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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第184話 ギャルの呼び出しほど怖いものはない

 一先ず先輩との関係性の解消を防げた翌日。

 久々に気分よく寝れた気がした俺は日課である朝掃除のために早めに登校していた。


「おはようございます」


 そう挨拶するが、当然ながら一番乗りなので返してくれる人は誰もいない。

 とはいえ、一番乗りはなぜか妙に気分がいいので悪い気はしない。

 やっぱりいいよね、一番って!


 荷物を教卓に置くと机を一つずつ教室の片側に寄せて掃除を始めていく。

 そうして数分後にはレギュラーメンバーがやってくる。


「あ、拓海君、おはよう!」


「おはよう、東大寺さん」


 東大寺さんは二学期が始まってから手伝いに来てくれたメンバーの一人である。

 特に東大寺さんに手伝ってくれとお願いしたわけではないが、こうして朝から来て手伝ってくれるのは嬉しい限りだ。


 とはいえ、東大寺さんは段々と登校する時間が早くなり、それが告白の件以来、打算的な行動であったと知ったことに少しだけ戸惑いがある。

 もちろん、打算的だから悪いと思っているわけじゃない。

 ただ、今はそう......主に俺の心情的理由で居心地が悪いのだ。


「それじゃ、手伝うね」


 東大寺さんは当間のように教室のロッカーからほうきを取り出し、俺が掃いていた逆サイドから掃き始める。

 彼女にとっても習慣化された行動なのかとても動きがスムーズだ。


「......」


 .......にしても、気まずい。

 東大寺さんが俺と同じぐらいの登校時間になった分、二番目以降が来るまでにそこそこの時間があって、その分二人っきりの時間がそこそこに長い。


 以前の東大寺さんの心情を何も知らない頃だったら気にならなかっただろう時間。

 そんなことを意識している自分が気持ち悪く感じ、余計に感じる気まずさに拍車をかける。


 チラッと東大寺さんを見る。

 穏やかな笑みを浮かべている表情を見るに俺と同じ気持ちではないらしい。

 そりゃそうか、気まずさなんて感じてたらこんな朝っぱらから来ない。

 そして、俺は好意を知ってしまっているからこそ余計な感情を作ってしまっている。


 おかしいな。きっと一度目の俺なら二つ返事で答えていただろう。

 しかし、俺が俺というどうしようもない本性を知ってしまっている今、素直に受け止めきれない。


 それどころかその好意を若干わずらわしくも感じてしまっている節もある。あぁ、最低な気分だ。

 だけど、それを東大寺さんが原因とするはお門違いも甚だしいので.......ハァ、顔が合わせずらい。


「拓海君、調子悪い?」


 顔をうつ向かせていると東大寺さんがのぞき込むように見てきた。

 その上目遣いから放たれる可愛さインパクトと自分の罪悪感からドキッとビクッが同時に襲った。


「え、あ、いや、そんなことないと思うけど.......」


「でも、さっきから手が止まってるよ?」


「あ......」


 ふと教室を見渡せば、先ほどから風景が変わっていない。

 いや、変わらないのは当たり前だが、自分が動いた形跡が毛ほども見当たらない。

 どうやら思考に没頭しすぎてしまったらしい。

 そして、俺がやるはずだった範囲は東大寺さんが代わりにやってくれたようだ。


「ごめん、少し考え事してた。俺の分もやってくれてありがとう」


「それはいいんだけど......何か悩み事? 良ければ聞くけど?」


 東大寺さんが親切心からそう聞いてくるのが伝わってくる。

 話してスッキリしたい気分だが、悩みの種が彼女自身にあるとは口が裂けても言えまい。

 だから、気持ちだけ受け取っておこう。


「大丈夫。だけど、また何かあったら頼らせてもらうよ」


「っ!......うん、任せて! なんでも言って! なんでもしてあげるから」


「なら、まずはその言葉遣いからやめてもらおうか。なんでもはダメ」


 東大寺さんが暴走し始めたら安達さんから白い目で見られるの俺なんだから。

 そして、俺は気まずさを堪えたまま朝掃除の時間を耐えきった。


 耐えきったところで俺の取り巻く環境が変わるわけではない。

 むしろ、時間をかけて悩むほどあっちもこっちも悩みごとが拡散していく。

 先生には「バカになれ」と言われたが、そのバカになる方法がわからない。


 そんなとある休み時間、俺は教室の空気から逃げ出すように空き教室へと向かっていた。

 昼休みとは違い、そんなに多くある時間でもないのにわざわざ移動して空き教室を使ってる辺り、いよいよもって俺の苦悩もピークに達しているかもしれない。


 対人関係って”無い”なら無いで空しいけど、”あって”も楽しいだけじゃないんだな。

 小さい頃の俺はそこら辺を意識せずにやってたと思うとスゲーよ。感心する。

 そして、今の俺は何をやってんだかなぁ~~~。


「わっかんねぇ~~~.......」


 脱力のままに机に突っ伏す。

 もういっそ何も考えず予鈴までぼーっとしてよう。

 そう思った矢先、突然扉は開かれた。


―――ガラガラガラ


 その音にビクッとする。先輩かはたまた先生か。

 後者であれば何か咎められると警戒していたが、相手は予想外も予想外の相手だった。

 なぜなら、相手は元イジメ相手だからだ。


「ねぇ、ちょっと時間ある?」


 艶のあるピンク色の毛量多めのツインテール、メイクによって際立った釣りあがった目じり、もうすぐ冬が始まるというにもかかわらずオシャレのために胸元を開けた着こなし。

 そう、一言で言えばギャルである。ただし、ヲタクに優しくない現実の方。


 名前は愛名波勇姫(アイナワユウキ)

 直接何かされたことはないが、悪ノリして浴びせてくる悪口や罵倒は忘れもしない。

 ま、そもそも直接されようがされまいが一緒にいただけで同罪だけど。


 とはいえ、それはあくまで一度目の人生の出来事だ。

 それに入学して初めの頃はそこまでいじめグループとの絡みはなかったはず。

 嫌な印象がある相手とはいえ、むやみやたらに遠ざけてはこちらの器が知れてしまうというもの。

 俺はあんな奴らとは違う。例え、相手が嫌な奴だろうと大人の対応で応じて見せる!


「え、えーっと、なんでしょうか?」


 やっべ声がうわずった。イキってた割にこの体たらくはなんとも情けない。

 やっぱ深層意識で苦手意識をもってしまっているのかも。体は正直だ。

 にしても、本当にこの人は何の用で接触してきたんだ?


 今のクラスはいじめグループが覇権を取っていた世界とは違い、隼人によって粛清された世界だ。

 いることは知ってたけど、ぶっちゃけほとんど視界に入ってなかったというか、たぶん今後一生関わらない類の相手だと思っていた。


 それがまさか向こうの方から接触してくるなんて。それもわざわざこんな場所まで来て。

 ということは、話しかけるために俺を探していたのか? もしくは尾行していたか。

 どちらにせよ、今の状況が俺に優位なのは変わりない。


 俺は今やクラスの中でもそこそこに知名度のある存在だと思っている。

 その威光を利用するのはなんとも情けないが、下手に出て舐められるよりはマシだ。

 さぁ、一体何を話すつもりだ!?


「その......放課後って時間あったりする?」


 放課後......? 時間.....?

 わざわざ時間を作ろうとして何するつもりだ?

 もしかして、どこかに呼び出して、そこで設置されたスマホで何かを撮影するつもりか?

 ......いやいや、これはさすがに被害妄想が過ぎるか。落ち着け、俺。

 

「一応、あるけど......?」


「そう、なら良かった。じゃ、放課後に屋上で。

 一人で来てよ? アタシも一人だから。

 それになんだか警戒した様子だけど、別に変なことをするつもりはないから。それだけ」


 そう言って海老名は空き教室を後にした。

 その数秒後に鳴った予鈴の音を聞きながら、俺の思考にまた新たな悩みの種が発芽したのを感じた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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