろうか。
アイツらの距離感って言わば友達の友達って感じだったろうに。
文化祭で俺と大地があまり関わらなくなってから二人の間で一体何があったのか。俺、気になります!
「適性試験ね.......さすが隼人君、一筋縄じゃ行かないみたいね。
だけど、単に私から接触しただけじゃ下心があるようにしか思われなくない?」
そこは心配無用。俺は伊達に隼人のそばにはいない。
「入口までは俺に任せてくれ。アイツの乗せ方なら知ってる」
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