第157話 総評、収穫なし
大地と話した後からずっと聞かれた言葉が気がかりだ。
あれは俺のやっていることを知っているからのカマかけなのか。
それとも隠していることを白状させるためのカマかけなのか。
はたまた単に俺の反応を見たいがための行動なのか。
いずれにせよ気づかれていないとして動くものの、俺に与えた心理的影響は計り知れない。
これがバレて今更劇の役を投げ出すような男とは思わないが、それでもギクシャクしたような感じにはなってしまう。
そうなれば、最悪大地との友人関係の自然消滅ということもあり得る。
ただ、俺としては大地とはこのまま高校を卒業した後にも長い付き合いをしていきたいと考えてる。
しかし、現状で大地と下手に接触することは避けたい。
「となれば、大地に対して探るしかないよな......」
といっても、俺の交友関係は狭く深くであり、大地の友達なんて名前ぐらいしか知らない。
一部顔も一致する人物はいるが、それでも話したことない相手にいきなり大地について聞くのは怪しすぎる。
それにその行動が大地に伝われば、確実にあの時の会話による影響だとバレてしまう。
そうなれば後は芋づる式にありとあらゆることが引きずり出されかねない。
となれば、俺が話を聞ける相手はただ一人しかいない。
―――放課後
大地が部活で抜けた後の教室は相変わらず文化祭の準備が続けられてる。
背景班が床にブルーシートを引き、その上に置かれたベニヤ板に絵を縫っていたり、小道具班が舞台で使う小道具を作成していたり。
他にもこの教室以外で言えば、家庭科室では今頃舞台の衣装が作られてるだろう。
なんでか知らないが隼人が全面協力してくれてるので順調に作成されてるらしい。
どうやったらアイツから女性物の衣装が提供されるかわからないが、考えてみればアイツにはブラコンシスターがいるのでそこから上手く引き出したのかもしれない。
そんでもって、そんな作成班の横では監督玲子さんによる鬼指導がされている。
ちなみに、現在指導を受けてるのは空太とゲンキングと東大寺さんだ。
劇の内容で言えば最序盤のシーンと言ってもいい。
「いいかしら、“作品”というコンテンツである以上最も重要なのはスタートダッシュよ。
最初にどのくらい魂を込めた演技が出来るかでその後の出来が変わってくるの。
あなた達が中途半端な演技でやれば、その後どれだけ上手く演じようとも観客からは学生風情の陳腐な演技に見えてしまうのよ」
まぁ、確かに最初は大事よな。最初が上手く行けば、それに期待した観客が一定数つく。
とはいえ、その最初をどれだけの人が上手くこなせるのだろうか。
玲子さんは経験者だから言えるが、本当にド素人には実に酷な話である。
とはいえ、彼女も何も自己中な考えでそんな発言をしてるとは思わない。
なぜなら、作戦とか関係なくただ劇をやるなら恐らく玲子さん一人をメインで据えれば事足りるだろうから。
今回に関しては俺の都合で彼女は脇役になってしまったが、それでも彼女の役者としての誇りは熱心に伝わってくる。
きっと彼女は作戦を抜きにしてもこの劇を無事に成功させたいのだろう。だから、指導する。
まぁ、ただでさえ主役を食いかねない脇役だ。なんせもとは大女優だしな。
彼女が100パーセントのパフォーマンスをするためには、周りには500パーセントぐらい出してもらわないと困るのだろう。
「それじゃ、休憩にしましょ」
俺が台本を片手に読みながら練習風景を観察していると、どうやら一旦休憩タイムに入ったようだ。
そして、俺の横にはゲッソリとしたクールさの欠片も無い空太がドカッと座る。
俺が多めに買ってたスポドリの一本を「飲むか?」と与えてみれば、一口で半分まで飲み切りやがった。相当疲れているようだ。
「大丈夫か?」
「あぁ、なんとか......」
空太はそう答えるがもはや答えるのもしんどいのかもしれない。
すると、彼は玲子さんを見ながら口を開いた。
「にしても、あの人は何者なんだ? なんかやたら的確な指導してくるんだか。
中学の時に演劇部にでも入ってたとしか思えない......中学に演劇部なんてあるもんなのか?」
「さ、さぁ、俺と玲子さんは別の中学だし......」
とりあえず、言葉を濁しておこう。
どうせ玲子さんは一度目の人生で大女優でなんて言ったところで、そんな突拍子もない内容を信じられるとは思わない。少なくとも俺だったら思わない。
「そういや、ここ最近の大地の調子はどうだ?
俺、委員会の方でも動いてるからどんなんか知らないんだけどさ。
主役として玲子さんはやっていけそうと判断してるか?」
いきなり大地のことを聞くにしても不自然すぎるし、とりあえず遠回りで触れてみよう。
そんな質問に空太は「う~ん」と顎に手を当てながら考え始めた。
そして、少し経った後に口を開く。
「まぁ、俺が聞いた中じゃ要領は悪くないとは聞いてる。
気合もあるし、運動部所属だからか割と色々言ってもへこたれないとかで。
久川はどっちかっていうと東大寺の方を不安視してた感じかな。ムラッ気があるとかで」
「東大寺さんにムラッ気?」
まぁ、彼女の原動力は基本感情だからな。
感情という動力源に“彼女にとって良い事”という材料を投入することで活動する。
それこそその素材が良いほどニトロ爆発並みの推進力が生まれるわけだが。
ムラッ気があるとなるとどこ演技に集中できない理由があるということか。
......どうしよう、心当たりが多すぎる! もはや心当たりしかない気もする!
とはいえ、ここで俺が東大寺さんに下手に干渉していいものなのか、う~む。
とりあえず、今は玲子さんに任せよ。
「まぁ、玲子さんならそこら辺はどうにかしてくれると思うよ」
「......だといいがな」
さて、余談も挟んだ所で本題へと移りますか。
当然、俺が聞きたいことはここ最近の大地の動きについてだ。
「なぁ、ここ最近大地に何かあったか?」
俺は言葉を選んで質問した。
というのも、ここで「ここ最近の大地の調子はどう?」という質問はナンセンス。
仮に空太が隼人に遠隔で操作されてる場合、俺が大地について様子見されてると気づかれてしまう。
だからこそ、ここでの質問はあくまで俺がここ最近で大地の様子の変化に気付いた体でいく。
そうすれば、俺は大地のことを探ってる人物ではなく大地の様子を心配している友達となる。
「大地か、特にこれといって変わりないけどな」
まぁ、それはあくまで聞き出すまでの所作であり、俺が求めるような答えが聞けるかは全く別の話だが。
「そっか。いやさ、ここ最近大地が何か隠してるような気がしてさ」
「......それはお前が――いや、何でもない」
「え?」
おい、やめろ。そこで止められると気になるだろ。じらすな。
「なんだよ、言ってくれよ」
「いや、答えるまでもないというか......俺はあくまで観測者だからな。
こういう時は周りは手を出してはいけないと決まっている。世の常識だ」
「俺はその常識を知ってるのか?」
「知ってるだろうな。少なくともお前は俺と同じ類の人間だ。
だが、お前は当事者だ。だから、別に知ってなくてもいいのかもな」
「含みのある言い方やめろ。無駄にここでキャラ設定活かしてくんじゃねぇ」
「キャラ設定? なんのことだ?」
クール系の俺意外と回り見てるぞ的なキャラ演じじゃなかったのかよ。
素かよ。だったら、普段から素の方が割と格好突くかもしれないぞ。
「ともかく、大地のことは変わりない。つーか、幼馴染でも常に互いを知ってるわけじゃないしな」
「そりゃそうか」
「ただ一つ言えることがあるとすれば......」
「すれば?」
「アイツはバカじゃないってことだな」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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