第163話 文化祭#4
文化祭二日目。この日は土曜日であり、一般公開もされる日である。
つまりは親から顔見知りの他校の生徒、全く知らない大人と色んな人が集まってくる。
この学校はそれなりに規模が大きいということで有名らしく、人の数は多い。
「――ってことで、自分の親も見に来る可能性を考えれば、昨日よりも緊張するだろう。
だけど、これまでの頑張り、そして昨日のことを思い出せばきっと成功するはずだ。
故に、俺が言えることは一つ! 集合時間に間に合うように文化祭を楽しめ! 以上!」
「「「「「おぉーーーー!」」」」」
教卓の前に立ち、文化祭実行委員兼学級委員として全体に声をかけた。
この立場も成り行きで嫌々なった立場だが、今ではすっかり誇りを持っている。
人生、思いがけないことからやりがいって見つかることあるよね。
俺の言葉を受けて解散していくクラスメイト達。
午前の部までの公演には時間があるので、その準備前までは各自好きなように過ごしていく。
部活の友達と行動したり、来ている他校の生徒に会いに行ったり、付き合ってる男女で歩いたり。
そういう俺もこれからいつメン連中(男子オンリー)で回る予定だ。
それに関しては予め女子グループには断りを入れている。
まぁ、そりゃ全員で行動した方がいいだろうけど、さすがに人数増えすぎてもな。
「ん?」
教室から出て行く玲子さんや東大寺さん。なんだか猫背だ。
あ、廊下にいる永久先輩も同じ。その姿はしわがれた探偵ピカ〇ュウのよう。
もしかして家族が来て恥ずかしさで気落ちしてるとか?
一方で、ゲンキングだけは三人と違う理由で静かだった。
そして、一人教室から出て行く。その様子が気になりつつも、見送った。
「拓海、行くぞ!」
「今行く!」
******
午前の部の公演が終わった。無事に何事も無かった。
朝ゲンキングの様子がおかしかったが、特に演技面でおかしなところはなく。
勘違いだったのではないか? と思うぐらいにはしっかりしていた。
いや、もしかしたら演技してる時の方が余計なことを考えずに動けるって理由か?
午後の部が始まるまでの昼休み。
大地は部活の先輩に攫われ、隼人と空太はいつの間にかドロン。
そのため、一人で行動していると校舎近くのベンチでゲンキングを見つけた。
その時の彼女の表情は朝と一緒だ。日差しがいいだけに余計に暗く見える。
俺は右手に持っていた食いかけのフランクフルトを口に突っ込む。
そして、咀嚼し飲み込めば、ゲンキングに近づいて声をかけた。
「おばあちゃんでも来るのか?」
「え?......あぁ、うん、なんかそうっぽいんだ」
それとなく返しやすい話題を振ってみればこの反応。
やっぱり......とでも言うと思ったか!
今、明らかにとりつくろった笑みを浮かべたぞ!
何かをはぐらかすような目の揺れ。おばあちゃんが原因ではない?
「何かあったのか?」
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」
こちらの言葉を警戒しているような素振り。
う~む、これはどんなこと聞いてもはぐらかされるだけかもな。
何に悩んでいるかは知らないが、とりあえず背筋は伸ばしてもろて。
「普段の様子と違ったからなんとなく。でも、言いたくないなら聞かないよ」
「......」
「でもさ、よく思うんだよね。ゲンキングって羽を伸ばせる場所って家しかないじゃんって。
週5日で8時間ぐらいは拘束される学校生活で、ずっと気を張ってるのは疲れるだろ。
ってことで、たまにはやりたいことだったり、言いたいことだったりを全部曝け出せば?」
「っ!?」
ベンチに座り、横にいるゲンキングに思っていることをぶつけた。
普段のゲンキングは陽キャの皮を被っている。
それが本人の選択だし、その行為自体を否定するつもりは無い。
だけど、常に周りに気を張ってるなんて疲れるとは思う。
「周りの目を気にするのもいいけどさ、実はもっと主張したいことだってあるだろ。
ならさ、例えばこんな文化祭の日なんて絶好のタイミングじゃん。
曝け出した全部文化祭のせいにしちゃえばいいんだって。夏の陽気に誘われて、みたいに」
「......いいの?」
ゲンキングが恐る恐る聞いてくる。
その様子はまるで親に怒られることを警戒して、なかなか言い出せなかった子供がやっと見せた自己主張みたいな感じだった。なら、俺が返す回答は決まっている。
「いいに決まってるじゃん。伝えたいこと伝えることの何が悪いのさ。もちろん、程度はある。
だけど、それが伝えたいことやりたいことだったら遠慮しなくていいんじゃない?
ゲンキングはどっちかって言うと普段遠慮してる立場だし。余計にね」
俺だって一度目の人生は伝えるべきことを伝えられずに後悔した。
もっと早く行動していれば、変えられた運命はたくさんあったんじゃないかって。
結果は人生に絶望し、母さんから貰った大切な命を自ら絶つ選択をした。
だけど、俺には運が良い事にやり直す機会が与えられた。
その日からずっと心に決めているのだ。
俺は自分の気持ちはしっかり行動にしようって。
だから、今もずっと母さんに親孝行している。
自分が後悔しない選択肢のために。
「今のゲンキングはまるで林間学校の時と同じだ。
自分の気持ちを小さな箱に閉じ込め、表に出さないようにしてる。
それで本当に後悔しないか? それがゲンキングの後悔しない選択肢か?」
「......っ」
「もし、立ち止まるようだったらあの時みたいに俺が助けに行く。
きっと今の俺ならあの時よりも悪い雰囲気にはならないだろうしな。
ってな感じで、絶賛調子乗っておりますとも!」
俺のかつての悪評が今もどこまで存在するかは分からない。
だけど、少なくともあの時よりは酷い結果にはならないだろう。
でなければ、これまでの公演だって絶対上手く行ってないだろうし。
それに仲良くしてくれるクラスメイトの反応が嘘とは思えない。
「........いいんだね、本当に」
ゲンキングが静かに呟く。
そして、下を見つめていた目がゆっくりこっちへ向いた。
なんだかいつもより熱っぽく見えるのは気のせいだろうか。
いや、日差しのせいで瞳が輝いて見えるだけだ。たぶん。
「わたしがさ、準廃人ゲーマーだってことは知ってるよね?」
「? あぁ、魅せプの動画投稿とかしてるしな。たまにランク戦動画もある」
っていうか、チャンネル登録してるし。過去動画も見てるし。
「わたしが戦う相手ってさ。読みあいとか駆け引きが上手い相手なんだよね。
そして、キャラ特性をよく理解して、リーチや攻撃パターンを脊髄反射まで刷り込んでる。
つまり何が言いたいかって言うとさ――廃人ゲーマーは粘着質ってこと」
ゲンキングはベンチから立ち上がる。そして、大きく伸びをした。
先ほどと打って変わって表情が晴れやかだ。無事適切な助言を送れたみたいだ。
「それじゃ、また後でね。覚悟しとけよ、攻略対象!」
「うん? また後で~」
手を振りながら足早に去るゲンキングを見ながら、俺は袋からたこ焼きを取り出した。
*****
とある空き教室。
そこは屋台を出すクラスの荷物が倉庫のように置いてあり、普段人が入る場所ではない。
故に、密かに話をするにはピッタリな場所と言える。
「......あなたは琴波に何を吹き込んだの?」
そこにいるのは二人の男女。
一人は安達莉子。そして、もう一人は――
「当たり前のことだ。それにお前自身も望んでいたはずだろ。
だから、これまでずっと俺の指示を受けていた。
今更尻込みするなんて意外と肝が小さいんだな」
「そういうことを聞いてるんじゃない。わかってる。でも、本当に上手く行くの?」
「舞台は整えた。場所は大観衆。逃げ場はない。その上で一つの選択を迫られる。
アイツにもそろそろ決断力を身につけてもらわないといけないからな。
それに皆好きだろ?――競争展開ってのは」
金城隼人はほくそ笑んだ。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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