第176話 首謀者に突撃!
文化祭が終わった翌日、振替休日となったその日は本来ならゴロゴロする予定だった。
文化祭での演劇で使い果たした体力を思う存分寝て回復する......それはもう他に比べようがない至福の時間だ。
だがしかし、俺には早急に確かめなければいけないことがある。
そう最終日の最終公演にて起きたあからさまな台本改変について。
その犯人は実行犯からすでに聞いて特定してある。
そして、そいつをファミレスに呼び出すことに成功した。
「このサンデースペシャルパフェにアイスココア、そしてジャスミンティーを1つずつ」
「かしこまりました。ご注文を繰り返させていただきます。サンデースペシャルパフェが1点、アイスココアが1点、ジャスミンティーが1点でよろしかったでしょうか」
「はい」
「少々お待ちくださいませ」
店員の女性に注文を済ませると、俺は呆れたため息を吐きながら聞いた。
「なぁ、隼人は呼んだからわかるけど、なんでここに空太がいるんだ?」
今日は隼人と二人で話すつもりだったのに。
まさか隼人が空太を呼んだのか? いつの間にそんな仲良く?
そんなことを思っていると隼人が煽ってきた。
「おいおい、せっかくいるのにそんな冷てぇこと言うのかよ」
「いや、別にいてもいいんだけどさ、正直空太は関わりないだろ。あんのか?」
「ないな」
「俺はたまたまアニ〇イトに向かっていたら隼人に呼ばれただけだ。
別に急ぎの用でも無いし来てみれば、なぜか拓海がいただけ。
てっきり隼人が呼んだものかと......まぁ、俺に用が無いなら俺はパフェに集中してるから気にしなくていい」
隼人からお墨付きをもらって、いよいよ空太がいる意味がわからないが......まぁ、当人が静かにしているというのなら気にせずに話してしまおう。
ってことで、俺は早速本題へと移った。
「隼人、単刀直入に聞くが今回お前は何をした?」
「何をってそりゃ当然台本を書き換えただけだが?」
「だけだが? じゃないだろ。もっと手広くやってるだろ。全てだ。全てを言え」
「お待たせしました。サンデースペシャルパフェでございます」
「ほぁ~~~~~」
「全てなぁ、めんどくせぇな。つーか、終わったことだからもういいだろ。切り替えていけよ」
「その言葉はお前が言う言葉じゃねぇ。
ともかく、俺は状況に納得してから前に進みたいんだ!
変にモヤモヤが残った状態じゃ気になって集中しづらいだろうが」
「んふぅ~~~~~っ!」
「ハァ~、なんだお前、めんどくせぇ彼女か何かか?
いいだろ別になんだって。お前に実害があったわけでもねぇだろ。
それに今回は依頼されただけ。それ以上でも以下でもない」
「ダウトだな。その言葉は事実だろうが、全てを語ってるわけじゃない。
俺もお前とそこそこの付き合いだと思ってる。だから、なんとなくわかるんだよ」
「チッ......ハァ、んじゃこうするか俺が言うことにお前がクリアしたら――」
「そういう御託はいいからさっさと言え!」
「おほぉ~~~~~!」
怒っこりづれぇ~~~! なんなんだよコイツぅ~~~~!
人が真面目な話しようとしてる時にこのち〇かわはよぉ~~~~!!
せっかく隼人に圧をかけてもお前のせいで台無しじゃねぇか!
邪魔してないよ、特に会話に参加してこないからスムーズに話せる!
だけど、別のところで邪魔してやがる!
なんだその顔は! スイーツ好きな女子じゃないか!
パフェを口に運ぶたびにいちいち声出して美味そうな顔しやがって!
全く、美味そうだな! おい、俺にも食わせろ!
あぁ、クソ! 怒りが空振りして腹が減ってきた!
「どうした拓海? そんな空太の方を見て。
まぁ、そんなカリカリすんなよ。甘いもんでも食って落ち着け。奢ってやる」
「あ、おう、そっか......ありがとう」
ってそうじゃねぇ! あっぶねぇ、危うく隼人の口車に乗って話を流さられる所だった。
そうか、わかったぞ! このためにアイツは空太を呼んだんだな!
空太が作り出す独特の空気ぶち壊し雰囲気で俺が怒りづらくさせるのが目的だ!
くっ、まさかそんな対俺防衛攻略があったとは。
別に何もしてないから追い出しづらいし、なおのこと厄介。
「で、これで話を逸らせたと思うなよ。お前は大地を焚きつけた。そうだな?」
「いや、俺が俺の意思で動いたのは大地の件じゃない。別の奴だ。守秘義務で言わないがな。
だから、演劇で痴態を晒す奴は本来一人だったんだが......途中で面白そうな奴を一人追加して、そしたら大地の方から俺に相談事を持ってきたって感じだ」
「まぁ、一応辻褄は合うけど......」
最初に隼人が東大寺さんに接触し、それによって俺が彼女と関わるようになった。
その後、コイツはゲンキングにも接触し、挙句には大地がコイツに接触。
そして、あのカオスは演劇時間が始まった。
それにしても、あの時間はすさまじくコストかけてる気がしたけど。
「.......ハァ、んで三人も抱えたお前はその三人だけで演劇を動かすのは厳しいと感じて、他のクラスメイトも巻き込んだんだな。ってよく周りは強力してくれたな」
「あの三人は演者だからな。適切に動かすには適切な環境が必要だ。
そんで周りの連中に関してはまぁ、俺だけが持ち得る情報網を利用して脅し......ごほん、交渉した」
「おい、脅したって言いかけなかったか? やめろ、そういうとこを直すんじゃなかったか?」
「わーってるって。そこはアレだ、言葉の綾みたいなもんだ。
それに同じように協力している連中は他にもいたんだ。
そのことはアイツらも気づいてるはず。その上で行動したんだ。
そうなれば、そう指示したのは俺だが実行したのはアイツらだ」
「それで言い逃れは出来ないからな」
俺はテーブルに置いてあるスマホで西藤さんという女子にレイソを送った。
すると、数秒後に既読が付き、返事が返ってくる。
『確かに、金城君から最終演劇に協力するよう頼まれたし、それは私がいた背景班だけじゃなかったよ。
だから、特に脅されたわけでもないし(まぁ、後が怖かったのはあったけど)、行動したのは私達の意思って意味では間違ってないかな』
『なんでそんなことを?』
『半分は興味本位。もう半分は報酬をちらつかされたからかな。
ただ、渡された台本には演者がどういうセリフを言ってるとか何もなかった。
だから、なんというか......あんな結果になるとは知らなくて、ごめん! 今度なんか奢る!』
「どうだ? 裏は取れたか?」
「そうだな。特に何か恐ろしいことをしたような人の反応じゃなかった。
まぁ、あくまで文面上だから感情がわからなくて確証までは至らないけど」
「おいおい、随分と疑り深いな。そこは信用してくれよ、親友だろ?」
「お前の口からその言葉が出るとはな。なんか気持ち悪い」
「あぁ、俺もそう思う。俺とお前は悪友だからな」
何が悪友だ。俺は特に悪いことはしてないだろ。
全く、楽しそうに笑いやがって。でも、自然な笑顔な気がする。
ハァ、ここは精神年齢が大人である俺が優しく受け止めてやりますか。
まぁ、ここまでうまく手のひらで転がされてたら、もうすでに大人の威厳ないけど。
「んじゃ、俺はそろそろ用事があるから行くわ」
「俺もアニ〇イト行ってくる」
そう言って立ち上がった隼人と空太は揃って席を離れていく。
そして、二人が居なくなった席には自分の食べたパフェの値段ピッタリに置いてある小銭と、お釣りはいらないとばかりに置かれた一万円。
なんとも性格が見える支払い方だ。そんで空太は結局なんだったんだ。
「ん? 早川君?」
とりあえず、万札を裸で置いておくのも嫌なので回収していると、通路から声をかけられた。
そこにいる人物の顔を見て、名前をヒットさせるのにコンマ数秒かかった。
「あ、安達さん。どうしたの?」
「特にどうも。ただ、気まぐれに寄ってみただけだし。
でもまぁ.......うん、少し相席していい?」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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