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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第174話 感情直球ガールは終わらせない#1

 高望みはしない。それは俺の願望だ。

 母親一人大事に出来なかった自分が、今努力してるからといって他の人を大事に出来るのか。

 出来ればこんな思想は頭の中に留めておきたくない。


 しかし、それでも俺の中でどこか昔の自分が冷めた目で見ている気がするのだ。

 だからせめて、手の届く範囲で縁だけは繋ぎとめておきたいと思ってしまう。


「......東大寺さんが?」


「あぁ、待ってる。話があるんだとよ。

 俺は先に行ってるから、あんまり待たせんじゃねぇぞ」


 大地は口早に俺が口を挟む余地も与えずしゃべる。

 そして、足は俺から遠ざかり、一人本館に向かっていく。

 「ついてくるな」と言われた気がした。いや、言っている。

 「誠意を見せたんだから、お前も見せろ」とも言っている。


 気は進まない。望まぬ状況だからだ。

 まともな青春を送っていない俺は女の子の行動に挙動不審な行動は多い。

 困惑することもあれば、ドキッとすることもある。

 それだけ仲良くなれてるってことだし、好かれてることは嬉しい。

 だけど、それ以上は冷めた目で見る俺がいる。


「......わかった」


 とはいえ、この要望を断れる理由もない。

 この状況は俺が原因でなったんだ。

 なら、俺もケジメをつけなければ。

 

 大地に背を向けて歩き出す。

 後ろからガラガラとドアをスライドさせた音が聞こえた。

 足音が遠ざかる。その音がやけに鮮明に聞こえて祭の声は聞こえない。


 微妙に手先が冷たい感覚がしながら、大地がいた場所へ移動した。

 ドアから伸びる光の先に影に覆われた東大寺さんの姿が見えた。

 不安そうに両手を胸の前にかかげてる。

 しかし、その不安を拭うように顔を横に振ると、両腕を伸ばし、決意の目で俺を見る。


「大地から聞いたんだけど、話があるって本当?」


 あくまで何も知らないことを装う。

 ......なんて感じで言ってみたけど、ほんの僅かに声が震えた。

 さすがに体は正直みたいだ。


「うん、本当だよ。そして、拓海君が思ってることで恐らく間違いない」


「......そっか。うん、わかった。聞かせてくれ」


 月を遮っていた雲が無くなったのかドアから差し込む光が伸びた。

 俺を照らし出す影が東大寺さんを覆う。

 東大寺さんの顔がハッキリ見える。


「うち、うちね、拓海君んことずっと見よったんだ――イジメられとった時から」


 東大寺さんの口調が変わった。言葉に感情が乗り始めた。

 正真正銘、全ての気持ちを曝け出すつもりなのだろう。


「最初はね、可哀そうって思うとった。ばってん、思うだけで見て見らんフリばしとった。

 自分がいじめっ子ん人達に巻き込まれとねえて思うとったけん。

 それにそれどころか無関心でおろうとした。

 まるで猫ん喧嘩ば遠くからぼんやり眺めるごと。ほんなこつ酷か人間やて思う」


「そんなことないよ。それにそんなもんだと思う。

 俺だって自分以外がイジメられてたらそんな風に思ってた。

 それに誰かが俺を庇って代わりにイジメの標的になったとして、その人を俺は助けたかと考えるとそうも思わない」


 俺は良い人であろうとしているのは2週目だからだ。

 1週目でイジメから解放されたとなれば、きっと今言った通りのようなことが起きていた。

 それに2週目もたまたま隼人が俺に興味を持ち、助けてくれたから始まった今に過ぎない。


 まだ心の奥底にいる1週目の俺は冷ややかに現実を見つめている。

 突然の日常の崩壊を恐れている。何も言いはしないが。

 俺もまた仮面を被っている。


「ううん、うちゃそうは思わん。だって、拓海君は凄か人やけん。

 うちん意識が少しずつ拓海君ば捉え始めたんな、やっぱり休み時間にずっと金城君に教わりながら勉強しとったことかな。

 周囲ん嫌な視線ば気にすることのう、陰鬱になりそうな環境ん中でん、拓海君は芯ば持って行動しとった。みんなに認めてもらおうと努力しとった。

 それが不思議とばり見惚れてしもうた。自分ば変えるっていうとはばり勇気があるて思うけん」


 東大寺さんの感情がダイレクトに伝わってくる。

 結局、彼女は裏表がない人間だ。だから、言葉にも力が乗る。

 そして、その言葉が力強いからこそ、俺に対するダメージも大きい。


 勇気があるなんて......そんなのは東大寺さんの思い違いだ。

 俺には勇気を持つ以前にそうするしか未来を変える選択肢が無かっただけ。

 抗う意思が勇気と言われれば、もしかしたらそうなのかもしれないけど、俺はあまりそうは思わない。


「やけん、最初は拓海君ば見習うて勉強ば頑張ってみた。

 普段なんやかんや言い訳してさぼりがちなうちやったばってん、拓海君ん頑張りば見てからは不思議と自分も頑張ろうて思えた。

 えへへ、そしたらね、定期試験も前より少し順位上がっとったんだ。

 そん時、自分も頑張りゃあ変わるーって気づいたんや」


「東大寺さんは変わりたかったの?」


「おおかたね、変われた今やけん言えるとかもしれんばってん。うちゃ自分が努力もせんのに、他ん人ば努力ば見ろうともせず才能やけんってなおしとった卑怯者。そげん自分の心にガツンと喝ばくれたとが拓海君やったんだ」


「そんなことないよ。俺はただ自分のためにしてただけだしな。

 仮に俺に影響を受けたとしても、続けてきたのは東大寺さんじゃないか。

 俺よりも自分をもっと褒めてあげなきゃ」


「そこは大丈夫! ちゃんと頑張ったときにはケーキ食べよーけん。

 ばってん、そこまで頑張れたんな、頑張る人がおったけんなんばい。

 きっと一人じゃここまで頑張れんやった。

 なんやろうね、頑張っとーうちに拓海君に自分ば知ってもらいとうなってしもうたんだ。

 それがたぶん拓海君ば目で追い始めた始まり」


 想いのこもった両手を胸に当て、大切そうに愛おしそうにしながら目を閉じる。

 それだけで言葉にせずとも気持ちが伝わってくる。

 それを見るたびに、俺の心はどんどん苦しくなっていく。


 どうして東大寺さんにはそう思うのか。なぜ相手が東大寺さんなのか。

 それは彼女が一番ストレートに好意を伝えてくるからだ。

 他の人達にもそれとなくそういう好意的なものは感じたことはある。


 そうじゃないかと疑い、戸惑い、そうだとしたら嬉しく感じる。

 しかし、俺の心は意図的にその気持ちを切り離した。

 今なら自分が相手の行動にずっとわからないと考えていた理由がわかる。

 とはいえ、それがわかったところで俺の行動が変わるかはわからない。


「拓海君にうちば知って欲しゅうて、見て欲しゅうて、そして追いつきとうして、並びたかった。

 正直、こげえして話せるごとなった仲でん、未や追いつけとー気はせんし、こげえして拓海君に対する気持ちば自覚してからは周りん子達が凄すぎて自信ば失いがちだばってん、ばってんうちゃ自分の気持ちにだけはすらごと言いとうなか。

 頑張っとーっちゃけん負けたかとは思わん」


 東大寺さんの目が静かに開く。覚悟の目をしていた。

 俺も覚悟した。今の不誠実な気持ちに対して何を答えるべきかを。

 俺も大地を見習ってケジメをつけるんだ.......ふぅー、少し気が重い。


「拓海君、うちん気持ちば聞いてくれん。

 うちゃずっと拓海君ば追いかけ、近づきたかて願い、ついにここまで来た。

 そして、拓海君に恋ばして、もっとそばで見続けたかて思うた。

 重たかかもしれんばってん、それが今のうちん純粋な気持ち」


 東大寺さんは小さく深呼吸する。

 そして、両手を伸ばし、拳をギュッと握る。

 僅かに震えた声、されど聴き間違えのないような大きな声で言った。


「拓海君、ばり好きったい。付き合うてくれん」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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