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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第140話 最低最悪な必要悪

 翌日、俺は学校生活の大半を思考に費やしていた。

 もちろん、その議題は昨日永久先輩に言われたことだ。

 ぶっちゃけその通りだと思うから考えてしまう。

 そんでもって、今日は全く身が入らなかったな。

 ぼんやりと考えながら歩いていると、背後から聞き覚えのある声がかけられた。


「拓海君......拓海君!」


「え?」


 ガシッと肩を掴まれ、咄嗟に振り返る。

 相手は案の定玲子さんだったが、珍しく焦ったような顔をしている。

 瞬間、四トントラックが正面を通り過ぎ、遅れて風が髪を揺らした。


「あ、赤信号......」


 あれ、さっきまで教室にいたはず......いつの間にこんな場所まで。

 ということは、玲子さんは赤信号で進もうとした俺を止めてくれたのか。


「ずっとぼんやりしてたけど大丈夫? 顔色は悪くなさそうだけど、周りが見えなくなってるぐらいには酷そうね。どうしたの?」


 優しくかける声がいつも以上に優しく感じる。

 勝手に傷心気味になって出来た傷口に沁み込んでくるように。


「ついて来て」


 玲子さんは俺の手を引き、歩き出す。

 彼女に連れて行かれるままにやってきたのは巨大な建物の前。

 いつかの前に見た玲子さんの家があるリッチなマンションである。

 

 為すがままに玲子さんの家にお邪魔すると、彼女は俺をリビングの椅子に座らせる。

 そして、俺の正面に座り、顔の前で手を組んで鋭い目つきを向けた。


「拓海君、私はあなたが悩みを話すまで帰すつもりはないわ。今のままだと危なっかしいもの」


「......いやいや、大丈夫だって。さすがにボーッとしすぎてたけど、もう思考も切り替えたから」


「......」


 俺の戯言を一切信じていないような目。

 珍しく怒気も感じるような真剣な目に、俺の乾いた笑いも次第に尻すぼみになっていく。

 これは本気で悩みの話を言わないと返してくれなさそうだ。


「......実は――」


 俺は昨日永久先輩と話したことを玲子さんにも伝えた。

 それは大地の恋路のこともバラシてしまうことになる。

 だが、俺が話した相手はどちらも口が堅い相手だ。

 まぁ、俺が軽すぎるのかもしれないが。


 その話を玲子さんは表情も動きも視線も微動だせず聞く。

 その溢れ出る凄みがちょっと怖かった。

 全てを話し終えた後の玲子さんの一言目は永久先輩の助言の同意だった。


「それは確かにあのちんちくりんの言葉が正しいかもね。

 好意というのは自覚した当人が行動して初めて意味を為す。

 それを考えてもいなかった人へと押し付けるような真似はお節介に変わりないでしょう」


「まぁ、だよな......」


「だから、私は金城君が嫌いなのよ。純粋な勝負があの男の挙動でかき乱される。

 もっとも、夏休み以降から妙に大人しいけど一体何を考えているのか」


 なぜそこで隼人の話が出てくるのか。

 あの男はまた玲子さんと一悶着を起こしたのか。

 全く少しは仲良くする努力をして欲しい。


「でもまぁ、拓海君が大事な友達である薊君に協力したいという気持ちはわかるわ。

 だって、あなたにとって初めて出来た友達なんでしょう?」


 最初に出来たのは隼人なんだが......まぁ、アイツは悪友というか、上司というか。

 確かに、俺がまだクラスに馴染んでない頃に初めて対等に接してくれたのは大地だったな。後、空太。


「俺はどうすべきかな。どうにも踏ん切りがつかないんだよね」


「それは中途半端な優しさを見せてるからでしょう」


 俯いていた視線が玲子さんに向く。

 いきなり確信を突かれたような気分になった。


「拓海君が過去の過ちから縁を大切にしたいと思うのは良い事よ。

 そこがあなたの美徳だと私は思し、今後も大切にして欲しい。

 だけど、優しい嘘があるように辛い優しさっていうのもあるの。

 それが今の悩みの正体。半端はダメってこと」


「......」


「あなたはこれまでの過去を振り返り、自分のして来たことは偽善だと思う?」


 偽善、か。ゲンキングに対し取った行動も、隼人に対して言った言葉も、先輩に言った言葉も全て本心だ。

 少なくとも、偽善なわけがないと思っている。


「それは違うと断言できる」


 そう言うと玲子さんは今日初めて笑った気がした。


「そう。なら、私から送るアドバイスは一つだけ。

 拓海君――あなたは嫌われる覚悟を持ちなさい」


「嫌われる覚悟......」


「結局、相手の心は言葉にしないと見えないことが大半だわ。

 だから、拓海君が優しさでしてあげたことも相手にとってはありがた迷惑かもしれないし、最低な行動が相手からすればそこまで悪い評価にならなかったりする。

 でも、それは結局相手の意志によるものでしかない。

 そのための嫌われる覚悟。ま、一種の精神の自己防衛のようなものよ」


「......なるほど。“言い訳”という逃げ口を用意しておくのか。

 まさか玲子さんからそんなダーティな提案をされるとは思わなかった」


「あら、意外だった? 私は自分の欲しいものだったらそれなりに手段は選ばないつもりよ」


 玲子さんの精神の強さの根幹はこれだったのか。

 いや、さすがにこれが全部じゃないだろうし一部だとは思うけど。

 そりゃ、俺が玲子さんの思考を読めんわけだ。

 逆に、彼女からすれば俺の単純な思考はなんとも読みやすいことか。


「後は拓海君次第。拓海君が東大寺さんにとってどういう存在でありたいか、薊君にとってどういう存在でありたいかを取捨選択するの。

 きっとあのちんちくりんはこんな言葉を言いたかったのでしょう。

 だけど、真っ直ぐな拓海君が悩むことは目に見えてただろうに」


「......わかった。やるからにはキッチリとやんなきゃってことだよな」


「こういうアドバイスをした手前、聞くのは野暮だと思うけど一応聞くわ。

 それってあなたのこれまでの行動の意味に反することだってわかってる?」


 それは玲子さんが言ってくれた“縁”を大事にするってことに対するものだろう。

 確かに、俺のこれからの行動はそうするということなのだろう。

 しかし、これまで甘い考えでいたのは俺なんだ。


「両想いの連中をくっつけようってわけじゃないから仕方ないことさ。

 それに俺も俺なりにケジメはしっかりとつけるし、正々堂々と行こうと思う」


―――金曜日


 早くも放課後になり、部活で大地は教室を去っていく。

 その姿を確認した上で、俺は予め受け取っていたチケットを片手に東大寺さんに声をかけた。


「東大寺さん、少しいい?」


「え......う、うん!」


 東大寺さんを人気のない所に呼びだすと、俺は持っていたチケットを渡す。


「これは......水族館のチケット?」


「そう。たまたま手に入ったからね。良かったらどうかなって」


「こ、こここれって二人でってこと!?」


 その返答に俺が首を横に振ると、途端に東大寺さんは「そっか」としょげた顔をする。

 さて、これから言うことは確実に酷いことだ。

 なんたって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだからな。


「東大寺さん......俺は東大寺さんの気持ちになんとなく気づいてる」


「え.......えぇ!?」


 東大寺さんの顔が真っ赤になる。

 そりゃ、そうだ。気持ちが見透かされてたなら誰だって恥ずかしくなる。

 それも好きな相手からなら尚更。


 俺が東大寺さんからの好意的な何かがあることは知っていた。

 しかし、それが確信に至ったのは玲子さんに指摘され、同時にゲンキングにも、隼人にも確認を取ったからだ。


 言わば、好意を寄せられてる当人が気づかない他人からの視点でどういう状態なのか。

 周りの人の方が良く見えてるのなら、周りの人に確認するのが一番手っ取り早い。

 だからこそ、()()()()には十分すぎる理由だ。


「今から、俺は君に最低なことを言う」


「......え?」


「俺は君の気持ちに応えられないけどさ。一緒に水族館行かない?」


 俺は自分の幸せよりも、友達の幸せを望む。

 それが俺がこの場で取るべき行動だと思ったから。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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