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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第161話 文化祭#2

 最初の演劇が始まるまで20分を切った。

 俺を含めた役者は全員が用意された衣装に着替えていく。

 その衣装は文化祭の準備が始まった一か月前で作れるとは思えないクオリティをしていた。

 いや、細部までこだわりすぎというか......もはや外部に依頼してるレベル。


「随分と凝ってるな......」


「ふふっ、凄いでしょー。ま、私達が頑張ったのは少しだったんだけどね」


 そう言うのは衣装班として活動していたクラスメイトだった。

 なんだか含みがある言い方だな。本格的に外部に依頼したのか?

 だとすれば、それは外部依頼申請書を出す必要があって割と大事なんだけど。

 飲食店とかはそこら辺しないといけないけど、演劇の衣装はぬかったな。

 そんな反応していると、どうにも思ってたのとは違うようで......。


「何か勘違いしてるけど......アレ? もしかして知らない?

 これ、金城君が材料を用意してくれたんだよ」


「隼人が?」


 いつの間に。


「で、私達はパーツを裁縫してたってだけ。

 だから、採寸とか衣装デザインを考える必要が無かったからだいぶらくだったよ。

 やってる感じはプラモデル組み立ててるみたいな感じかな」


 まさか隼人が裏でそんなことをしてたとは......。

 言えよ、アイツ。俺、文化祭実行委員だから、クラスの管理者なんだぞ? 報連相は大事!

 まぁ、外部依頼じゃなくて個人が持ってきた私物って扱いになるから言わなかったんだろうけど。


「タイミング的に演劇をやることが決まって、班分けが成立した時かな。

 私も直接聞いた訳じゃなくて、同じ班の子がそう全員に伝えるように指示されたみたい」


「そうなんだ......」


 アイツ、ちゃっかり働いてた。まさか裏でそんなことしてるなんてな。

 にしても、衣装のサイズはどうしたのだろうか。採寸とかはしてないって聞いたけど。

 アイツが個人にそういう情報を聞くとは考えづらいし。


 もしかして、Tシャツみたいに誰にでも合うサイズで作ってるのかもな。

 わざわざその人だけのサイズ衣装なんて、アイツにとってはそれほど無駄なものはない。

 金を持っていようと合理主義だ。後でも必ず使いまわせるような感じになってるはず。


 となれば、聞かないのは納得できる。他の皆はスラッとしてるし。

 いや、でも、俺が言うのもなんだが玲子さんやゲンキングはそれなりに発育良いし、それに俺の太った体形をフリーサイズで合わせられるものなのか? う~む、謎である。


 そんなことを考えてると「遠くから早く男子は着替えちゃってください!」と急かす声が聞こえてきたので、言われた通り衣装に着替えていく。うん、苦しくない! 不思議!

 女子が気を利かせて教室から出てるうちに着替えてしまおう。

 その後も女子の着替えが詰まってるし。


 その着替えの間、俺が他のクラスメイトの男子と話しているとそこでも隼人の話を聞いた。

 どうやら演劇で使う背景のベニヤ板を隼人が用意してくれたらしいのだ。


 相変わらず言えよと思うが、それでもアイツがちゃんと参加してくれてるのを知って嬉しくなった。

 なんだかんだでこのクラスに愛着持ってる気がして。


 そして、俺と大地、空太、それから数人の脇役として出る男子グループの衣装が着替え終わると、次は女子グループだ。

 教室を入れ替わって入り、廊下を歩く生徒に興味深そうに衣装を見られること十数分。

 俺達よりも二倍近くの時間がかかって女子達の着替えが終わった。


「終わったよ。入ってきて大丈夫」


 ドアを少しだけ開け、その隙間から顔を出して伝えるクラスメイト。

 その言葉に妙な緊張感を感じた。

 マラソン大会で例えれば、スタート位置に並んでスターターの音が鳴るまでの緊張感というか。


 俺と大地は顔を見合わせ、互いに入る意思を確かめる。大地も緊張してらぁ。

 小さく深呼吸すると顔をひっこめたクラスメイトによって出来たドアの隙間に手をかけ、ゆっくりとドアを横に引いた。


「おぉー!」


 思わず声が漏れた。それほどまでに見惚れてしまう。

 東大寺さん、ゲンキング、玲子さんの衣装は総じてドレスだ。

 ただし、いじめらてれるヒロイン役の東大寺さんだけ気持ちみすぼらしい地味な感じだ。


 対して、ヒロインの姉役であるゲンキングと玲子さんは見事に映えている。

 長女役の玲子さんの青いドレス、次女役のゲンキングのオレンジ色のドレス。

 実に華やかでとてもいい目の保養になる。


 もともと容姿が整ってる二人だ。鬼に金棒というか、トラに翼というか。

 見た目の華やかさで一気に目が吸われていく。これが魅了というやるか。

 かといって東大寺さんがそこまで劣ってるとも思わない。

 やはり夏休みデビューが活きているのだろう。十分ヒロインとして輝いてる。


「ど、どうかな......?」


 東大寺さんが恥じらいながらも聞いてくる。

 妙に視線が合うのは気のせいだろう。


「似合ってると思うぜ!」


 大地が食いつくように反応する。そりゃ好きな人のドレスアップなんて興奮ものだろう。

 ソシャゲの課金要素で好きな女性キャラの衣装チェンジがあった時、運営の策略と思いつつも貢ぐ手が止められないヲタクの如く。


「あぁ、さすが東大寺さんだ。頑張った甲斐があったんじゃない?」


「うん!」


 先ほどまでの緊張はどこへやら。まるで花畑を駆け回る少女のように嬉しそうだ。

 そんなことを言っている横でゲンキングが伸ばした手をひっこめたり、もう一度伸ばしたりとしてるのが目の端に映った。

 すると、それを見かねた玲子さんがそっと背中を押す。


「鬱陶しい」


「わわわっ!?」


 足をつんのませるゲンキング。俺にぶつかるギリギリのところで立ち止まった。

 しかし、すぐ近くに居てもどうにも口ごもってる。いつもの彼女らしくない。


「どうしたの? まだ緊張してる?」


「え、あ、いや、その......た、拓ちゃんの服装似合ってるよ! さすが、ザ・悪役って感じだね!」


 急に褒められた。こんな中途半端に太った身長の低い悪役が”ザ・悪役”とは思わないけど......でもまぁ、やっぱ褒められるのは嬉しいよな。


「そういうゲンキングこそ似合ってると思うぞ」


「や、やっぱり~? なんたってこの時のわたしは何でも似合う女だからね!」


「別にいつもの調子でも同じこと言うと思うけど」


「っ!」


 ゲンキングが目を見開いてこっちを見る。え、何、どうしたの?

 そんなことを思ってると急に俯き、数秒後には先ほどのテンションに戻っていた。


「もう拓ちゃんったらいつからそんなに天然ジゴロになったのかな~。やーね、男ってホント」


 そう言ってゲンキングは足早に目の前から去っていく。

 そんな彼女に対し、「なんだったんだ?」と思う程俺も愚かではない。

 しばらく前からゲンキングは二重人格のようにバグっているのだ。


 最初はそれが陰キャモードと陽キャモードのオンオフスイッチがバグったからだと思った。

 だけど、ここ最近の彼女の様子を見ているとただそれだけじゃないってことはわかる。


 要因は間違いなく俺にあるだろう。他の人にはまずこんな妙な態度を取らない。

 であれば、俺が何をしてゲンキングがこうなったか.......いや、今はその思考は脇に置いておこう。


 これから劇の本番って時に余計なことを考えていれば、全員に迷惑をかけてしまう。

 それにゲンキングがこうなったのは東大寺さんと関わり始めてからだ。

 つまり、この文化祭という時間が終われば、自然と決着はつく.....はず。


「......よし!」


 俺はバシンと頬を叩き、これからのことに集中した。

 そして、文化祭最初の劇が始まる。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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