第173話 後夜祭#3
「伝統的な方法か。確かに決着をつけるにはそれしかねぇか。
ハァ~、まさかあの土壇場でお前が決めるとは思わねぇだろ」
「ぶっちゃけ俺も驚いてる。だが、こうして決めたんだから決着つけようぜ」
「.......そうだな」
俺と大地は向かい合って立つ。大地がでかい分迫力がある。
いや、ほんと身長差エグいて。少しは分けてほしい。
「一発勝負か?」
「そのつもりだ」
「なら、始めようぜ」
大地が声をかけ、俺がそれに乗る。
大地が右拳を左手で覆い、戦闘態勢に入る。
その構図はさながら野球の投手そのもの。気合の入り方が違う。
それに対し、俺は両手をねじり合わせ、手の隙間から大地を見る。
「行くか。最初はグーでいくぞ」
「わかった」
俺と大地はにらみ合い、俺の合図で手を振りかざす。
「最初はグー! じゃんけん――ぽん」
大地と俺が出た手は共にパー。つまり、結果はあいこだ。
勝負は延長戦に入り、第2回戦に移る。
「決まらないか。早々に決まってくれればありがたかったんだけどな。たぶん若干待たせてるし」
待たせてる? 誰を? まぁ、普通に考えれば、部活の友達とかだろう。
もしくは空太&隼人とか......だけど、そもそも呼び出したのはアイツだしそれはないか。
「わかった」
双子でもない限りそうあいこにならんだろ。
つまり、次の勝負で決着がつく......はず!
俺は再び合図を出す。そして、構えた手を振りかざす。
その結果は大地がチョキで、俺がパーだった。
そう、つまり俺の負けだ。
「俺の......負けか」
「みたいだな。ハァ~~~~、なんか疲れた。
部活よりも疲れた。精神的に来たわ」
大地がその場にへたり込む。その顔は実に安堵した表情だった。
それは俺も同じか。緊張の糸が解けリラックスモードになっている。
しかし、自分から仕掛けた手前、負けるのはなんともかっこ悪いな~。
「で、大地よ。お前は俺に一体何を望むんだ。
言ったからには守るよ。ただし、できればお手柔らかに頼む」
「単純なことだよ。それにとっても簡単だ」
「?」
大地は立ち上がると、バスケットゴールの近くに落ちているボールを拾いに行く。
ボールを両手に持った大地はそれをじっと見つめると、それを俺に渡してきた。
それをキャッチし、大地を見つめる。
「なんだ? まだ続けるのか――」
「拓海、俺もいい加減ケジメつけるよ。前に進むためのケジメを」
「は? 何言って――」
「待たせてごめん。入ってきてくれないか?」
大地がドアの方へ声をかける。
扉の隙間から伸びる光の中に人型の影が入り込んだ。
見えてきたのは東大寺さんだった。え? いつからそこに?
「東大寺さん、なんでここに?」
「うちは薊君に呼ばれたからで......でも、待ち合わせ場所の体育館に来てみればなぜか大地君とシュート対決をしてて......で、決着がついたかと思ったら、なんかじゃんけん始めちゃったし」
思ったより最初の方から見られてた。なんか恥ずかしい。
「ごめんね、待たせるのも悪いかと思って少し早めに来たんだけど......えーっと、本当に入っても大丈夫なんだよね?」
「あぁ、むしろ入ってくれ。じゃないと話は進まないからな」
東大寺さんがおろおろとしながら入ってくる。
まぁ、もう放課後でも遅い時間だ。その時間に男二人は怖いだろう。
そして、大地が東大寺さんに向かい合ったところで、思い出したかのように俺に罰ゲームの内容を発表した。
「拓海、お前への要求はこうだ。“東大寺さんからの要求を受け入れる”だ」
「ん?」
「へ?」
こんなタイミングで急に何言ってんだ?
東大寺さんをチラッと見るが、彼女もあまりよくわかっていないようだった。
しかし、なんとなく今の雰囲気は伝わってくる。
これは......告白するつもりなんじゃねぇか?
「拓海、悪いけど少しだけ外に出ててくれないか?」
あ、そうだこれ。絶対そうだこれ。
大地に言われた通り、俺は体育館の外に出る。
ドアまでしめちゃうと真っ暗の中二人きりになってしまうからそれは出来ない。
つまり、必然的に告白の内容が耳に入ってくるわけで。
いやまぁ、だったら聞こえない位置まで離れてやれよという話なんですが。
でもでも、やっぱ俺的にもこういうイベント事は正直見逃せない。
でもでもでも、やっぱ告白なんて行為を他人に見られるのは嫌だろうし。
う~ん、めっちゃ出歯亀したい。気になる。
「くっ.......ハァ、やめとこ。やっぱ良い気分じゃねぇよな」
大地も俺に聞かれるだろうことは覚悟してるだろう。
でなければ、俺の目の前であんな堂々とした行動は取らんだろうし。
だからといって、それじゃ聞いちゃいますかとはいかんよな。
ゲームだったら直前でクイックセーブして聞くだろうけど。
俺は体育館から本館へと繋がる通路を渡り、反対側で呆けながら大地を待つ。
気が付けばもうだいぶ暗い。たぶん十数分そこらしか経ってないだろうに。
グラウンドからは相変わらず賑やかな声が聞こえてくる。
「他の皆は何してんだろうな~」
ポロッと言葉が口から漏れた。なんだか寂しがり屋になった気分だ。
一度目の人生では暗がりの中で光るパソコンの画面だけが唯一の光源だった。
ドラキュラのようにカーテンを閉め切って太陽を防ぎ、尻から根が生えたようにパソコンの前から動かない。
動いたのはトイレと風呂の時、そして部屋の前に置かれた食事を取る時のみ。
外の世界なんて考えられなかった。怖かったのもあるかもしれない。
だけど、自分の部屋という唯一の安置を手放したくなかった。
だから、ほぼ全ての物事が自分で完結して、他の誰かを必要としなくなった。
寂しいとか、誰かがいなくてつまらないとか考えることもなかった。
そんな概念があったかどうかも怪しい。少なくとも俺の辞書にはない。
故に、友達はいなかった。ネットの友達すらも。
自分の安置が出来て、自分の世界が構築されて、誰かという存在はノイズだった。
自己は次第に傲慢になり、関わればイライラした。
そのくせ定期的にオンラインゲームをやりたくなるのは、無意識に繋がりを求めていたのかもしれない。
その当時は絶対にそう思わないだろう。ただ面白そうだったからやっただけだと。
だから、こんな環境になっての今更ながらの感想だ。
「本当に......頑張ってきたな.....」
俺がこの世界にやってきてからまだ一年と経っていない。
しかし、自分の努力次第ではこんな風に未来が変わったんだな。
そういう意味では俺は恵まれてるのかもしれない。
なんせ一度目の人生は明確なバッドエンドだからだ。
本来ならそこで終わりだけど、たまたま俺にはマルチエンドルートが用意されていた。
もちろん、俺の努力次第だけど、今確実にそっちへ行けてることが嬉しい。
「このまま続いて欲しいな」
いじめグループという突然の理不尽に襲われ、唐突に閉ざされた俺の未来。
高校という新たな舞台で友達としたかったことは数えきれないほどある。
皆で仲良くいられれば、それ以上は望まない――高望みはしない。
―――スタッ
物思いに耽っていると足音が聞こえた。
ドアの方を見ると出てきたのは大地だけだ。
悔しそうで、だけどどこかスッキリしたような顔で俺を見る。
「なんだ聞いてると思ったけど、律儀に離れてくれてたんだな」
「告白を聞かれるのって嫌だろ。まぁ、めっちゃ聞きたかったけど」
「.......結果は聞かないのか?」
「聞いて欲しいなら聞くけど」
「そっか。ならいいや」
俺は背を向け、本館のスライドドアの取っ手に手をかける。
「行こうぜ。たぶんまだ皆いるんじゃね?」
「まだだ、拓海。まだお前の番が終わってねぇ」
「.......」
......なんとなくそんな気はしてた。
東大寺さんが来てから発言したあの言葉から。
「中で東大寺さんがお前を待ってる」
皆で仲良く一緒にいられればいい。
その願いは俺が思っている以上に困難かもしれない。
こっちのルートは俺の願いをそっちのけで高望みを要求してくる。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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