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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第139話 自分の意思、相手の意志

 とある街で商人を営む一家があった。

 その一家の一人であるヒロインは醜悪な性格をした二人の姉とは違い、心優しく育った。


 そんな中、商人一家は事業に失敗し、自らの店をたたむことに。

 街を離れることになったヒロインは父親に「一つだけ美しい花が欲しい」とねだるが、それを変えるだけのお金ももはや残っていない。


 そんなある日、とある屋敷を見つけた父親はそこで美しい花が咲いてることに気付き、こっそり忍び込んで花を取ろうとした。


 しかし、それは屋敷の主であるブタの姿をした男爵風の男に見つかる。

 「これは私が丹精込めて育てた美しい花だ。許可なく取ることは許さない」と告げるブタ男爵に、父親はその悍ましさから怪物と思って斬りかかる。


 だが、ブタ男爵の巧みな剣技で返り討ちにあう。

 商人や姉達はヒロインを差し出すことで命ごいをした。

 それを受け入れたブタ男爵はヒロインと過ごすことになる。

 しかし当然、ヒロインは人の姿をしていないブタ男爵をすぐに受け入れることが出来なかった。


 そんなヒロインに対し、ブタ男爵は「三か月だけ友達になって欲しい。それで君を開放する」と頼む。

 父親との戦いを見ていたヒロインは逃げられないことを悟って三か月だけ過ごすことを決意した。


 最初こそブタ男爵の見た目から警戒していたヒロイン。

 だが、ブタ男爵の気遣いや優しさに触れていくうちに見た目の姿が気にならなくなっていく。


 それどころか姉達にいびられながらも必死に生活していた日々とは違い、自分のしたことが自由にでき、毎日がワクワクする環境にすっかり居心地が良くなってしまった。

 そんな日々はあっという間に過ぎていき、約束の三か月まで残り一週間となった。


 幸せな暮らしとのお別れが近づいてることの悲しみ、また姉達にいびられる毎日への不安。

 それらの気持ちがカウントダウンのように日数が減っていくうちに募っていき、もっと今の環境にいたい、もっとブタ男爵と楽しく過ごしていたいと思う気持ちが強くなるヒロイン。


 残り数日となったある日。

 騒がしい音が聞こえる外にヒロインが目を向ければ、父親が騎士をつれてやってきていた。


 父親の要求は「ここに住む化け物に囚われた大事な娘を返せ」というもので、ブタ男爵はそれを受け入れてヒロインを返す。

 だが、それだけに飽き足らず父親は騎士達にブタ男爵を倒すようにも頼んだ。


 たくさんの騎士達に囲まれ必死に足掻くブタ男爵であったが、ついに傷つき動けなくなる。

 騎士の一人がブタ男爵にトドメを刺そうとした。

 その時、ヒロインが待ったをかけて制止させて、ブタ男爵を守る。


 ヒロインは父親にブタ男爵を慕っていると伝えると、目の前でキスを交わしてみせた。

 すると、ブタ男爵の姿はみるみるうちに変化していき、やがて一人のイケメンな王子様へと変わる。


 その王子様の姿を見た騎士たちは、かつて国から突如として消えた王子だと知り、王子もまた魔女によって姿を変えられていたことを伝えた。


 父親が雇った騎士達は王子へと願えり、孤立無援となった父親の処罰を求めらてた王子様はその願いをヒロインに尋ねる。


 ヒロインは「自分を助けてきてくれたから許す」と王子様に要求し、心優しいヒロインの言葉に心打たれた王子様は願いを受け入れた。


 その後も王子様とヒロインの交友は続き、やがて王子様はヒロインを婚約者とすると幸せに暮らしましたとさ。


****


 .......というのが、台本の内容だ。

 内容の基本軸は「美女と野獣」をモデルにしたようで、内容は永久先輩風に改変されている。


 ぶっちゃけ内容は分かりやすくて凄く良い。

 俺もこれを劇としてやれるなら胸を張って頑張れると思う。

 さすが先輩と尊敬する――一つだけ気になることを解消できれば。


「あの......まぁ、ブタ男爵って感じからもそうですけど、何よりセリフの上にすでに俺の名前が書いてあるんですけどこれは?」


「え? 当然主役でしょ? というか、拓海君ベースで考えたんだから、拓海君のほかありえないでしょ」


「演目を私物化しないでください。キャストはまだ決めてないんですから」


 なんで俺がおかしいこと言ってるみたいな顔してるんだこの人。

 「あのストーカーは偉く感動してたわよ」と先輩が言ってくるが、それですぐに「はい、やります」とはならんのよ。


 うわぁ、やべぇ......内容はいいのに、俺のプランには削ぐわねぇ。

 大地と東大寺さんの仲を深めようってのにこの内容9割方俺じゃん。

 単純接触効果の説を語るとなると俺の方が接触回数多くなるんだけど。

 くっ、大地よ! なんでお前はこう無駄に顔だ良いんだ!


「それじゃ、この台本は没ってこと? となると、困ったわね。

 これでイケると思ってたから別のネタなんて用意してないわ」


「自信を持つのはいいですけど、せめて相談してほしかったですね。

 内容としては面白いですし、わかりやすい。むしろ、やりたいぐらいです。

 ですが、この内容だと俺の思惑にそぐわないんですよ」


「もしかして、それが最近例の隠れ陰キャ娘と話していない理由?」


 隠れ陰キャ娘って随分な言い方だな。

 つーか、なんか俺の周り察しが良すぎる人多くない?

 なにか、地頭が良いとエスパー系にでもなるのか?


 俺は先輩に現在の事情を話すことにした。

 この台本を多少改変してもらうには先輩の力は必要不可欠だ。

 加えて、先輩はよその恋路にちょっかいかけるほど野暮じゃないだろう。


「なるほど、そういうことね。つまり、この劇を利用して君の友達とあの暴走娘の仲を深めたいと」


「はい、そういうことになります」


 先輩は俺の意志を聞いて腕を組んで何かを考え始めた。

 こういう姿はなんだか知的な様子でとても絵になる。


「ワタシ的には実害も何もないから協力してあげるのはやぶさかでもないわ。

 でも、そういう行動をするということは少なからず相手の意志を無視する覚悟を持っておいた方がいいわよ」


「無視、ですか?」


「当然じゃない。こっちの勝手な都合で二人をくっつけようとしてるんだから。

 君に協力を頼んだのは薊君なのでしょう?

 対して、くっつけようとしている暴走娘の方には薊君に好意を寄せているという確証はない。

 敵に塩を送るわけじゃないけど、相手に好きな人がいないなら未だしも、すでに誰かに好意を抱いてる状態ならそれは酷い仕打ちを受けていると変わらないわ」


「......」


「そこら辺の覚悟をしっかり持ってる?」


 そう言われるとすぐに返事は出来なかった。

 俺は大地の考えだけを優先して、東大寺さんの考えていることを蔑ろにしようとした。

 つまり、俺が望む結末に一人の人生を捻じ曲げようってことだ。


 そう考えると俺にそんな資格はあるのだろうか。

 それって見方を変えたら、俺をイジメて人生をメチャクチャにした不良グループと同じってことにもなるんじゃないか?


「言っておくけど、誰もが幸せになる方法はこの世界にはないわ。

 だけど、自分で納得して幸せな結末だと落とし込むことで感じる幸せはある。

 要はなるようになった結果を受け入れることで得る幸せってことね」


「受け入れる幸せ......」


「今の拓海君にはそれを決められる度量もなければ、覚悟もない。皆が大切だと思ってる限りはね。

 今はそれでいいかもしれないけど、必ず選択しなければいけない時は来る。

 その時にあなたは一体どこまで私達を納得させられるかしら?」


「なら、止めた方がいいってことですかね......」


「それを決めるのはワタシじゃない。選択するのはあなたよ、拓海君。

 言っておくけど、意志が強い人ほど制御は難しいと思うわ。

 だって、自分の中に確固たる信念があるんだから」


 先輩はベッドから立ち上がると床に置いてあったスクールバッグを手に取り、ドアノブに手をかけた。


「ネタの方は再考してあげるわ。ただ、あなたの案だとほぼほぼ『美女と野獣』のネタになると思うけど」


 先輩は俺の部屋を出ていく。

 静かになった部屋の中で俺は床に寝そべり、そっと目元に腕を乗せて天井の光を遮った。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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