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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第147話 一難去ってまた一難

 水族館での時間もとうとう終わりが近づいてきた。

 もう少しこの時間を過ごしたいかと言われれば、意外にも否と言える。

 いや、そもそもこんな状況じゃなかったら意見は変わってたか。


 そんな気持ちのまま、俺達は最後にお土産コーナーへとやってきた。

 友達に土産という意味合いもあるが、せっかくならこの四人でお揃いの物を買おうということになったのだ。


「わぁ、可愛い。ほら、浮き輪にハマったイルカだよ」


「たぶん、それは浮き輪をくぐってるシーンだと思うよ」


 興奮気味の東大寺さんについうっかりマジレスしてしまった。

 瞬間、彼女の顔が途端に赤くなっていく。

 「じょ、冗談ばい......」とか細い声で呟ているが、絶対ガチだったと思う。


「拓ちゃん、こっちのヒト〇マンなんかどう?」


「ある意味合ってるから絶妙にツッコみづらいな。もう少しザ・水族館って感じにしようぜ」


「なぁ、拓海、ワン〇ースコラボのやつあったぞ」


「それはまずもってほとんどの水族館で見られるだろうから別のにしなさい」


 なぜ全員して一度は俺に見せに来るのか。律儀に構ってる俺も俺だけど。

 そんな彼らから離れつつ、一人気ままに店内をぶらりと歩いていく。


 買い物かごにとりあえず友達用にお菓子系のお土産を適当に選びながら、俺もピンと来るキーホルダー的なものを探した。

 目についたものといえば、東大寺さんやゲンキングが見せてきたような水族館にいる生き物のキーホルダーだ。


 やっぱ人気な生き物のキーホルダーが多いようで、どれもデザインが良さげで迷ってしまう。

 お、このクラゲのミニ風鈴とか超いいじゃん! これにしよっかな。


「ん?」


 その時、俺はとあるキーホルダーが目に移った。

 金属製のプレートで片方がギザギザしていて、反対側がスペードの特徴的な形を縦に半分切ったようなものがある。

 そして、そのプレートにはイルカが彫刻されていた。


「なにこれ? どういう意図の形だ?」


 俺がジロジロとキーホルダーを眺めていると、そばに寄ってきたゲンキングが同じようなものを手に取って俺のキーホルダーとくっつけた。


「これはこういうやつだよ。ほら、ハート形になった」


「ほぉ、なるほど......」


 正直、俺の最後の旅行の思い出が数十年前だったからこんなものがあったか覚えがない。

 でも、たぶんこういうデザインは剣や龍のキーホルダーみたいに探せばどこにでもありそうか感じだ。

 だって、如何にも狙ってる感じだし。


「これはカップル同士が片割れずつ持って二人で一つを表してるんだよ。匂わせにも使えるね、たぶん」


「まぁ、なんとなくイメージは出来るけど、結局これってハートが割れてるわけで縁起悪くね?」


「悪いと思ってるから悪くなるんだよ。つまり、良いと思えば良いものになるの」


「結局、自己解釈次第か......」


 だとすれば、すぐさまネガティブに感じた俺には持っててもあまり縁起の良い物にならなさそうだな。

 つーか、これは持ってるだけで恥ずいぞ。気づく奴は気づくだろうし。隼人とか。


「なるほどね~。ま、俺はこっちの風鈴の方が良いな」


 そう呟きながら俺は手にしていたキーホルダーをもとの位置に戻そうとする。

 その時、隣で俺の行動を眺めていたゲンキングの一言に俺の動作は止まる。


「戻しちゃうの?」


 まるで買わないの? という質問と同義のような言葉に思わずゲンキングを見た。

 彼女は俺と目が合えば、イタズラっぽい笑みを浮かべて自身が持っている片割れを掲げる。


「せっかくだからお揃いにしようよ――皆で」


「......皆で?」


 ゲンキングの言葉に首を傾げた。

 つーか、こういうのってグループで買うものじゃないだろ。


「普通に生き物のキーホルダーにすればいいんじゃない? わざわざこんなデザインにしなくても」


「いいじゃん。面白そうだし。それにしばらく一緒につけた後で私達がコッソリ外せば、琴ちゃんと薊君の匂わせにもなるじゃん」


 そういう意味か。しかし、それはなんというかあからさまではなかろうか。

 きっとそういう噂が出始めた時には、必ず俺達がつけてなかったこともバレる。

 その場合、バレた方が友情関係の溝は深くなるんじゃないか?

 いやまぁ、ものすごくブーメランを言ってる自覚はあるけど。


「私がどうしたの?」


「「っ!?」」


 タイミング悪く東大寺さんがこっちに寄ってきた。

 咄嗟に俺は手に持っていたものを隠したが、ゲンキングは隠せておらず。

 東大寺さんの視線がゲンキングのキーホルダーに移ったことで状況は知られてしまっただろう。


「唯華ちゃん、それ買うの? 拓海君と一緒に」


 勘が鋭いというかなんというか。

 まぁ、俺の動きも明らかに怪しかったしバレるのは時間の問題だと思ったけども。


「いや、全員で買おうかって話してただけだよ。ま、冗談半分だけどね」


 半分本気だった事実に驚きだ。

 それを利用した作戦は明らかな悪手だってことはゲンキングだってわかってるだろうに。

 いや、もしかして東大寺さんに否定されることで引き際を作ろうとしてるのか?


 東大寺さんは飾ってあるキーホルダーを手に取り、それをまじまじと見つめる。

 瞬間、途端にこっちへ視線を向けてきた。


「一緒に買おっか」


「正気か?」


 やべ、思わずツッコんじまった。しかし、言ってしまった以上もう元には戻せない。

 くっ、仕方ない。ここはもうこっちの気持ちを洗いざらい話すか。


「すまん、ちょっと言い過ぎた。だが、それって普通カップルとかその関係に準ずる人達が買うのであって、俺達には過ぎたる物なんじゃないか?」


「先行投資と思えば」


「え?」


 おっと、え、今俺......実質告白されました? いとも簡単にあっけなく?

 冗談かと思えば、本人は至っていつも通りだ。俺の反応に疑問に思ってる顔。

 あ、これ言ってる意味自分で理解してないパターンのやつ。

 となれば、ここは余計な傷口を作る前に俺も知らぬ存ぜぬで突きとうそう。


「......ともかく、それはきっと二人で持つものだから意味があるものであって。

 仮にも俺はそれを大地と同じのを持ってることを知られたら恥ずかしいって次元じゃないのよ」


「だったら、この三人で買えばいいんじゃない?」


 東大寺さん、今ナチュラルに大地を省いたな。

 いくらアイツの立ち直り早くても好きな人相手からそんなこと言われたら泣いちゃうぞ。

 それにそれはそれで周りに知られるようなことが起きたら俺の評価が!

 せっかくここ最近順調に上がってるのに株価大暴落なんて嫌だよ!


「それなら、二人でやってくれ。俺は止めておく。

 それに一緒に同じ思い出作った証拠なんて俺達が知ってれば十分だろうしな。ゲンキングもそう思うだろ?」


「.......う、うん、そうだね!」


「......」


 それから俺達は各々気に入ったキーホルダーを買い、それを見せ合った。

 他愛のない会話をしながら、マイホームがある街まで戻ってくると駅で解散とした。


「.......ハァ、今日はなんというか疲れた。色々な意味で」


 両手に友達用のお土産を持ちながら、愚痴を吐いてトボトボと歩く帰り道。

 本当はもっと幸せな思い出に包まれたかったが、俺の脳内は苦悩でいっぱいだ。


 一応、本来の目的は8割ぐらい達成できたと思う。

 されど、同時に発生した問題が非常に対処に困るというか。

 何がゲンキングをあそこまでバグらせたか原因を知らなければ対処できない。


 やがて見えてきた我が家。

 なんだかんだで家に帰ってくるとすごく安心感がある。

 とりあえず、未来のことは未来の自分に任せて今日は休もう。


「ただいまー」


「おかえりなさい」


 聞き覚えのある声にギョッとした。

 下を見れば見覚えのない小さめの靴があり、少し視線を上げれば黒いタイツが目に入る。

 俺は恐る恐る顔を上げた。


「遅かったわね。水族館は楽しかった?」


 なぜ家にいるのかわからない永久先輩を見て土産袋を落とし、背後でゆっくりと玄関のドアがしまったのを感じた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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