第160話 文化祭#1
『――それではこれより第53回彩静高校文化祭の開幕を宣言したいと思います! それじゃ皆さんご一緒に~~~~~チェケラーーーー!!!』
その掛け声絶対に誰も合わせられないだろ、と心の中でツッコみながら文化祭がスタートした。
先の聞こえていた声は各教室に設置されているスピーカーから聞こえたものだ。
昔では体育館に集まってオープニングセレモニーとかやっていたようだが、年々各クラスの出し物のグレードが上がっているので、その準備でそういう文化は消えてしまったらしい。
まぁ、食材とか扱うことを考えると準備の時間とか必要だよな。
そんな準備風景を教室の窓から眺めてる俺。
学校の校門の両脇には抽選という激戦を勝ち抜いた屋台が並んでいる。
皆せっせと動く姿はまるで働きアリのようである。
「拓ちゃん、余裕だね~」
ふと背後からかけられた声に振り返る。
すると、後ろには今にもぶっ倒れるんじゃないかという青ざめたゲンキングがいた。
どうやら本番に対するプレッシャーが陽キャというメッキを貫通してるらしい。
「そっちは余裕無さそうだな」
「そ、そんなこと......なくもない。あ、やっぱ無理。今にも緊張で吐きそう」
「おいおい、しっかりしてくれよ? ゲンキングがそんな調子じゃ俺まで緊張するじゃないか」
ゲンキングがこんなあがり症とは驚きだ。なんだかんだで順応性は高いから。
だけど、考えてみれば根が陰キャの彼女にとって舞台で役者として演じるということ自体かなりハードルが高いんだろうな。
その気分はさながら日差しの下を歩かなければいけないドラキュラ。
陰キャにとって大勢の注目を浴びるほど残酷なことはない。
故に、ゲンキングがこんな調子というのも仕方ないと言えば仕方ない。
「なんで拓ちゃんはそんなに平然としてるの?」
「平然というわけではないが......この数か月でだいぶ肝は据わった気がするしな」
自らの意思で実行するという行動を繰り返してるうちに、ある程度の緊張は慣れてしまった。
大体、俺のこれまでなんて予想外の連続だったから尚更って感じで。
ただ少なくとも――
「一時間前から緊張はしないかな」
俺がふと時計を見れば時刻は午前9時30分。
俺達の劇の午前の部の開幕が10時30分なのでまだ多少なりとも余裕はある。
とはいえ、逆に言えばもう本番まで一時間ほどとなってしまったわけだが。
「ま、最初の1回を超えればだいぶ楽になると思うよ。見てみなよ、玲子さんを」
「あぁ、レイちゃんね......」
まるで緊張している姿を見せない凛とした立ち姿で周囲のスタッフに指示を出してる。
加えて、緊張している脇役には積極的に話しかけて緊張をほぐしているようだ。
「ゲンキングも玲子さんを目指してるのなら背筋伸ばして堂々としないと。
ほら、猫背直して。胸を張ればネガティブなこと考えづらいらしいから」
「そ、そうなの? スーッ、ん!」
そんなアドバイスを送るとゲンキングは大きく息を吸って異常なまでに胸を張った。
なぜ普通に胸を張れないのか。それとその姿は非常に視覚的によろしくないのでやめて欲しい。
「ぷはーっ......あ、なんか少しほぐれたかも」
「俺が思っていた感じじゃなかったけど少しでも良くなったのなら良かった」
ゲンキングの悩みが解決すると、彼女は「ありがと」と言って他の女子生徒の所へ向かってった。
そこに依然のようなよそよそしさって感じがない。まるで前に戻ったみたいだ。
そう、俺とゲンキングの友達の距離感に。
「なぁ、拓海。緊張をほぐす方法はないか?」
ゲンキングの後ろ姿を見ていれば、突然空太が声をかけてきた。
顔が真っ青である。デジャヴかな?
一先ず、空太も猫背だったので同じようにアドバイスを送る。
「拓海! 緊張ほぐす方法ないか!?」
「お前もか」
そんなこんなしてると大地が続いてやってきた。
なんでこいつらは俺なら緊張をほぐせると思ってるのか。
とりあえず、「人という漢字を書いて飲み込み息を止めてろ」と雑な返しをすると本気で実践し始めた。
「は、早川君! 緊張んほぐし方ば教えてくれん!」
「.......」
二度あることは三度あるというのか。ついには東大寺さんまで聞いてきた。
なので、「十秒かけて呼吸を繰り返してみれば」とまた若干雑な返しをすると当たり前のように信じて実戦し始める。結果――
「拓海、さっきより気分が楽だ!」
「やっぱ聞いて正解だったぜ」
「ありがとう! 早川君!」
「そりゃどうも」
なんか上手く行ったらしい。
特に俺が大地と東大寺さんに言ったことは、別のことに意識させるように仕向けただけだ。
大地なら息を止める意識、東大寺さんなら十秒かけて息を吸ったり吐いたりする意識と。
俺がしたことはたったそれだけなのだが、こんなで上手くいくならたぶん俺のアドバイスなくても自力で解決できた気がしなくもない。
ま、おかげさまで俺の方も緊張はほぐれたようだ。
「さてと......」
無事に三人の問題を解決出来た所で、俺は辺りを見渡す。
本番まで残り45分。そろそろ体育館へ移動して最終準備を始めてもいい時間。
だけど、その前に俺には話したい人物がいる。
「よぉ、隼人、もうすぐ本番だな? 緊張しないのか?」
そう、俺が話したかった人物は隼人である。
コイツは何かを企んでいる......そういう疑いがある。
そのため、コイツとの会話から企てを看破したいが、一筋縄ではいかないだろう。
そもそも俺の話術で引き出せるかどうかも怪しい。
「ハ、ありえねぇな。 こんなお遊戯で緊張するわけねぇだろ」
「そうなのか.......」
今一瞬、玲子さんが凄い形相でこっちを見た気がしたが気にしないでおこう。
見たらいけない類のやつだ。二次被害で俺のメンタルがやられる気がする。
「ま、お前はナレーションだもんな。
にしても、お前自らナレーションを買って出るとは思わなかったぞ。
もっと言えば、お前は幽霊部員みたいな立ち位置になるかと思ってた」
「実際、そっちでも良かったんだけどな。
だが、遠くで観察してるよりかは近くで引っ掻き回した方が面白いと思った。それだけだ」
「引っ掻き回したいって......この際言うけど、お前の邪魔で随分とやられたよ」
「ほぅ、邪魔とは?」
「惚けんな、演劇で役を決める時のクラス会議の出来事だよ」
コイツ、わかってわざわざ聞き返しやがる。
ニヤニヤしやがって楽しそうだな、オイ。
直球であの出来事のことを聞いてこの反応ってことは、絶対アレだけで終わるはずがない。
「何するつもりだ?」
「おいおい、まるで俺がこれから何かしでかすみたいな言い方じゃないか。
何の証拠があってそんなことを聞く?」
「お前が東大寺さんや安達さんと繋がってることは知ってるんだ。
そう考えると、これまでの東大寺さんの動きがおかしかったことに説明がつく」
本番前に聞く質問では絶対ないだろう。
それでも、妙なモヤモヤを残したまま本番に臨みたくはない。
もっとも、こいつがちゃんと答えてくれるかは別だが。
そんな俺の言葉に隼人は薄ら笑いを浮かべ、答えた。
「50点だな。確かに、俺は裏からあの女に指示を出してたのは事実だ」
「随分とあっさり薄情するんだな。ただ、50点ってのはどういう意味だ?」
「それは自分で考えることだな。ま、自ずとわかることだが。
いいか、拓海? お前は俺が投資するに相応しい男になってもらわないといけない。
だが、そのためにはお前のポテンシャルを最大に引き出す人間が必要だ」
「......どういう意味だ?」
「その答えの時点でお前はまだまだ精神が未熟だ。自己分析が足りていない。
俺はこれからもお前の行動に対し、時には邪魔をするし、試練を与える。
だが、勘違いしないで欲しいのはいつだって俺の立場はコンサルタントだ」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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