第177話 審査の時間
諸悪の根源、首謀者、悪のドンこと色々な呼び名(今考えた)がある隼人ととの会話が終わり、俺も少ししたら帰ろうとしたところで、近くに現れたの安達莉子だった。
安達さんは東大寺さんの友達であり、俺が知ってる彼女であれば積極的に誰かと関わる存在じゃない。
しかし、そんな彼女が俺の目の前に、もとい同じ席に座った。一体何のようなのだろうか?
「いいよ別に。俺も聞きたいことがあったしね」
「そう。それじゃ、遠慮なく。といっても、もう座ってるんだけど。
突然呼び掛けてごめんね、アタシ普段あの犬っころ以外とは話さないから。特に男子は。
だから、せっかく顔を合わせたことだし、ちょっと話してみようかと思ってね」
犬っころって......まさか東大寺さんのことじゃないよね?
でも、安達さんが常々一緒にいる相手って彼女しかないし、まさか友達のことその認識!?
ま、まぁいいか、それよりも俺にも聞きたいことがあったし。
というのも、俺は安達さんが東大寺さんを通じて隼人と共謀していたんじゃないかと思ってる。
水族館の件と告白の件、あの二つを比べれば、どう考えても後者が東大寺さんの意思だ。
つまり、水族館の時の彼女は誰かの指示を受けて行動していたことになる。
この段階では、普通に考えれば全ての黒幕である隼人から指示を受けて東大寺さんは動いていたと思うだろう。
しかし、東大寺さんはこう、オーラが出てる相手にはビビり特性が発揮されて、それが体にも影響が出るようなタイプだ。
故に、隼人から指示を受けてそれを東大寺さんに伝える中継役がいると考えられる。その役目が安達さんというわけだ。
とはいえ、これはあくまで俺の推測に過ぎない。それを確かめるための話だ。
「それで話って?」
「まぁ、とりわけ何かを聞きたいというわけじゃないんだけど。
単純にあの子が執着していた相手っていうのがどういう人物か確かめたかっただけ」
「執着って.......」
「間違ってないでしょ? あなたはあの手この手であの子から関心を無くそうとした。
だけど、結局あなたは子供がずっとお気に入りのおもちゃを持ち続けるようにあの子の想いから逃げ切ることはできなかった。
一途と言えば聞こえはいいけれど、恋愛に関心が無いアタシからすればそれは執着と大差ないのよ」
「その話をするってことは、東大寺さんに協力をしていたのは安達さんってこと?」
安達さんは俺から目線を外し、メニュー表に目を移す。
それを見ながら俺の質問に答えた。
「別に反応を探ろうとしなくても大丈夫よ。これから話すのは全部本当のこと。
アタシが振られたあの子を表舞台に返り咲かせたのよ。
あなたからすれば余計なことだろうけど、一度アタシのおもちゃを手荒くしたクソ野郎なんだから、それぐらいしたって文句はないわよね」
安達さんは店員を呼び、メニュー表から適当にメニューを選んでいく。
そんな光景を見ながら、俺は彼女の口から飛び出た思わぬ毒に苦笑いしていた。
いやまぁ、そりゃぁね? その件に関しては誠に申し訳ございませんでした!
「別に、あなたが悪いとは思ってないの。
結局、あなたも金城君の思惑と犬っころの無鉄砲さに振り回された被害者だし。
むしろ、よく足搔いた方だわ。それにあの子にはいい経験だと思うしね」
「さすがにこの恋愛に関してはレアケースすぎて参考にならないと思うけど」
「ふふっ、それは確かにそうかもね。でもまぁ、普段見れないあの子が見れて面白かったわ」
「それは友人として楽しんでいいものなの?」
東大寺さんは随分とクセの強い人物を友達にしているようだ。
あの感情一直線なところがある彼女を制御するにはこういうタイプがいいのか?
「でも、そうだね......やっぱあの時は東大寺さんには酷いことをした。
それに対して、友達の安達さんが怒るのは当然の理由だと思う。
悪かった。東大寺さんを傷つけるようなことを言って」
「それは言う相手が違うんじゃない? そもそもあの子には言ったの?」
「あ......そういえば、告白された衝撃で言ってねぇ」
「ま、言わなくてもいいけどね。結果的にこちらの思惑通りになったわけだし。
というか、言わないで。調子乗ったあの子の相手をするのは面倒なのよ。
ハイボルテージの状態からテンションをガタ落ちさせるのは面白いだろうけど」
「あの、安達さんって本当に友達?」
「友達よ。あの子がそう思い続ける限り」
安達さん、眼鏡かけて寡黙な人かと思えば、想像以上に毒も吐くしSっ気も強い。
特に、東大寺さんに対してはもはや友達扱いかも怪しい。
しかし、東大寺さんが頼るということは、それ以上に良い面があるのだろう。
「そっか。東大寺さんは良い友達を持ってるみたいだ」
「......どこら辺でその判断を?」
「話始めてからずっと東大寺さん話題に出してる辺り。
お気に入りだから話していたいんだなって思って」
「っ!......ハァ、なるほど、これは確かに面倒ね。やめて欲しいわ」
「え、何が?」
「人生二週目みたいってことよ」
おぉっとまさか安達さんからそんなこと言われるとは。
思ったより鋭いな。びっくりしちまったぜ。
「なんだかもう十分ね」
「十分って?」
「あなたも薄々は察していると思うけど、あたしがわざわざ話しかけたのはあなたがどんな人物か見極めるため。
ま、あの暴走機関車琴波号に突撃されるぐらいなんだから、そもそも悪い人とは思ってなかったけど」
「とはいえ、東大寺さんは悪い人に引っかかるようなタイプよ? あれは」
「そうなのよね。振られたショックで落ち込んでいる時に、ちょーっと性格がよくて顔がいい男に優しくされたらコロっといきそうなのよね。そこが心配だわ。ありえそうな未来だし」
その光景を容易に想像できてしまうところが悲しいところ。
そんな似たようなことを思い浮かべているのか安達さんの顔は友達の未来を憂いているかのようだった。
それから、俺は安達さんが頼んだメニューを食べ終えるまでの間、他愛のない会話を続けた。
そうこうしているうちに時間は昼過ぎ。
ここ最近演劇の練習で時間が取れなかった分、筋トレを再開しようと考えていた所で一通のレイソが届く。
『家にいるわ。10秒で来なさい』
「ここから家まで最低でも10分かかるんだけど......」
メールのお相手は最近人の家に入り浸ることが多くなってきた我が敬愛の永久先輩である。
そして、先輩とメールしててわかったことは、機嫌が悪い日ほど文章が少なくなるということ。
言うなれば、普段饒舌にしゃべる人が怒っている時は無口という感じに近いのかもしれない。
「ハァ.......」
正直、気が重い。だって、その相手を俺がしなければいけないというのだから。
まぁね? 俺に聞く理由だってわかってるよ?
台本を作ったら勝手に話の内容を変えられてて、その真相を聞こうにも煮えくり返る怒りを玲子さんやゲンキングにぶつけるわけにはいかない。
となれば、丁度いいサンドバッグことこの俺で発散しようとすることぐらい。
だからこそ、気が進まない。ほんと気が進まない。
「わかりました。行きますよっと。ただし、10秒は無理です」
とはいえ、相手にしないわけにはいかない。
なんだって先輩の台本無くして演劇は成功しなかったんだから。
そして、画面を落としたスマホをポケットにしまい、足枷がついたような足で家に帰った。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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