第181話 教師のアドバイス
翌日の学校、そんな俺は相変わらず尽きない悩みを抱えていた。
東大寺さんの告白とか、永久先輩の絶縁宣言(仮)とか、ゲンキングの宣言とか。
ゲンキングのあの言葉ってたぶん.....いや、おそらく、きっと.......うん。
まさかこの確信度が下がるはずの言葉がむしろ上がっていく言葉になるとは。
俺の体による思春期的勘違いでなければ、だけど。
とはいえ、こう言っちゃなんだが東大寺さんとゲンキングのは一旦保留だ。
あの二人の言葉も考えなければいけないけど、それはまだ今じゃなくていいはず。
なんせ東大寺さんからは保留宣言されたし、ゲンキングはまだ言ったわけじゃない。
だからこそ、俺が目指す円満な青春生活のためには、まず優先して先輩との関係性の修復をしなければいけない。
しなければいけないんだけど......それが全くわからない。
先輩が自分に何を求めているのかがわからないし、安易に聞きに行って刺激したらそれこそ終わり。
先輩も百点満点な回答を目指してるわけじゃないだろうけど、時間をかければいいってもんじゃない。
少し状況を整理しよう。
先輩は俺に“好かれる”と“愛される”の違いを聞いた。
それに対し、俺は「何が違うのか?」と言い返した。
直後、先輩からは絶縁宣言が言い渡された。
つまり、今の状況の原因は間違いなくその問いに答えられなかったからだ。
正直、その言葉に違いがあるなんて思えない。
だから、この答えは先輩が思う言葉の意味の違いを答えられれば正解なんじゃないかって思う。
しかし、相手が望むことなんて例え相手が母さんだとしても無理難題だ。
一体何をどう考えて答えればいいというのか。いや、それを考えないといけないか。
だけど、こうして一人で考え続けてもラチが明かないよな。
「......おい、おい、聞いてるのか? 勇者!」
「え、あ、はい。聞いてなかったです、すみません」
「やはり勇者呼びなら反応するか。いよいよ自覚が出てきたみたいだな」
「違いますので気にしないでください」
場所は職員室であり、目の前には担任の鮫山先生がいる。
そんな鮫山先生はもう多くのが少し着込んでいるのに、相変わらずのジャージでしかも腕まくり。
体育会系が極まっているというか、家の普段着のまま出勤してるんじゃないかと思ってしまうっていうか。
「で、話の続きなんだが式場をどこにしようかと迷っててな」
「え、何の話ですか? もしかして、あの鮫山先生を好きになる物好きなお相手が!?」
「随分な言い分だな」
そりゃ、一見すりゃモテる容姿してるのになぜか付き合っている人すらいないあの先生が!
挙句の果てには生徒に手を出そうとしていたあの先生が!
結婚を考えているなんてほんとに目が飛び出るほどの衝撃だって!
「で、どこにすんだ?」
「なんで俺に聞くんです?」
「そりゃお前との式場に決まってるだろ」
「本当に何の話をしてるんですか?」
この人はほんとーに何を言っているのか。なんでそういう話になったのか。
一人で考え耽ってたから全く脈略がわからない。
つーか、そんな話題を職員室ですんなよ! あんた教員だろ!
でも、そんな言葉を真に受けてる人は誰にもいないのが不思議。
教頭先生ですら微塵も気にしてないよ。
関わるのが面倒くさいんだな、きっと。
「まぁ、そうだな。今話すことじゃないな。また夜にアタシの部屋でな」
「一人で理想の男性相手に耽っていてください」
「おまっ! 教員相手にセクハラとかやるなぁ」
「これまでの話の流れと前文の意味を考えて言って!」
ハァ、なんだか悩んでるのがバカらしくなるくらい気が抜ける。
なんなんだこの人との会話は? 何が面倒って目が若干マジだからなんだよ。
「半分冗談は置いといて」
「全冗談にして置いといてください」
「白樺と何かあったか?」
「っ!?」
そして、急に確信を突くような質問をしてくる。本当に厄介だ。
しかも、向けて来る目線がこればっかりは冗談で言ってるわけじゃなさそうだ。
確か、先輩の連絡先知ってるぐらいだし聞いたのか?
いや、そんなことを先輩がわざわざ話すとは思えないけど。
「言っておくが聞いたわけじゃないぞ。
しちめんどくせぇ朝の挨拶当番で正門に立ってたら朝から辛気臭い顔をしてた白樺が登校してな。
なんかあったかって聞いても『何もない』でそのまま行っまいやがった」
「そう、ですか......」
辛気臭い顔......? もしかしてそれって俺に言ったことに対してか?
先輩もあの発言は不本意ではなかったとか。
そうであればまだ状況としては良い方だけど、たぶんそれは違う。
なぜなら、言われたあの時の状況は別に先輩が怒りで取り乱してる様子はなかったからだ。
それに先輩は怒りで衝動的に行動するようなタイプじゃないし。
むしろ、ねちっこく理詰めしてくるタイプだと思うし。
だとしたら、別のことで何かトラブルが起きたとか?
「でまぁ、お前なら何か事情を知ってんじゃねぇかって思ったけど、似たような面しやがって。
どう考えてもお前らの方で何かあったとしか思えないだろうが」
「まぁ、何も無かったとは言わないですが......」
「無理にとは言わんが話してみろ。
誰かに話すことで考えの整理がついたり、アタシからの言葉で思わぬ気付きがあるかもしれん。
頼れる大人は少ないだろうが、アタシは別だ。だから、頼ってみろ」
鮫山先生は基本めんどくさがったり、先程みたいに遠慮ない冗談を言う人物だ。
だけど、俺がこの学校で唯一信用できる大人と言えばこの人しかいない。
先生の見た目から判断する年齢的にきっと一度目の俺より年下だろう。
だけど、俺より遥か先の社会を生きている人だ。
プライドなんて気にせず話してみよう。
「実は――」
俺は思い切って先生に話してみた。
といっても、大したことは話していない。
なんたって、演劇の最終公演についての話をしていたら突然の絶縁宣言なのだから。
そんな話を真剣に聞く先生は最終公演での内容には一切触れずに先輩が言った言葉を繰り替えした。
「”好かれる”と”愛される”の違いかぁ。
まーた無理難題を問いかけるもんだ。どうせ自分すらも正しく認識してないだろうに。
それに絶縁宣言とか大きく出たなぁ。それで失敗したら後悔するのは自分だろうに。
まるで必ず答えに辿り着くというある種の過剰な期待とも言えるな。
.......いや待てよ? もっと言えばこの本質は荒療治か?」
荒療治?
「これってやはり先輩の要求する答えを考えなければいけないですよね?」
「まぁ、そうだろうな」
「だけど、人の考えることって絶対にわからないですし、俺が先輩の望む答えに辿り着けるかどうか.....」
「本当にそう思うか?」
腕を組んだ先生が問いかける言葉とともに真っ直ぐな目をしてくる。
この問いかけ......まさか先生には俺の考えがわかる――
「『俺の考えがわかるのか!?』って考えてるだろ」
「先生もエスパーですか」
「そんな大層な人物じゃねぇ。ただ単純にお前は人を型にはめ過ぎなんだよ。
この人はこういう人物だ。だから、こういう行動はしないはず。するのは解釈違いだってな。
言うなれば、お前は自分の脳裏で思い浮かべるキャラが正しいと思っている過激なファンだな」
「過激なファンって......確かに俺は友達のことは好きですし、そういう意味ではファンですけど、過激ってほど熱を上げてるわけじゃ――」
「人を見るな、心を見ろ。殻に閉じこもるな、外にはばたけ。
お前がこれまで見てきた友達の本質はきっとお前が思っている以上に単純だ。
半端に頭が良いからそう勘違いするんだ。学生の時ぐらいバカでいろ」
先生は俺の頭にポンと手を置いた。
この二度目の人生の中で母さんを含めて初めて頭を撫でられた。
「お前はこの半年間で見てきた友達の姿は一つだけじゃなかったはずだ。
それをお前の思い浮かべる理想で塗り潰してやるな。悲しいだろ、それは」
先生は頭から肩へ手をスライドさせる。
「頑張れ、勇者。ボスラッシュはもうすぐだ」
「良い言葉の後に不穏な言葉を残さないでください」
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